大阪府豊能・三島地区における広域での薬薬連携をめざす取り組み

公開:2023年09月26日

大阪大学医学部附属病院薬剤部
薬剤部長
奥田 真弘 先生

大阪大学医学部附属病院薬剤部
副薬剤部長
山本 智也 先生

大阪大学医学部附属病院(阪大病院)では、大阪府北部に位置する豊能・三島地区の病院や地域薬剤師会と連携して、事前同意に基づき院外処方の薬局での変更調剤を可能とする共通プロトコル「変更調剤PBPM」を運用し、さらなる広域での連携をめざしています。今回、薬薬連携の構築に尽力されてきた阪大病院薬剤部長の奥田真弘先生、副薬剤部長の山本智也先生に、広域で薬薬連携の体制を組織し運営するポイントや、がん領域を含めた薬物療法における情報共有のしくみ、顔の見える関係作りなどについてお話を伺いました。
(取材日:2023年4月24日、取材場所:千里ライフサイエンスセンター)

施設情報
大阪大学医学部附属病院
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2番15号
病床数1,086床
薬剤師数102人(うちレジデント26人、薬学部教員3人)(2023年4月時点)
事務職員数13人

第3回 薬薬連携をより一層、強固にするために
〜がん領域を含めた薬物療法の質向上に向けて

各種セミナー、研究会により薬薬連携を深める

吹田がん薬薬連携セミナーの取り組み

山本 がん診療連携拠点病院はそれぞれに薬局薬剤師を対象にした研修会を開催していますが、吹田地域では、地域がん診療連携拠点病院である当院、市立吹田市民病院、済生会吹田病院、済生会千里病院の4病院が吹田市薬剤師会と連携して、2021年9月から吹田がん薬薬連携セミナーを開催しています。同セミナーでは、地域の薬局薬剤師向けに各病院のがん治療に関する情報提供や、実際にがん薬物療法を担当する中堅もしくはベテランの医師による最新のがん薬物療法などの特別講演を行っています。講演内容などについては、4病院と吹田市薬剤師会の代表者からなる吹田がん薬薬連携研究会で議論し決定しています。このセミナーはがん治療の薬薬連携が主目的ではありますが、人と人のつながりなど病院間の連携も深めていきたいと思っています。

阪大病院地域薬学ケア研究会の取り組み

山本 吹田がん薬薬連携研究会が比較的広いエリアを網羅しているのに対して、阪大病院地域薬学ケア研究会は、当院と処方箋応需薬局の間で本音を話せる場として年に2回ほど開催しています。奥田薬剤部長を代表運営委員として、4つの門前薬局の管理薬剤師と吹田市薬剤師会長、茨木市薬剤師会長が運営委員を務めています。2020年9月に第1回を開催し、2023年3月に第6回まで開催しましたが、コロナ禍により第2回以降はハイブリッドも含めたウェブ開催となっています。

奥田 集合開催の場所は、できるだけ当院内の会議室にしていますが、これには、普段、敷居が高いと思われがちな大学病院へ地域の薬局薬剤師に気軽に足を運んでもらいたいという意図があります。これから可能であれば、研究会後に懇親会を開催するなどして、本音で身近な問題を話し合えるように顔と顔が見える関係を深めたいと考えています。

がん領域以外の多様な薬薬連携

薬局薬剤師のスキル活用に向けて多様な薬薬連携を推進

奥田 薬局薬剤師による吸入指導は、2020年度より調剤報酬上も評価されるようになりましたが、医師からの依頼が必要ということもあってあまり活用されていませんでした。そこで、院外処方箋上で薬局薬剤師に吸入指導を手軽に依頼できる仕組みを取り入れました。その促進も念頭に、2023年3月の第6回阪大病院地域薬学ケア研究会では吸入指導をテーマに取り上げています。
 また、当院はエイズ治療拠点病院に指定されており、これまでは院内調剤を基本方針としていました。しかし、他の医療機関では院外処方に切り替え、薬局でHIVのフォローもする傾向にあります。当院でも新たに感染症内科の医師が赴任されたのを機に、院外処方の準備を進めています。
 このような院外処方の推進は、病院薬剤師の働き方改革にもつながると考えています。そして、院外処方の活用を進めるとともに、薬局薬剤師の役割を果たしてもらえる支援をしていきたいと思っています。

おわりに 〜薬薬連携推進にかかわる課題、展望

情報提供によって病院・薬局薬剤師が一緒に患者ケアに貢献できる環境を

山本 薬剤師一人の力でできることは限られています。仲間がいるからさまざまな取り組みができると思います。限られたマンパワーのなかで、病院薬剤師と薬局薬剤師が一緒になって同じ薬剤師として効率的に患者さんのケアに貢献していくことが重要であると考えており、最近はその地盤が作られてきていると思います。病院薬剤師が想像する以上に、薬局の現場では情報が少ないなかで患者対応をせざるを得ないと思いますので、必要な情報を積極的に提供していく必要があると思っています。
 私は、先ほどご紹介した吹田がん薬薬連携セミナーなどの薬局向けの研修を担当していますが、がん患者さんの処方箋はたまにしか応需しないという薬局も多くあります。そのため、今後、より一層、保険薬局薬剤師を対象としたがんに関するベーシックな教育研修や人材育成という課題に取り組んでいきたいと思っています。

タスクシフト/シェアや機械化・自動化によって薬剤師に求められる役割を果たす

奥田 変更調剤PBPMは、働き方改革の議論が始まる前から、当院薬剤部の業務のスリム化・改善の手法の一つとして積極的に取り組んできました。近年は薬剤師に求められる業務が増え、特に病院薬剤師においてはその傾向が顕著だと思います。それは、チーム医療において重要な役割を任されるチャンスでもあり、積極的に取り組んでいく必要があると思います。
 ただし、他職種から期待される業務のなかには、薬に関連していても薬剤師の専門性を必要としない業務もあり、事務系職員の活用や機械化を進めることで、むやみに薬剤師の負担が増えることは避け、適切に選り分けながら引き受けていく必要があると思います。特に処方の適正化に関しては薬剤師がその役割を担い、患者さんに適切な薬物療法をフィードバックすることが求められていると思います。病院薬剤師が果たすべき役割はまだ多く、実現できていないこともあります。それらの推進のためにも、薬剤業務においてタスクシフト/シェアや機械化・自動化を積極的に進めていくべきであると考えています。

病院・薬局薬剤師が共通認識をもち顔の見える関係構築を

奥田 病院だけに長く勤務してきた薬剤師は、薬局薬剤師がどのようなことに困っているかが見えていないと感じています。病院薬剤師はカルテの情報や医師の治療方針などをリアルタイムに知ることができるので、それらの情報を基に考えることができます。薬局薬剤師が得られる情報が乏しいことは病院薬剤師にも想像はつきますが、しかし、具体的にどのような情報があれば、患者さんに対して自信をもってコミュニケーションを図れるか、医師に対して処方提案ができるのかまではわからずにいると思います。6年制薬学部を卒業した病院薬剤師は薬局実務実習も受けていますので、以前に比べればその認識は改善されていますが、まだ想像がつかないことは多いと思います。逆に薬局薬剤師側も病院経験が一度もないベテランほど、病院や薬剤部の現状について想像の域を出ないのも事実だろうと思います。
 その垣根を低くするためには、お互いに普段から共通の認識をもって話し合い、顔の見える関係を保っていくことが大事だと思います。お互いの理解が足りない点を補い関係を深めることは、一番苦労することでもあり、一番大事なことでもあると思います。

持参薬確認業務は薬局で行うことが理想的

奥田 具体的な課題の一つとして、持参薬確認業務は、理想的にはかかりつけ薬剤師が入院前に把握しておくべきではないかと私は考えています。現状では、かかりつけ薬剤師が普及しておらず、また、患者さん自身がその役割を意識していないことも課題としてあると思います。その結果、入院後に限られた時間のなかで、病院薬剤師が持参薬確認業務に時間を割かざるを得ません。入院前に薬局薬剤師が持参薬を整理し、患者さんに情報をもたせてくれれば、病院薬剤師は情報確認の業務のみで済むと思います。

薬薬連携や高度薬学管理機能の先駆的取り組みであるがん薬物療法からその先へ

奥田 がん領域の専門医療機関連携薬局の認定要件として、地域薬学ケア専門薬剤師などの専門知識をもつ薬剤師の配置が掲げられています。当院では、薬局からの専門薬剤師研修を受け入れており、現在は1名が研修中です。その研修中の薬局薬剤師によると、がん治療を受けている外来患者さんは、がん以外の患者さんに比べて薬局薬剤師を頼りにしてくれる印象があると聞きました。おそらく病院薬剤師や医師、看護師から外来化学療法を受けるなかで、薬局薬剤師に相談するように案内されているのではないかと想像します。また、さまざまなメディアを通して、がん治療中の相談先として薬局薬剤師が取り上げられたのではないかと推測します。最近の薬剤師を巡る世の中の変化の現れの一つではないかと感じています。
 近年、薬局薬剤師は、服薬指導や副作用のケア、自宅療養時の電話フォローアップなどを通じて、時系列に沿って継続して患者さんのケアにかかわるようになってきました。その先駆的な領域が、がん薬物療法であると思います。そして、例えば、認知症や心不全などの退院後管理などにおいても薬局薬剤師の役割が重要視されており、がん領域以外にも拡大していくことを期待しています。
 がん領域においては、病院薬剤師を含むチーム医療から始まり、薬局薬剤師にも展開されてきたように、今後、他の領域においても、病院から薬局へ拡大していくのではないかと予測しています。薬局薬剤師と病院薬剤師が地域と医療機関における両輪として連携を深めることで、医療の持続的な発展に繋がることを願っています。

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