保険薬局におけるがん患者さんへの服薬指導のポイント 〜“壁”を乗り越えるための具体的な応対や研修などの実践方法

公開:2023年2月1日
更新:2023年11月

総合メディカル株式会社 学術情報部 兼
そうごう薬局 天神中央店 上級専門薬剤師
外来がん治療専門薬剤師、
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)

本田 雅志 先生

 がん患者さんへの応対には“壁”があると言われています。今回、その“壁”の要因を明らかにし、取り払うために尽力されてきた総合メディカル株式会社 学術情報部 兼 そうごう薬局 天神中央店 上級専門薬剤師 本田雅志先生に、保険薬剤師ががん患者さんのためによりよい応対を実践するポイントや、現場で抱く疑問への解決策、大切な心構え、若手の研修・育成方法などを具体的な事例なども交えながらご解説いただきました。
(取材日:2022年6月30日、取材場所:日本化薬株式会社福岡支店)

第3回 押さえておきたい電話フォローアップ、研修・育成などのポイント

 がん患者さんへの応対に感じる“壁”を乗り越えて、いかにしてがん患者さんの役に立つ服薬指導を実践できるのでしょうか。ここでは、具体的ながん患者さんへの電話フォローアップの事例を紹介し、その流れやポイント、服薬指導の現場で遭遇する課題・疑問への解決策、若手の研修・育成方法などを本田雅志先生にご解説いただきました。

電話フォローアップのポイント

電話フォローアップ事例紹介

 そうごう薬局 天神中央店では、クリニカルパスの追加版として、副作用の症状ごとに確認内容や応対方法をまとめたフローチャートを作成しており(図18)、電話をする薬剤師はこれをもとに応対しています。ここでは、標準的な介入ができた電話フォローアップの事例をご紹介します。

[事例]

40代女性。乳がんの術後化学療法の後、単独化学療法を開始。
1コース目day 8の電話フォローアップにて、点滴3日後から片側下肢の浮腫があり、その後4日間は仕事を休んだ旨を確認。体重は治療開始前より1 kg増加。下肢の浮腫は弾性ストッキングやマッサージで軽快したが、立ち仕事のため今後も浮腫が起こると辛いとの訴えがあった。

[具体的な応対内容]

①浮腫のフローチャート(図18)に沿って、仕事を休んでいることから「腫れによる生活への支障」があると判断しました。これは、CTCAE v5.0における浮腫のGrade 2「身の回り以外の日常生活動作の制限」に相当すると考えられました。

②次にフローチャートを進めて「ステロイド、利尿薬など支持療法薬が処方されている」を確認すると、利尿薬の処方はなく、抗炎症薬が1日目の夕方から2日間処方されていました。

③さらにフローチャートを進めて「支持療法薬がきちんと飲めているか」について、抗炎症薬を確実に服用した旨を確認しました。

④抗炎症薬を服薬しても症状があり欠勤していることから、フローチャートに従って最終的に「病院に連絡」が必要となりました。

⑤保険薬剤師より、病院薬剤部を通して医師へ情報提供書をFAX送信し、「抗炎症薬を飲み終わったday 4から片側下肢に浮腫が出現し、仕事をお休みされています。次回、利尿薬の追加もご検討ください」と処方提案しました。

⑥結果として、2コース目に利尿薬が追加となりました。

⑦その後、2コース目day 1、2コース目day 6に電話したところ、利尿薬を飲んでから浮腫はあまり感じないが、今度は血圧が収縮期血圧100 mmHg台から85 mmHgに低下し、頭痛やだるさが辛いという訴えがありました。

⑧降圧作用のある利尿薬の用量が多過ぎるのかもしれないと考え、患者さんから病院に電話するように提案をしました。

⑨その日に患者さんが病院へ電話をして症状を話すと、利尿薬の1回量を減らす指示がありました。

⑩数日後、再び患者さんに電話すると、利尿薬減量後、血圧は安定して浮腫も悪化せず、副作用をコントロールできていました。

電話フォローアップの概要

 電話フォローアップの導入から実施に至る流れを図19に示します。まず来局時に電話フォローアップの同意を得る際に、かかりつけ薬剤師が電話をかけることを伝えるのがポイントです。誰が電話するかわからないよりも、かかりつけ薬剤師が電話すると伝えた方が信頼につながり、そこで断られたことはこれまでほとんどありません。
 電話では、そのとき患者さんが一番困っていることをまず聞いたうえで、レジメンごとに発現しやすい副作用や、病院からの情報提供に基づいて特に注意すべきことを中心に聞いています。また、緊急を要する対応が必要な場合は病院の受診を勧奨します。あるいは、緊急受診が必要か保険薬局から病院に確認することもあります。次回受診時でも間に合う処方提案など緊急の対応が必要ではない場合は、情報提供書で報告します。
 その他、電話フォローアップ時に話す具体的なフレーズをまとめた資料を作成しており、会話の基本が流れに沿ってわかるので応対する薬剤師の安心感につながると思います(図20)。

がん患者さんから上手に話を引き出すポイント

がん患者さんから話を引き出す一般的なポイント

 専門医療機関連携薬局の基準に、プライバシーに配慮した相談しやすい構造設備として座って服薬指導を受ける個室などの設置が求められています。がんであることを他の人に知られたくない患者さんのために作られた基準だと思いますが、患者さんからしっかりと悩みを聞くためにも、この空間はあらためて必要だと感じています。立つのではなく座るという姿勢が重要で、座って話す方が患者さんも想いを打ち明けてくれると実感しています。患者さんの精神状態への配慮は必要ですが、配慮していることが伝わればいろいろな相談をしてくれます。
 また、かかりつけ薬剤師であることが、聞き取りの質の向上にもじわじわと効いてくると感じています。かかりつけ薬剤師に指名してもらうための心がけとしては、がん患者さんを自分が担当してフォローしていくという心構えをまずは保険薬剤師がもつことが大事だと思います。そして、その薬剤師の心構えを支えてくれるのは、日頃からがんのプロフェッショナルとして勉強しているかが大きな要素だと思います。

がん患者さんから話を引き出すために心がけていること

 私自身が心がけているのは、何のために確認するのか、質問する目的を忘れないことです。チェックリストを用いて順番に機械的に聞き取っても、患者さんは事務的に質問攻めにされていると感じ、信頼関係を築けないと思います。チェックリストを使うとしても、質問する目的、意図を少しずつ伝えながら聞いていくと、患者さんの納得感が高くなるのではないかと思います。

先発品をジェネリック医薬品に変更する際のポイント

変更のために確認すること

 先発品とジェネリック医薬品の適応症が異なることがあるため、ジェネリック医薬品の適応症となっている病名で先発品が処方されているかを確認する必要があります。また、大前提として、患者さんにジェネリック医薬品への変更の希望があるかを確認することが重要です。高額な抗がん薬も多く、ジェネリック医薬品へ変更することで患者さんの負担額を抑えることができます。患者さんにとって経済的なメリットとなるので、ジェネリック医薬品の適応症となっている病名で処方されている場合にはご紹介したいと考えています。
 患者さんが変更を希望したものの病名がわからないときは、「医薬品の適応の問題があるので、病院に確認していいですか」と同意を得て、病院に電話で確認します。医師に対しては、「患者さんがジェネリック医薬品を希望されており、念のため、適応を確認したいので、病名を教えていただけますか」と通常の疑義照会などと同様に尋ねます。

一人のがん患者さんを複数の薬剤師が応対する場合の情報共有

複数の薬剤師が応対する場合の情報共有

 複数の薬剤師がかかわる場合は、基本的には薬歴などで情報共有できればよいと考えています。当薬局では、特に重要と考える患者さんに対して、担当のかかりつけ薬剤師が休みなどのときに他の薬剤師が応対した場合は、次回勤務日にあらためて直接、伝達することがあります。
 また、令和4年度調剤報酬改定において、かかりつけ薬剤師と連携する他の薬剤師が応対した場合に服薬管理指導料の特例が算定できるように新設されました。いわゆるサブのかかりつけ薬剤師の制度は、積極的に活用するべきと考えています。メインで担当するかかりつけ薬剤師が不在になることは起こりうるため、誰かれかまわずではなく、サブが応対できると確実に情報を共有でき、患者さんにとっても利点があると思います。

これからを担う保険薬剤師の研修、指導方法

がん患者さんへの応対に必要な知識やスキルの向上をめざす研修

 当社の取り組みとしては、専門医療機関連携薬局を5年で30薬局、専門薬剤師を50人以上にすることを目標にしています。およそ10年前から当薬局ががんを専門とする薬剤師を育成する取り組みを進めてきたため、当社でがん専門を希望する薬剤師は全国の店舗から当薬局へ異動して研修を積んできました。しかし、福岡にある当薬局に異動できない薬剤師もいますので、2021年からオンライン会議システムなどを使用して、異動せずに各地の店舗に所属したまま遠隔で研修できるプログラムを新たに開始しています。自己学習とOJT(オンザジョブトレーニング)、ミーティングへの参加、来局したがん患者さんの症例報告などを行い、最短1年半で外来がん治療専門薬剤師などの資格取得をめざしてもらうプログラムになっています。また、当社では、がん患者さんへの応対頻度が低い薬剤師が7~8割を占めていますが、そのような薬剤師のもとにがん患者さんが来局しても応対できる研修プログラムの開発にも取り組んでいます。

がんを専門とする保険薬剤師の育成にあたって心がけていること

 育成にあたって、私たちは“がん”という病気ではなく、“がん患者さんという一人の人”を見ていることを大切にしています。どのような患者さんなのか、人となりを知り、「この患者さんに対して私は何をできるのか」を一緒に考えることができれば、教育として十分ではないかと思います。
 研修プログラムの参加者からは、「薬剤師にはできることが意外とあると感じた」という感想がありました。研修を通して参加者がお互いに経験の共有をし、誰かが介入しているのを見ると、「私にも何か介入できることがあるかもしれない」と認識が変わっていくのではないかと思います。「薬剤師にもできることがある」という意識をもってがん患者さんの服薬指導に臨んでもらうことが患者さんへの介入につながるのだと思います。

がん薬物療法に関する知識やスキルを向上させる具体的な方法、ポイント

 日本臨床腫瘍薬学会では、保険薬局や病院の全薬剤師が外来がん治療をサポートできることをめざす理念を掲げています。私は、現在、日本臨床腫瘍薬学会の地域医療連携委員を務めており、保険・病院薬剤師が患者さんの役に立つためには、連携が大事だと考え、入門から専門まで多種多様な特化した研修セミナーなどを企画しています(日本臨床腫瘍薬学会 : 日本臨床腫瘍薬学会主催セミナーのご案内. https://jaspo-oncology.org/seminar/ 2022年9月1日閲覧)。また、保険薬局におけるがん薬物療法のポイントをまとめた業務ガイダンスを作成しています(日本臨床腫瘍薬学会 : かかりつけ薬剤師・薬局のがん薬物療法に関する業務ガイダンス. 2022. https://jaspo-oncology.org/publicity/therapyguidance/ 2022年9月1日閲覧)。がん薬物療法に関する知識やスキルの向上に、このような機会を活用してもらうのも一案です。
 勉強にあたっては、一人では継続することは容易ではないので、知識やスキルを向上できる環境に身を置くことが大事だと思います。私自身も、当薬局に配属後しばらくはがんに対する抵抗感がありましたが、毎日、がん患者さんが来局しやる気スイッチをONにするチャンスが常にある環境にいたことで今があります。先ほどの遠隔研修プログラムでも、月1回のミーティングまでに症例報告を提出する義務を課しており、期限を設けてスイッチをONにする機会がルーティンとして組み込まれています。自分の意志だけでは勉強は続かないので、外的な力も利用できる仕組みを自分で作ることが大事だと思います。

認定・専門資格を取得するためのポイント、意義

 認定・専門資格の取得も同様に、一人で取り組もうとすると心が折れると思います。当薬局の現地研修プログラムでは、月1回や週1回の報告などを提出する義務があり、また、常時一緒にいるので最近の勉強の進み具合を聞かれたりします。締切があることによって、集中して勉強ができると思います。
 資格の取得前後で本人が大きく変わることは実はあまりありませんが、取得までにどれだけ勉強したか、どれだけ勉強する習慣が身についているかが、後に実力として残るのだと思います。
 そして、資格を取得すると、周りの見る目が変わると思います。同じ能力でも資格の有無によって、医療者からの認識は明らかに変わります。特に初対面の人に対して「外来がん治療専門薬剤師です」と名乗れると、相手にとってわかりやすい指標になると感じています。

おわりに

認定薬局制度の意義、今後の展望

 認定薬局制度の創設は、専門医療機関連携薬局・地域連携薬局が果たす役割が今後、患者さんに求められ重要になると国が方針を示したことを意味します。当薬局にとっては、およそ10年前から今まで患者さんのために挑戦してきたことがそのまま認定薬局の要件に合致していました。そのため、認定薬局制度が示されたときに認定を取得しない理由はありませんでした。
 また、認定薬局であることを示すのは、薬局としての競争力にもなります。2021年には、会社として推進していくために、認定に向けて現場の薬剤師を強力に支援する学術情報部が新設され、さらなる増加をめざして動いています。

がん薬物療法において保険薬剤師にさらに求められる役割

 病院と保険薬局の連携において、保険薬剤師が発揮できる強みは、患者さんの服薬フォローアップにあると思います。2020年9月から義務化されましたが、患者さんの体調変化や希望などを拾い上げて病院へフィードバックするのは、保険薬剤師だからこその取り組みです。医療機関からは情報提供を評価してもらい、患者さんからも感謝の声をもらい、保険薬剤師自身もやりがいを感じ、大変必要とされている役割だと思います。

がん薬物療法にかかわる保険薬剤師のこれからの課題

 保険薬局だけではなく薬剤師全般の課題の1つですが、エビデンスの構築が挙げられます。ある厚生労働省官僚の方から、「エビデンスがあるとそれに基づいて新たな診療報酬策定ができる」という話を聞きました。専門医療機関連携薬局などの制度はできましたが、今のところ、診療報酬上の算定ができる訳ではありません。次は、『認定薬局では確かによりよい薬学的ケアが提供できていること』を示さないといけないと感じています。例えば、専門医療機関連携薬局の薬剤師と非認定薬局の薬剤師による応対や患者ケアを比較して、専門医療機関連携薬局が有用な介入をできているというエビデンスを示すことで診療報酬改定の検討課題にも上がる可能性もあると思っています。

がん薬物療法への貢献をめざす保険薬剤師へ

 当薬局の強みは、一人ではない点が最も大きいと思います。先述のクリニカルパスを一人で作ることは不可能だったと思います。お互いに意見を出し合い、認め合えるのは当薬局のよさと感じています。
 グループ薬局のような大きな組織であれば社内で横のつながりがあり研修機会もあると思いますが、個人薬局や地域の保険薬局にがん患者さんが来局されたときのための支援も必要だと思っています。専門医療機関連携薬局の基準のなかには、地域の他の薬局への情報提供なども含まれており、個人薬局や地域の保険薬局から連携薬局へコンタクトを取ることも有益で、当薬局でもお待ちしています。
 もう1つ、当薬局が2011年から連携を開始した際には医薬品卸会社が病院との間を仲介してくれたという背景がありました。病院と保険薬局の両者と関係を構築している医薬品卸会社や製薬会社につないでもらうことも連携の構築のために有効だと思います。

POINT 電話フォローアップ導入のために

  • 同意を得る際に、かかりつけ薬剤師が電話をかけることを伝える。

POINT がん患者さんから話を引き出すために

  • 座って話すなど話しやすい環境を整える。
  • かかりつけ薬剤師に指名してもらう。
  • 安心して指名してもらえるように、がんの勉強をして心構えをもつ。
  • 質問する目的を明確にし、聞き取りの際にも織り交ぜて伝える。

POINT ジェネリック医薬品に変更する場合に確認すること

  • ジェネリック医薬品の適応症となっている病名で先発品が処方されているかを確認。
  • 患者さんにジェネリック医薬品への変更の希望があるかを確認。

POINT 複数の薬剤師が応対して情報共有するために

  • 薬歴で情報共有する。
  • サブかかりつけ薬剤師の制度を活用する。

POINT 保険薬剤師の研修・指導にあたって

  • 現地研修、遠隔研修、応対低頻度の薬剤師向け研修など薬剤師に合わせたプログラムを用意する。
  • 育成にあたっては、「この患者さんに対して私は何をできるのか」を一緒に考える。
  • 各種セミナーの活用や研修プログラムへの参加、グループでの学習など知識やスキルを向上させてくれる環境に身を置く。

POINT 資格取得に向けた方法と意義

  • 資格取得の勉強に一人で取り組まない。
  • 資格取得を通して勉強する習慣を身につけることが実力として残る。
  • 資格取得によって周囲の認識が変わる。

POINT 今後の展望、課題

  • 専門医療機関連携薬局、地域連携薬局は、今後、患者さんのために必要な役割を担う。
  • 服薬フォローアップは保険薬剤師にさらに求められる役割。
  • 保険薬局の取り組みが有効であることを示すエビデンスの構築が課題。
  • がん薬物療法もその勉強も一人で取り組まないことが大事。
  • 個人薬局や地域の薬局は専門性を高めるために専門医療機関連携薬局へコンタクトするのも有効。
  • 連携には医薬品卸会社、製薬会社のネットワークも活用できる。
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