保険薬局におけるがん患者さんへの服薬指導のポイント 〜“壁”を乗り越えるための具体的な応対や研修などの実践方法

公開:2022年12月21日
更新:2023年11月

総合メディカル株式会社 学術情報部 兼
そうごう薬局 天神中央店 上級専門薬剤師
外来がん治療専門薬剤師、
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)

本田 雅志 先生

 がん患者さんへの応対には“壁”があると言われています。今回、その“壁”の要因を明らかにし、取り払うために尽力されてきた総合メディカル株式会社 学術情報部 兼 そうごう薬局 天神中央店 上級専門薬剤師 本田雅志先生に、保険薬剤師ががん患者さんのためによりよい応対を実践するポイントや、現場で抱く疑問への解決策、大切な心構え、若手の研修・育成方法などを具体的な事例なども交えながらご解説いただきました。
(取材日:2022年6月30日、取材場所:日本化薬株式会社福岡支店)

第1回 がん患者さんへの応対に感じる “壁”の現状と要因

 がん患者さんに応対する際に“壁”を感じる保険薬剤師は少なくないと思われます。ここでは、その“壁”の現状と要因を本田雅志先生にご解説いただきました。

はじめに

薬局の概要、特徴

 そうごう薬局 天神中央店は、地域がん診療連携拠点病院である済生会福岡総合病院の門前に立地しており、専門医療機関連携薬局および地域連携薬局の認定を2021年8月の制度開始時から取得し、特にがんと糖尿病に専門性をもつスタッフを揃えて力を入れています。来局するがん患者さん数は約300人/月、処方箋枚数は約4,500枚/月となり、地域がん診療連携拠点病院の門前薬局として平均的な規模ではないかと思います。がんと糖尿病の2分野に特に注力しているのは、2010年頃から保険薬局として生き残っていくためには薬剤師の専門性を高める必要があると考え人財を集めて専門性を追究する取り組みを始めたのがきっかけです。現在、主に日本臨床腫瘍薬学会が認定する外来がん治療認定薬剤師の資格を取得した薬剤師からなるがん専任チームと、福岡糖尿病療養指導士の資格をもつ薬剤師からなる糖尿病専任チームがあります。

がん薬物療法において保険薬剤師が担う役割

 特にこの数年で、がん薬物療法のなかで保険薬剤師が担う役割がさらに増え、重みが増してきたと感じています。2013年に外来がん治療認定薬剤師制度が始まった頃から保険薬局への期待が少しずつ高まってきましたが、直近2~3年では、2020年4月から調剤報酬に特定薬剤管理指導加算2が新設され、2021年8月からは専門医療機関連携薬局などの認定制度が開始されるなど、がん治療への保険薬剤師の貢献を望む国の意思が表れていると思います。
 医療現場では、年々外来でがん治療を続ける患者さんが増加してきました。また、3〜4年前と比べて今では免疫チェックポイント阻害薬がほとんどのがん種で使用されるようになりました。免疫チェックポイント阻害薬は治療終了後にも免疫関連有害事象(irAE)が現れるなど発現時期の予測が難しく、長期に継続使用する外来患者さんに対してirAEのモニタリングを病院だけで行うのは困難です。そのため、経口を中心とした殺細胞性抗がん薬や分子標的薬による副作用モニタリングとともに、保険薬局が担うべき役割となり、その範囲は拡大しています。

保険薬剤師ががん患者さんにかかわる際の“壁”

 これまで、現場で保険薬剤師が抗がん薬を処方された患者さんへの応対に悩んでいる雰囲気を感じることが多々ありました。私自身も、当薬局に異動したばかりの頃は、他の疾患と比べて、がん患者さんに応対するときには特に緊張していた記憶があります。専門的知識の有無はどちらも変わらないはずですが、疾患によって意識が異なるのです。当時からがんに専門性をもっていたスタッフを除き、同僚にも同様の傾向を感じ、保険薬剤師のなかには「外来がん薬物治療は複雑であり、副作用が発生するリスクも高く、疾患の特性上、心理状態に特別の配慮が必要なため、がん患者さんに向き合うのは自分には難しいのではないか」という意識、いわゆる“壁”をもっている人も多いのではないかと思われました。
 そこで、がん患者さんにかかわる際の“壁”となっているものは何かを明らかにする目的で、当社の保険薬剤師1,590人を対象にアンケート調査を実施しましたのでご紹介します。

がん患者さんの応対頻度と抵抗感

 まず、がん患者さんの応対頻度は、当薬局のように週に複数回、応対する薬剤師(応対高頻度群:週数回以上)がいる一方で、週1回や月1回などほとんど応対していない薬剤師(応対低頻度群:週1回以下)がいることがわかりました(図1)。

図1 がん患者さんへの応対頻度本田雅志先生提供。

応対頻度と抵抗感

 がん患者さんへの抵抗感は、約半数の薬剤師が「強い抵抗がある」、「抵抗がある」と回答しました(図2)。また、応対高頻度群では約3割が抵抗感をもっていましたが、応対低頻度群では約5割が抵抗感をもっており、抵抗感の有無に慣れという要素が関連していると考えられました。

図2 がん患者さんの応対への抵抗感と応対頻度本田雅志先生提供。

がんに関連する学習の有無と抵抗感

 日常的ながん関連の学習状況を調査したところ、「学習していない」83.3%、「学習している」16.7%となりました(図3)。応対高頻度群に絞り込んでも「学習している」35.6%となり、学習を十分にできていない人が多い可能性が示唆されました。

図3 がん関連の学習状況と応対頻度本田雅志先生提供。

応対頻度と学習有無の抵抗感への影響

 応対高頻度群において、学習群と非学習群を比較すると、学習している方が抵抗感は少なくなりました(図4)。同様に、応対低頻度群においても学習している方が抵抗感が少なくなりました(図5)。
 ここではお示ししていない結果も含めて考察したところ、抵抗感に対して応対頻度よりも学習有無の方が影響していると思われました。つまり、がんに関する知識がなく応対方法がわからない状態にあると“壁”を感じ、普段から学習しているとがん患者さんが来局しても壁を乗り越えて応対できると考えられます。

図4 応対高頻度群における学習の有無による抵抗感本田雅志先生提供。

図5 応対低頻度群における学習の有無による抵抗感本田雅志先生提供。

抵抗感を感じる不安の要因

 さらに、抵抗感を感じる不安の要因を明らかにするために、具体的に①知識の不安、②コミュニケーションの不安、③薬学的介入の不安、④患者さんへの寄り添いの不安という4つの要因を挙げて調査しました。
 その結果、主には、①知識では、治療法や治療方針、副作用、支持療法の知識が十分か不安を感じる人が多くみられました(図6)。②コミュニケーションでは、病院での説明内容などの連携・情報共有不足や、患者さんから何をどの程度まで聞き取ってよいのか、その線引きなどに多くの人が不安を感じていました(図7)。③薬学的介入では、副作用の評価基準やガイドラインを把握できていないこと、介入すべき事案か判断が難しいこと、処方提案などでエビデンスに基づいた介入か自信がないことへの不安を感じていました(図8)。④患者さんへの寄り添いについては、自らが共感によって受ける辛さやがん患者さんが抱える悩みを想像できるものの、自分には何ができるのかという不安を感じていました(図9)。総じて「知らない、わからない」ことへの不安が“壁”を作っていると考えられました(表1)。
 がんに関する学習は複雑で難易度が高いと思っている人が多い印象を受けますが、そこで尻込みしてしまうと永遠に学べません。難しいという先入観をもつと抵抗感もついて回るので、そこを上手く崩す教え方や学び方ができるのが理想的です。一方で、がんに関する知識は部分的に学べばよい訳ではなく、広い知識が必要となるので、一歩ずつ学んでほしいと思います。

図6 知識についての不安の詳細本田雅志先生提供。

図7 コミュニケーションについての不安の詳細本田雅志先生提供。

図8 薬学的介入についての不安の詳細本田雅志先生提供。

図9 患者さんへの寄り添いについての不安の詳細本田雅志先生提供。

表1 アンケート調査から見えた抵抗感の要素
・治療方針、副作用、支持療法などの知識不足
・病院での説明内容などの連携・情報共有不足
・コミュニケーションや介入を「何を」、「どこから」、「どのように」行えばよいのかについて標準的な方法がないこと
・自分ががん患者さんの役に立てるという実感不足、経験共有不足

本田雅志先生提供。

保険薬剤師ががん薬物療法にかかわる際の“注意点”

 がん患者さんにかかわる際の注意すべき点を気にし過ぎて、結局、何もできずに終わるのは残念なことだと思っています。がん患者さんといっても、がんという病気をもつ一人の人であることに変わりはありません。その人に対して保険薬剤師がすべきことが薬物療法のサポートであることも何ら変わりはありません。がんであるが故に、話してはいけないこと、してはいけないことがあるのではないかと過度に気にし過ぎている薬剤師が多い印象を受けており、逆に注意すべき点と言えます。
 アンケート調査のなかで、「患者さんががんを告知されているのかわからないので不安」と約4割が回答していました。しかし、現在の世情において、病名の告知も含めたインフォームドコンセントを行わずに薬物療法を開始することが稀なのは理解してもらえると思います。まずがん告知をはじめとする“がん”への色眼鏡を外してもらうことが大切です。
 また、がんは第7次医療計画において5疾病の一つに認定され、エビデンスに基づいた対処法が体系的に確立されています。そのため、薬剤師が医薬品についてエビデンスに則った提案がしやすい疾患であると言えます。つまり、薬剤師にとっては大変やりがいのある領域なのです。もちろん勉強は必要ですが、その分だけ成長できることに少なくない薬剤師が気づき始めています。

POINT がん患者さんにかかわる際の“壁”を乗り越えるために

  • 「知らない、わからない」ことへの不安が壁を作る。
  • 難しいという先入観を崩す教え方、学び方が必要。

POINT がん患者さんにかかわる際の“注意点”

  • がんへの色眼鏡を外す。
  • がん薬物療法は薬剤師にとってやりがいのある領域。
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