保険薬局におけるがん患者さんへの服薬指導のポイント 〜“壁”を乗り越えるための具体的な応対や研修などの実践方法

公開:2023年1月16日
更新:2023年11月

総合メディカル株式会社 学術情報部 兼
そうごう薬局 天神中央店 上級専門薬剤師
外来がん治療専門薬剤師、
地域薬学ケア専門薬剤師(がん)

本田 雅志 先生

 がん患者さんへの応対には“壁”があると言われています。今回、その“壁”の要因を明らかにし、取り払うために尽力されてきた総合メディカル株式会社 学術情報部 兼 そうごう薬局 天神中央店 上級専門薬剤師 本田雅志先生に、保険薬剤師ががん患者さんのためによりよい応対を実践するポイントや、現場で抱く疑問への解決策、大切な心構え、若手の研修・育成方法などを具体的な事例なども交えながらご解説いただきました。
(取材日:2022年6月30日、取材場所:日本化薬株式会社福岡支店)

第2回 “壁”を乗り越えてがん患者さんの役に立てる服薬指導の実践ポイント

 がん患者さんへの応対に感じる“壁”を乗り越えて、いかにしてがん患者さんの役に立つ服薬指導を実践できるのでしょうか。ここでは、具体的ながん患者さんへの服薬指導の流れやポイントなどを本田雅志先生にご解説いただきました。

がん患者さんへの服薬指導の具体的な流れとポイント

服薬指導の具体的な流れとポイントをまとめたクリニカルパスの活用

 そうごう薬局 天神中央店では、保険薬局において外来でがん薬物治療を受ける患者さんへの服薬指導の手順書として、「外来がん薬物治療患者における保険薬局クリニカルパス」を作成し運用しています(図10、図13)。これにより、薬剤師全員が共通の目線をもって応対でき、また、標準的な応対方法が定められていることで現場の薬剤師は安心して介入ができます。
クリニカルパスは、初回来局時と2回目以降来局時の2パターンがあります。また、患者面談前のステップ1では治療内容などどのような情報を得て把握しておくかをまとめています。患者面談のステップ2では患者さんから聞き取る具体的な項目や聞き取る目的を、ステップ3では面談時に明らかとなった問題点に対する対処方法を記載し、3つのステップに分けて応対のポイントをまとめています。そして、クリニカルパスに連動して、確認すべき項目をまとめた4つのシートを作成し(図11,12・14,15)、誰もが漏れなく情報を確認できるようにしています。

初回来局時応対手順

初回来局時確認ツール

図11 初回確認シート本田雅志先生提供。

図12 理解度チェックシート本田雅志先生提供。

2回目以降来局時応対手順

2回目以降来局時用確認ツール

図14 事前状況確認シート本田雅志先生提供。

図15 スクリーニングシート本田雅志先生提供。

患者面談前

処方箋からわかること

 当薬局では済生会福岡病院と連携を進めており、病院が発行した院外処方箋自体に抗がん薬名はもちろん、レジメン名とがん種記号、服用開始日が記載されています。連携充実加算の施設基準に則り、病院ホームページに採用レジメンの一覧が掲載されているため、各レジメンの内容、がん種を確認できます。これにより、レジメン通りかを事前に監査しやすくなっています。

連携充実加算に伴う情報提供書からわかること

 病院が連携充実加算の算定を行っている場合、算定要件に従い患者さんが保険薬局へ情報提供書を持参することになり、ここから得られる情報があります。レジメン名、現在は何コース目か・何日目か、当日の投与薬、主な副作用、体調変化の状況、主な臨床検査値の情報などが記載され、特に重要な情報は病院薬剤師が特記事項としてまとめています。
 これらを先ほどの処方箋やレジメンから得られる抗がん薬の用法・用量などと照らし合わせて、適正かを検討します。情報提供書があることによって、情報を共有しやすく安心感があります。
 しかし、情報提供書の作成には病院のマンパワーが必要となるため、現在、どの医療機関においても全例達成している訳ではないと思います。情報提供書がない場合でも、当薬局ではがん患者さんに対してフォローアップする態勢を取り、不明点があれば疑義照会によって医師に確認するなどします。患者さんのために保険薬局と病院がお互いにできることを可能な範囲で取り組んでいます。

お薬手帳からわかること

 お薬手帳に病院で実施した注射抗がん薬や治療内容を記載したシールが貼付されていることがあります。ここには、何の薬をいつ始めたかといった情報が記載されています。この記載内容に基づいて、患者さんに確認を取り服薬指導を進めることができます。しかし、患者さんから病院へお薬手帳を提出しないと記録されないので、あればありがたいという認識でいます。

患者面談 〜患者さんからの聞き取り

初回に治療目的を把握

 患者さんからの聞き取りに関しては、クリニカルパスのステップ2、3に該当し、初回であれば治療目的を把握するための質問を確実に行います。術前・術後の周術期薬物療法の場合などは、治療目的が「根治」とわかります。しかし、例えばステージ4で遠隔転移の発覚や術後に再発があった場合などは、治療目的が「延命」になります。
 治療目的を把握する理由は、薬剤師による対応方法・考え方を変更する必要があるからです。根治が目的であれば、なるべく治療強度を落とさずに薬物療法を行う必要があり、確実に継続できるように副作用対策を指導することになります。一方、延命や緩和が目的であれば、基本は治療を継続できた方がいいですが、QOLを低下させてまで続ける必要はないでしょう。体調変化があれば、減量などの提案も考えることになります。

副作用のベースラインを把握

 患者さんから特に初回に聞き取りたいこととして、副作用のベースラインがあります。特に排便状況などは個人差があるため、普段の様子を把握し比較しないと下痢が強くなっているか判断できません。同様に血圧も普段の数値を確認しておく必要があります。聞き取る目的を明確にしておけば、何をどのように聞くとよいのかわかりやすくなると思います。

2回目以降の来局時には前回との違いを見る

 2回目以降の来局時のポイントは、副作用や体調などについて前回との違いを確認することです。このときに必要なのが、レジメンごとに発現頻度の高い副作用を事前に把握しておくことです。例えば、悪心が発現する可能性のあるレジメンの場合は、症状の有無、いつから発症したか、制吐薬は指示通りに服用したか、など必要な確認を行い介入を要するか検討します。

がん患者さんへの服薬指導で遭遇するよくある疑問への対応策

レジメンを確認する方法

 当薬局にもちこまれる処方箋にはレジメンがほぼ記載されていますが、不明な場合は「病院に治療内容を確認していいですか?」と患者さんに聞くことにしています。病院に確認する際には、疑義照会やFAXによる薬剤部との情報共有シート(がん薬薬連携シート)などで問い合わせます。患者さん本人の同意が得られていれば、個人情報の問題はクリアでき、拒否されたことは今のところありません。

臨床検査値の活用

 病院から提供される臨床検査値を活用するためには、基準値やCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events、有害事象共通用語規準)v5.0 Grade評価を把握しておくとよいでしょう。活用の仕方としては、例えば、臨床検査値に基づいて抗がん薬の用法・用量の調節を行います。また、治療の実施に影響を及ぼす検査値の場合、応対時にGrade評価の目安となる数値を示してあげると患者さんも納得しやすいようです。

がんの告知はされているか

 先述の通り、現在では、基本的に患者さんに対して告知済みであると考えてさしつかえないと考えています。普通に会話が可能な様子であれば、告知に関する問題はないと言えるのではないでしょうか。
 一方で、個々の患者さんによっては、治療やがん種に関する説明は行われていても、予後予測に関する説明に違いがあるかもしれないと感じることはあります。何の疾患のための治療なのかを濁されていることがあるかもしれません。必要に応じて病院に確認するとよいでしょう。

病院の説明と齟齬がないようにするポイント

 済生会福岡総合病院では、保険薬局が副作用をフォローアップするための共通資料として、内服薬副作用対応表(図16)や用法に関する注意事項(図17)を作成しています。内服薬副作用対応表では、各副作用について服用を中止し病院に連絡が必要な症状や、服用中止まで至らないときの対応をまとめています。また、用法に関する注意事項では、各抗がん薬を服用し忘れたときの対応などをまとめています。保険薬局でこれらの内容に基づいた対応を行うことで病院での説明と齟齬が生じないようになっており、指導内容の共通化が図られています。
 また、がん診療連携拠点病院では基本的に標準治療に則って診療が進められますので、標準治療を勉強しておくと保険薬局の対応と病院の説明に齟齬は生じないと思います。患者さん個人によって治療方針が異なることや、まだエビデンスがないこともありますが、その際はがん薬薬連携シートを用いて病院へ連絡し、コンセンサスを得るようにしています。

図16 内服薬副作用対応表済生会福岡総合病院提供。

図17 用法に関する注意事項済生会福岡総合病院提供。

がん薬物療法に安心して臨んでもらい、アドヒアランスを良好にするポイント

 患者さんに安心してがん薬物療法に臨んでもらい、アドヒアランスを良好にするためには、2016年から開始されたかかりつけ薬剤師制度が最も有効であると考えています。がんのように不安が大きな疾患を抱えた際に、「私にあなたの担当をさせてください。気になることがあれば何でも聞いてください」と言ってくれる存在は、患者さんにとって心強いのではないかと感じています。そのため、がん患者さんがかかりつけ薬剤師の同意書へ署名をした直後に、「少し聞いてもいいですか」とすぐに質問が出てくることを多くの薬剤師が経験しています。
 かかりつけ薬剤師になると、患者さんの不安を聞き取り解消することでアドヒアランスを良好にする効果もあると思います。患者さんは薬剤に対する何らかの不安があると服薬を避けたくなるものです。
 特にがん治療にかかわる薬剤については、うっかり飲み忘れることは少なく、確かな意思をもって飲まないという決断をしていることもあり、その気持ちをしっかり汲み取ったうえで支援することが私たちの役割だと思います。

副作用をどこまで説明するか

 患者さん自身で対処できない症状の目安がつけば、副作用の説明として十分ではないかと思います。必要以上に患者さんを副作用で怖がらせて服用を拒否させてしまっては意味がありません。とは言え、何も説明しないのでは保険薬剤師がいる意味がありません。発現する可能性がある副作用と、発現してもどのような対処ができるか、どのような状態のときに早めに連絡を入れてほしいかなどを具体的に伝えておくことで、患者さんは安心できるのではないかと思います。この説明にあたっても、内服薬副作用対応表や用法に関する注意事項が役に立っています。
 また、2020年9月から義務化された服薬フォローアップを活用して、「1週間後くらいに電話をかけますので、気になることがあれば何でも教えてください」と伝えておくと安心してもらえると思います。単に副作用だけを伝えるのではなく、安心できる具体的な対処法をセットにするのがポイントです。

返答が難しい質問を受けた場合にどのように応対するか

 返答が難しい質問の場合、患者さんのニーズは、回答を得ることではなく、話をまずは聞いてほしいということだと感じるケースが多い印象があります。そのため、傾聴の姿勢で「〇〇のように思われているのですね」とオウム返しをしながら時間をかけて聞くことが、患者さんにとって重要なのではないかと思います。
 また、立ち話の場合は短時間で終わり、座って話す場合は時間をかけて話をする傾向があると感じています。返答が難しい質問を投げかけてくれるときは、患者さんが腰かけていることが多い印象です。つまり、聞く環境をどのように整えるかも重要となります。

POINT 患者面談前に把握できること

  • 患者面談前に薬薬連携によってレジメン、がん種、服用開始日、現在のコース数・日数、当日の投与薬、副作用、体調変化、臨床検査値、特記事項などが把握できる。

POINT 患者面談で聞き取ること

  • 薬物療法の方針にかかわるため、初回に根治か延命や緩和か治療目的を把握する。
  • 副作用の程度を評価するため、ベースラインを把握する。

POINT 2回目以降の来局時に確認すること

  • 2回目以降の来局時は前回との違いを把握するためにレジメンごとの発現頻度の高い副作用を事前に把握しておく。

POINT レジメンの確認方法

  • 「病院にレジメンを確認していいですか?」と患者さんの同意を得て、病院に確認する。

POINT 臨床検査値の活用

  • 基準値やCTCAE Grade評価を把握する。
  • 臨床検査値に基づき抗がん薬の用法・用量を調節する。
  • 具体的な目安の数値を提示すると患者さんの納得を得やすい。

POINT がん告知の有無

  • 現在では基本的に告知済みと考えてさしつかえない。
  • 患者さんの様子から、病院がどのような説明をしたか判断に迷う場合は、病院に確認する。

POINT 病院の説明との齟齬をなくすために

  • 薬薬連携により病院と副作用や用法に関する具体的な指導内容を共通化する。
  • 標準治療を勉強して習得する。

POINT アドヒアランスを良好にするために

  • かかりつけ薬剤師に指名してもらう。
  • がん治療では明確な意思をもって服薬しないこともあり、その不安などを傾聴する。

POINT 副作用の説明範囲

  • 患者さんが自分で対処できない線引きの目安がつくように説明する。
  • 副作用と具体的な対処法をセットで説明する。

POINT 返答が難しい質問を受けたとき

  • 患者さんが直接の回答を求めていないこともある。
  • 座って話すなど聞く環境を整える。
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