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公開日:2022年10月17日

さいたま市における連携と地域基幹病院としての役割
円滑な薬薬連携、その先に見据える病病連携

さいたま赤十字病院 薬剤部 薬剤部長 町田 充 先生

2017年にさいたま新都心へ移転したのを機に、さいたま赤十字病院では地域の保険薬局との薬薬連携の整備を推進してきました。その一環として、2018年には、疑義照会の一部をプロトコルに基づき不要とすることで、医師、薬剤師ともに業務の負担を軽減し、本来の専門業務に充てる時間を確保することを目指しています。
地域における薬薬連携の必要性、連携により医療体制にどのような変化があるのかなど、さいたま赤十字病院 薬剤部の町田充薬剤部長にうかがいました。

さいたま赤十字病院 薬剤部 薬剤部長 町田 充 先生

(取材日時:2022年7月16日  取材場所:日本化薬本社会議室)
※掲載データ等の最終確認日:2022年9月19日
さいたま赤十字病院
薬剤部 薬剤部長 町田 充 先生

在院日数の短縮化、病棟内での服薬指導に限界

さいたま赤十字病院が、さいたま新都心の現在地に全面移転したのは2017年1月のことでした。当院は2011年8月には地域医療支援病院に承認されており、現在は33科の診療科を標榜しています。県全域をカバーする救命救急センターとして指定されている11病院のうちの一つで、診療報酬上は、大学病院本院並みの診療機能を持つ「DPC特定病院群」に該当します。
厚生労働省は2015年に「患者のための薬局ビジョン」を公表し、翌年の診療報酬改定ではかかりつけ薬剤師への評価が新設されるなど、当時は医療機関との連携を進めようと保険薬局の意識が高まり始めた時期でもあり、新病院の周りには保険薬局の新規出店が相次ぎ、連携を呼び掛けるにはよいタイミングでした。

「患者のための薬局ビジョン」の背景にあるのは、医療を取り巻く環境の変化です。急性期医療の診療機能を維持・向上させるために、近年、全国の急性期病院が入院期間の短縮を進めています。ちなみに、当院の2017年9月の平均在院日数は11.7日(2022年8月は9.7日)でした。短い入院期間で薬剤師が入院中の患者さんと面会できるのは多くて2回ほどであり、退院後の服薬指導までカバーすることに限界を感じていました。そうした状況を打開する切り札になるとみていたのが、保険薬局との役割分担の推進です。薬薬連携が整備され、退院した患者さんへの服薬状況の確認や服薬指導を地域の保険薬局薬剤師の方々に委ねられれば、病院薬剤師は、薬物療法がきちんと効果を上げているかを確認するなど、「病気をみる」ことに専念しやすくなるはずです。

疑義照会を簡素化し、医師・薬剤師の専門業務の充実を図る

保険薬局との協力体制をつくり上げるため、2017年3月には、疑義照会の一部を、プロトコルに基づいて不要とする合意書をさいたま市薬剤師会と当院で交わしました。

保険薬局からの疑義照会を不要とするのは、「成分名が同じ銘柄変更」などの7項目です(表1)。疑義照会の運用を先行して簡素化させていた京都大学医学部附属病院のケースを参考に、さいたま市薬剤師会と合意できたものを盛り込みました。

表1 院外処方箋における疑義照会の運用について
以下の条件を満たした場合、原則として疑義照会は不要である
・患者への了承を得ること
・価格、服用方法等の説明を必ず行うこと
・処方箋に「変更不可」の指示がある場合を除く
(1)成分名が同一の銘柄変更
(2)内服薬の剤形の変更
(3)内服薬における別規格製剤がある場合の処方規格の変更
(4)処方製剤のアドヒアランス等の理由による半錠、粉砕、あるいは混合
(5)処方薬剤の一包化調剤
(6)貼付剤や軟膏剤等の包装・規格変更
(7)その他、合意事項

町田充先生ご提供資料より作成

医療費の負担や変更後の薬剤の服用方法を患者さんに必ず説明し了承を得る、合意に基づき薬剤を変更して調剤したら所定の方法で病院に伝えるなどの細かなルールも決め、同年4月に新たな運用へと移行しました。

薬剤師法では、薬剤師は処方箋に疑義があった場合、処方医に確認しなければ「調剤してはならない」と規定され、成分名が同じ別の銘柄への変更なども薬剤師の判断では行えません。薬による健康被害を防ぐためのルールですが、それが医療機関と薬局双方の負担になっているといえます。

厚生労働省が2017年に行った実態調査では、保険薬局からの疑義照会で負担に感じる項目が「ある」と、289病院の40.8%が答えており、その具体的内容としては「後発医薬品など種類が変わらない薬剤への変更」が20.9%、「記載不備などの形式的な照会」が28.7%であったことも報告されていました。(図1)。

図1 医療機関-薬局間の業務効率化の取り組み

医療機関-薬局間の業務効率化の取り組み
出典:中央社会保険医療協議会・総会(2019年10月25日)資料「総-1」
1)原出典:医療機関の薬剤師における業務実態調査(2017年度厚生労働省保険局医療課委託調査)

運用の見直しをするにあたって、保険薬局の薬剤師が患者さんの服薬指導にどれくらい時間をかけているかにも着目しました。保険薬局の薬剤師31名へ服薬指導にかけた時間を調べた結果、一人当たりの平均指導時間は5.9±2.9分でした。一方で、当院の病棟業務を行っている薬剤師に確認した平均指導時間は、13.2±10.7分であり、保険薬局では指導時間が短いことがわかりました。短時間での対応に追われる保険薬局で、疑義照会がさらに業務の負担になっているという想像に難くありません。

さいたま市薬剤師会には354の薬局(2022年8月現在)が加入し、市内の外来患者さんの大半をカバーしています。それだけに、疑義照会の柔軟な運用を取り決めたことで、その分、手厚い服薬指導等にあてられれば、地域医療への大きな貢献になるともみています。

実際に運用の見直し直後に行った調査では、「事前の合意書に基づいた処方医への疑義照会不要」による変更が2017年4月に84.6%となり、その後同年10月には91.9%となりました。疑義照会不要とした理由の内訳をみると、「成分名が同一の銘柄変更」で96.5~98%を占めており、疑義照会にかかっていた時間を短縮できた手応えがありました。

現在では、当院のほかにも市内の8病院がこの運用に合意し、広域の協力体制が整備されつつあります。

処方箋に検査値を表示する試み、病院間の連携についてうかがいます>