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公開日:2022年9月30日

医療安全改革アクションプラン策定への取り組み
タスク・シフティングの推進で医師の働き方改革を

福島県立医科大学附属病院(福島県福島市、778床)では、2カ年計画で「医療安全改革アクションプラン」を策定しました。そこでは医療安全の向上を目的として、これまでの組織や業務内容を見直しました。その一環として勤務医の業務負担を軽減するため、他職種へのタスク・シフティングを進めています。これは2024年には「勤務医の時間外労働の年間上限は原則960時間」という医師の働き方改革が求められ、院内業務の効率化が必要であるためでもあります。福島県立医科大学附属病院が、積極的に取り組んでいる医療安全改革を牽引してきた前院長の鈴木 弘行先生と薬剤部長の黒田 純子先生にお話をうかがいました。

福島県立医科大学附属病院 前院長 鈴木弘行先生、薬剤部長 黒田純子先生
(取材日時:2022年3月29日  取材場所:福島市ウェディングエルティ) 福島県立医科大学附属病院 前院長 鈴木弘行先生、薬剤部長 黒田純子先生
福島県立医科大学附属病院 前院長 ※取材当時
【現所属】公立大学法人福島県立医科大学理事
(教育・研究担当)・副学長(学務担当)
大学院医学研究科長・呼吸器外科学講座主任教授
鈴木弘行先生(写真左)

福島県立医科大学附属病院 薬剤部長
黒田純子先生(写真右)

(取材日時:2022年3月29日  取材場所:福島市ウェディングエルティ)
福島県立医科大学附属病院 前院長 ※取材当時
【現所属】公立大学法人福島県立医科大学理事
(教育・研究担当)・副学長(学務担当)
大学院医学研究科長・呼吸器外科学講座主任教授
鈴木弘行先生(写真左)
福島県立医科大学附属病院 薬剤部長
黒田純子先生(写真右)

アクシデントへの対応強化が医療の安全性を高める

鈴木弘行先生

鈴木先生 福島県立医科大学附属病院で2020年1月から本格的に実行されている「医療安全改革アクションプラン」がつくられるきっかけとなったのは、2015年に発生した医療事故です。それを受けて、アクシデントが起こった際にいかに迅速に対応するか、そのために必要なシステムを念頭に話し合いを重ねてきました。
 患者さんへの影響が大きい「レベル3b以上」のアクシデント(表1)が起きた場合、当院では各診療科の部長や副部長らにより構成され、アクシデントについて原因究明や再発防止等の検討を行う「医療クオリティ審議委員会」で情報を共有し、対応してきました。しかし、総勢22人に及ぶメンバーの日程調整は常に難航し、委員会の開催が事故の発生から1、2カ月後にずれ込むことも多々ありました。その間は、アクシデントの詳細な状況を把握することが難しく、被害を受けた患者さんや家族への対応にも遅れが生じていました。

表1 福島県立医科大学附属病院が定める影響レベルとインシデント・アクシデント

福島県立医科大学附属病院が定める影響レベルとインシデント・アクシデント
福島県立医科大学附属病院 医療安全改革アクションプラン(令和元年9月)を参考に作成

そのことへの反省から、当院ではアクションプランの基本目標の第1に「アクシデントへの対応強化」を掲げ、インシデント・アクシデントへの対応を早期に判断するために「コアメンバー会議」を新たに立ち上げました。この会議は、前院長、医療安全管理担当の副院長、医療安全管理部長ら計10人で構成され、毎週月曜の午前8時15分から会合を開き、前の週に報告があったインシデント・アクシデントの概要を影響レベルの大きさに関わらず共有します。トラブルの発生やそれに対する経緯を1週間以内に把握することで、初動の遅れを防ぎ、再発防止策の確実な周知を目指しました。
アクシデント対応の強化を[基本目標1]としていますが、当院の医療安全改革アクションプランでは業務・意識・組織の3つの観点から院内の改革を進めるため、全体で5つの基本目標を掲げています(図1)。

図1 医療安全改革アクションプランの5つの基本目標

医療安全改革アクションプランの5つの基本目標
福島県立医科大学附属病院 医療安全改革アクションプラン(令和元年9月)を参考に作成

「報告の文化」を院内に定着させる

鈴木先生 [基本目標1]アクシデント対応の強化を振り返れば、「コアメンバー会議」を立ち上げたことで、インシデントやアクシデントへの初動体制は大幅に改善されました。しかし、患者さんや家族への適切な対応を徹底させるためには現場からの報告がなければ始まりません。そこで「報告の文化」を院内に育てようと模索してきました。
2018年度に各職種から報告されたインシデントは計5153件で、うち91%が看護師によるものでした(図2)。それ以外は医師からの報告が4%、薬剤師からの報告が2%、放射線技師やリハビリ関係技師などのスタッフからが3%でした。看護師以外からの報告がいずれも少なく、底上げが課題でした。

図2 2018年度 インシデント報告の職種別割合

2018年度 インシデント報告の職種別割合
鈴木先生ご提供資料より作成

そこでインシデントの報告は、責任を追及するものではなく医療の質を向上するために生かす資材であることを強調し、院内に報告の協力を呼び掛けてきました。特に力を入れているのが若手医師からの報告件数の増大です。若い医師には「インシデント報告」をすることが当たり前のように受け止めてほしいとの考えから、研修医には報告があるから問題を解決することができる。それを基にさらなる医療の向上が図られるということを伝えてきました。同時に福島県立医科大学の学生にも報告の習慣を身に付けてもらうよう、カリキュラムに盛り込みました。
当院では組織全体に報告をシステムとして根付かせる取り組みをしており、2021年度のインシデントの報告のうち医師からの報告は約5.7%に増えました。インシデントの報告を促す最大の秘訣は、医療安全の担当者や現場とコミュニケーションを取り、信頼関係をつくりあげることだと考えます。

医師の負担低減、薬剤師へのタスク・シフティング等についてうかがいました>