公開日:2021年11月15日
更新日:2024年11月
2019年6月に2つのがん遺伝子パネル検査が保険収載され、これによりがんゲノム医療への扉が開いた感があります。保険収載前から遺伝子パネル検査を行っていた順天堂大学医学部附属順天堂医院のがん治療センター長で、順天堂大学医学部教授(腫瘍内科)の加藤俊介先生は、がんゲノム医療の普及のカギは、患者さんや医療関係者が、この医療の長所だけではなく現時点での限界を含め理解することだといいます。標準治療が確立されていない、または標準治療を終えたがん患者さんに新たな治療の提供が期待されるがんゲノム医療の現状はどのような段階にあるのか、そしてさらに推進していくために取り組むべき課題は何か、加藤先生にがんゲノム医療についてうかがいました。
(取材日時:2021年5月13日 取材場所:日本化薬本社会議室)
順天堂大学医学部附属順天堂医院 がん治療センター長
順天堂大学医学部教授(腫瘍内科)
加藤俊介先生
2016年5月に、がん遺伝子パネル検査を自由診療で始めていた順天堂医院は、2018年4月に、がんゲノム医療連携病院に指定されました。
がんゲノム医療は、がん細胞の遺伝子に変異があるかどうかを調べ、患者さん一人ひとりに適した治療の提供を目指しています。全国にあるがんゲノム医療中核拠点病院(13医療機関)、医療拠点病院(32医療機関)、連携病院(226医療機関)が連携して行います。
※医療機関の数は2024年10月現在
中核拠点病院を中心にこれらの医療機関は、高度な知識と技能をもつ遺伝医学などの専門家による会議「エキスパートパネル」を定期的に開催し、がん遺伝子パネル検査の結果を分析し、治療方針を話し合います(図1)。
(図1)出典:第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議の資料を基に作成
順天堂医院では、自由診療でがん遺伝子パネル検査を始めるにあたって、加藤先生が所属する腫瘍内科と病理部を中心に実施体制の整備を進めてきました。さらに、保険診療への適応が現実化することに見込みがついた2019年1月には、関連各診療科との連携を深めるために、エキスパートパネルの組織化の準備と院内における周知を図りました。
最初に着手したのは、標準的な手順などのスキームづくりです。がん治療センターを中心に関連診療科、病理部、臨床検査部、遺伝カウンセリング外来などのほか、適切な同意書や情報管理を担う情報部門、患者対応や広報を行う相談窓口までがん遺伝子パネル検査を支える院内各部署との連携を深めてきました。
ただ、ここまでの道のりは平たんではありませんでした。自由診療で始めたころからスタッフ向けの研修などを通じてその概要を知ってもらう取り組みを始めていましたが、多忙な業務に追われるなか、「ゲノム医療は難しい」と敬遠されることもあったといいます。
がんゲノム医療への関心が院内で高まり始めたのは、がん遺伝子パネル検査が国内で初めて保険収載された2019年6月ごろからです。患者さんからの相談や問い合わせに対応するため、スキルアップの必要性を感じるスタッフが増えてきました。それを機に、看護部や薬剤部に「がんゲノム医療コーディネーター研修会」への参加を呼び掛けるなど、院内連携の輪を少しずつ広げてきました。