公開:2024年11月5日
薬剤師に期待する有害事象の捉え方と評価(5回目/全5回)
福岡大学 薬学部 腫瘍・感染症薬学教室 教授
松尾 宏一 先生
東京薬科大学 医療実務薬学教室 教授
川口 崇 先生
近畿大学 薬学部 医療薬学科 講師
髙橋 克之 先生
マネジメントの実際:遅発期の悪心・嘔吐の症例
松尾 有害事象をどう捉え、どう考え、どう評価するか、田村先生と幅広く話してきました。それを踏まえ、最後に川口崇先生と髙橋克之先生と症例を通して、有害事象の具体的なマネジメントを考えていきたいと思います。川口先生、よろしくお願いします。
川口 はい。それでは髙橋先生、症例の説明をお願いします。
症例
50代、男性 進展型小細胞肺がん(多発骨転移)
1ヵ月前、健康診断にて異常陰影を指摘され当院紹介。気管支鏡検査の結果、小細胞肺がんと診断。また、骨シンチグラフィの結果、多発骨転移を認めた。気管支鏡検査入院の際、左肋骨の痛み訴えがあり、ロキソプロフェンを投与。疼痛は骨転移部位に一致。
- 既往歴:
- なし
- 併用薬剤:
- ロキソプロフェン
- 経過:
- 入院にてシスプラチン(CDDP)+イリノテカン(CPT-11)を開始し、Day 5に悪心(Grade2)、 嘔吐(Grade2)、食欲不振(Grade2)が出現。がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐(CINV)を疑いメトクロプラミドが投与されるも改善乏しく、Day 6にも悪心(Grade2)、 嘔吐(Grade2)、食欲不振(Grade2)が持続し、新たに下痢(Grade1)が出現。
- 身体所見・バイタルサイン:
- 特記すべき事項なし
- 検査値:
高橋 生来健康で特に既往歴のない50代の男性の患者さんです。1ヵ月前、健康診断にて異常陰影を指摘され、当院に紹介となっています。その後、気管支鏡検査および骨シンチグラフィの結果、小細胞肺がん多発骨転移と診断されています。気管支鏡検査で入院の際に左肋骨の痛みの訴えがあったので、その際、ロキソプロフェンを投与されています。疼痛の箇所は骨転移部位と一致しています。
入院にてCDDP+CPT-11療法を開始したところ、Day5にGrade2の悪心、嘔吐、食欲不振が出現しました。CINVを疑い、メトクロプラミドが投与されましたがDay6にも悪心、嘔吐、食欲不振が持続し、新たに下痢を発症している状態です。
身体所見はバイタルに特記すべき事項はなく、検査値は上記のとおりです。
患者の症候を詳しく観察しよう!
川口 松尾先生と共に、症例をもう少し詳しくお聞きしたいと思います。松尾先生、いかがですか。
松尾 まず、悪心・嘔吐について、CDDP+CPT-11療法を開始した後の状態はどうだったのでしょうか。
髙橋 Day1~3では、早発期、遅発期ともに悪心・嘔吐を認めていません。Day4に面談した際に、「食べられないことはないが、何か気持ち悪い感じがする」という訴えがあり、悪心Grade1、食欲不振Grade1と評価しています。その後、Day5の面談の際には吐いてしまっている状況でした。
松尾 制吐療法については標準的な薬物療法が行われているという理解でよろしいですか。
髙橋 日本癌治療学会『制吐薬適正使用ガイドライン』に基づいた標準的な制吐療法が実施されています。
松尾 通常、Day5ぐらいで軽度の悪心・嘔吐があれば、追加する薬剤はガイドラインにも記載があるので、それに準じた対応をしていくことが一般的かと思います。
髙橋 そうですね。私がDay5のGrade2がわかった時点でさまざまな聞き取りを行いましたが、緊急性はそこまで高くないという医師の判断となり、メトクロプラミドの追加で対応することになりました。悪心・嘔吐の原因には図1のようなものが考えられますが、嘔吐の回数はDay5に4回程度で食事に関係なく吐いてしまいましたが、体動時に特に気持ちが悪くなることはなく、排便状況も1日1回ぐらい普通便が出ているので、消化管の閉塞などはないと考えられました。頭痛やめまいもありません。もともと脳転移は除外されていて、1コース目なので急激な脳転移は考えにくく、はじめは遅発期の遅めに発現した嘔吐という判断でした。

図1 がん患者における悪心・嘔吐の原因
日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 編.: がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン(2017年版). 金原出版. 2017
松尾 近年の制吐療法の発達で、Day1~3では何もなく、Day5ぐらいから少しだけ何か状態が悪いと言われるのは一般的で、この時点では図1にあるCINV以外をそれほど深く考えず、少し長引いているかなという印象だと思います。メトクロプラミドの反応はいかがだったのでしょうか。
髙橋 通常はちょっと良くなったと言う患者さんが多いのですが、この患者さんについては「いや、あんまり」というような感じだったので、何かほかに違う原因があるかもしれないという印象でした。肺がんの患者さんだったので、電解質異常も疑いましたが、1コース目の初回時の採血で腫瘍随伴症候群、骨転移による高カルシウム血症などの所見が一切なく、これも少し可能性は低いと考えました。
松尾 わかりました。川口先生は、この時点で何かご意見ありますか。
川口 一点、髙橋先生が普段みているCINVと今回の症例との相違点のようなものは何かあったのでしょうか。
髙橋 Day4から発現するCINVは経験としてはあまりなく、もっと早いという印象です。Day1のCINVはほとんどありませんが、Day2および3ぐらいからそういった訴えが多いので、少し遅いという印象が相違点かと思います。
川口 嘔吐も伴っていますね。
髙橋 そうですね。実際に吐く患者さんは、近年の制吐療法の発達で少なくなってきています。Grade1、1~2回の嘔吐があるのも珍しいと思いますが、これがGrade2で4回ぐらい吐くのは、普段とは少し違うという印象はあります。
川口 吐いていくうちにだんだん量が減っていくような嘔吐量だったのか、飲水の有無にかかわらず結構な嘔吐量であったのかなど、嘔吐の性状や量については何か情報がありましたか。
髙橋 いつも確認するようにしていますが、嘔吐物はごく少量でした。そのため、イレウスはあまり考えにくいかと思いました。
川口 ありがとうございます。
松尾 何もなくDay4~5から急に吐くのが何か変だ、ということですね。もう少し早い時期から症状が続いていたり、Day4~5にムカムカ感があったりするくらいまでならまだしも、それまでは何もなく突然吐き出したら、やはり違う疾患を疑うべきという感じがします。
川口 この時点では、大きい枠の中で最初、主訴は悪心・嘔吐として捉えてみたときに、少し違和感はあるけれど、がん薬物療法中の患者ではありうるCINVの範疇だったわけですね。髙橋先生、その後の経過はどうだったのでしょうか。
多角的に考え、抗がん薬以外の原因も検討しよう!
Day 7に採血実施。
- 検査値:
松尾 Day5で悪心・嘔吐と食欲不振がGrade2に悪化し、Day6も継続していて、Day7に採血が行われました。臨床検査値では、骨髄抑制などはなく、心配されるようなCDDPの腎機能障害も認めませんでした。血清Ca、Kは正常値でしたが、唯一、電解質として血清Naが126mmol/Lであり低ナトリウム血症を認めました。カルテには、悪心・嘔吐および下痢による低ナトリウム血症と記載されていました。
松尾 この時点で血清Naが、初回治療時から15mmol/L 下がっていることに気付かれ、髙橋先生は医師が書かれたカルテに対し、若干違和感があったということですね。先生自身は何か別の原因を疑われたのですか。
髙橋 低ナトリウム血症の原因にはいろいろあります。それこそ医師が言われているような悪心・嘔吐や下痢でも低下するとは思いますが、私はCDDPを投与されているので薬剤性の低ナトリウム血症の可能性もあるのではないか、また腫瘍の随伴症候群の可能性もあるのではないかと考えました。あとは水をそんなに摂っていなかったので多飲症は少し考えにくいので、そこは除外できると思いましたが、腎障害によるものも考えました。
松尾 確かに、CDDPが投与されているケースでは、何となく薬剤性が頭に浮かびますよね。
髙橋 そうです。
松尾 この時点で、先生は医師に対し何かアプローチされたのですか。
髙橋 血漿浸透圧を計算してみたところ、低張性の低ナトリウム血症だということがわかり、そこから薬剤性の抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)を考えました。その鑑別ができるような検査項目、例えば尿浸透圧や尿中Na、バソプレシン、コルチゾールなどを測定してはどうかと医師に提案しました。
松尾 その提案はすべて受け入れられたのでしょうか。
髙橋 はい。ただ、バソプレシンなどはすべて外注検査になり時間がかかるので、今回の症例に関しては鑑別までには間に合いませんでした。
松尾 最初に血漿浸透圧をまず自分で計算されたことが、すばらしいと思います。それにより、いろいろな可能性が絞られてきます。血清Naが下がった場合、細胞外液量が正常の範囲かどうかで状況も変わってきますが、細胞外液量はどう考えていくのでしょうか。
髙橋 ヘマトクリット、尿酸値の上昇やBUN/クレアチニン比などで確認しますが、あくまで推測でしかなく、細胞外液が減っている、減っていないの評価は難しいと思います。舌の乾燥などを聴取するのも一つの手段かと思います。
松尾 ありがとうございます。川口先生、いかがでしょうか。
川口 これだけの検査値を並べて「検査してください」というのが受け入れられるには、ただ単に信頼だけではなく、根拠をきちんと提示していることも重要だと思います。電解質は苦手という薬剤師は少なくないのではないでしょうか。例えば、血漿浸透圧をなぜみなければいけないのか、SIADHを疑ったときに尿の浸透圧、尿中Naをなぜとらなければいけないのか、どういう値なら何を考えるのか、といった病態的な解釈を教えていただければと思います。
髙橋 先に述べたように低ナトリウム血症の原因は多く存在するため、その鑑別のために図2に示すフローにより原因の鑑別を行います。まず、血漿浸透圧を評価する必要があります。例えば、血漿浸透圧が295mOsm/kg以上である高張性であれば、高血糖やマンニトールなどの高張性輸液投与が原因として考えられます。また、等張性であれば高脂血症や高蛋白血症による偽性低ナトリウム血症が疑われます。いずれの場合もNa補充による補正の必要性はないと判断できます。一方、血漿浸透圧が280mOsm/kg以下の低張性であれば、さらに鑑別のために尿浸透圧を評価します。尿浸透圧が100mOsm/kg以下の希釈尿であれば、多飲が原因であるため、水分制限のみでNaの補正は必要ありません。

図2 低ナトリウム血症の鑑別診断
(Harrison‘s principles of internal medicine, 20th ed, 2018; 日内会誌, 105: 667-675, 2016; Eur J Endocrinol, 170: G1-G47, 2014; Am J Med, 126(Suppl 1): S1–S42, 2013を参考に作成)
川口 まず血漿浸透圧をみて、いくつかの病態を除外されているのですね。
髙橋 今回の症例で血漿浸透圧を計算して低張性の低ナトリウム血症であると判断し、CDDPによるSIADHの可能性を念頭に置いて、多飲症を除外するために尿浸透圧の測定を提案しています。さらにSIADHでは循環血漿量がわずかに増加することで、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の抑制、Na利尿ペプチドの分泌亢進が起き、尿中Na排泄量が増大するため、結果として、尿中Naが20mmol/L以上で尿浸透圧が300mOsm/kgを超える高張尿となります。以上の理由から尿浸透圧および尿中Na濃度の測定を提案しました。さらに、本来、血漿浸透圧が低下している場合には抗利尿ホルモン(ADH)分泌が抑制されますが、SIADHはADH分泌が抑制されない病態であるため、血漿バソプレシンの測定を提案しています。また、コルチゾールにはADH分泌を抑制する作用があり、副腎機能低下でコルチゾールが低下することでSIADHと同様の病態となるため、除外診断のためにコルチゾールの測定も提案しています。
川口 なるほど、診断基準を覚えてそのまま当てはめるのではなく、その基準がどういった病態生理や根拠に基づいて構成されているかも理解することは重要ですね。
松尾 単純に考えるのではなく、病態生理まで含めて検討している点がすばらしいと思います。そして結果から最も疑わしい病態を導き出されているのが、練達した薬剤師の思考志向というところでしょうか。
原因が絞られた後の対応法を考えてみよう!
Day8に意識障害が出現。
Na: 108mmol/L,
尿浸透圧: 345mOsm/kg、尿中Na: 26mmol/L
血漿バソプレシン、血清コルチゾールは外注検査であり、即日結果が出ず。3% NaCl1mL/kg/h 持続点滴、1日8mmol/L以下で補正開始。低ナトリウム血症の改善とともに、意識障害、悪心・嘔吐、食欲不振は改善。
後日、血漿バソプレシン、血清コルチゾールもSIADH診断基準と矛盾なく、CDDPによるSIADHと診断され、CDDP+CPT-11は中止となった。
川口 それでは、経過の続きをみてみましょう。検査結果も含めて解説をお願いします。
髙橋 Day8に採血・尿検査を行いました。その後、意識障害が出現、初めはせん妄のような状態で何を言っているかわからないと看護師から聞きました。検査値をみてみると、血中Naが108mmol/Lであり、さらなる急激な低下を認めました。尿浸透圧が345mOsm/kg、尿中Naは26mmol/Lで、さらに急激な低ナトリウム血症と随伴症状として意識障害が出ており、危険な状態、oncologic emergencyとなりました。医師との協議で早急なNaの補正が必要との判断になり、治療的に3%NaClによりNaの補正を行いました。
川口 Oncologic emergencyということでNaを投与したということですが、松尾先生、いかがでしょうか。
松尾 1日でこれだけ変わってしまって、oncologic emergencyであることは間違いない状況だと思います。臨床症状からSIADHに間違いないだろうというのは何となく予想できるし、今回は検査値をみてから治療を開始するような状況ではないので、わかっていることから治療を判断していくことになるかと思います。
髙橋 無症状であれば補正についても協議する必要はあったのかと思いますが、症候性の低ナトリウム血症になっているので、早急な治療が必要であるとの判断になりました。
松尾 この時点で緊急性が非常に高いと判断されて、NaClで補正していくわけですが、補正の仕方について説明していただけますでしょうか。
髙橋 3%NaClでの急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症)の危険性があるので、目安として0.5~1mL/kg/時で補正を行って、8mmol/Lまでの上昇にとどめるということがガイドライン等に記載されています。これらに基づいて持続的に低ナトリウム血症の補正を行い、約6時間毎に血中Naを測定することを提案しています。また、意識障害が改善したら、3%NaCl投与を止めて水分制限などで対応するのか等を協議することにしました。
3%NaClについては、生理食塩液400mLに対して10%NaCl補正液を120mL入れ、計520mLにして作成し、これを持続点滴しています。
松尾 意識障害があれば今回のような対応であり、意識障害がない無症候性であれば血清Naの経過を観察して急激なNaの補正は控えるべきだと思います。
髙橋 症状がなければ、水分制限やNaの経口投与でもいいと思いますが、メリット・デメリットを考えたときに、これは明らかに命に関わるものだという判断で、このような組成で持続点滴を行っています。
松尾 わかりました。川口先生はいかがでしょうか。
川口 Day1~6まで採血がなかった中でDay7の血清Naが126mmol/Lでしたので、何日でこの状態になったのか、とても興味深いです。Day7が126mmol/L、Day8が108mmol/Lですので、Day5、6、7で発現した悪心・嘔吐の原因は、化学療法かもしれないし、低ナトリウム血症が急激に起こり始めたサインだったのかもしれません。急激に血中Naが低下し、水が脳細胞に入っていってしまったのかと思います。脳細胞が低ナトリウム血症に適応してしまった状態でのNa補正は危険です。だから、今回は確定診断よりも先に治療をするということになったのですね。そのときに126mmol/LのDay7の時点でやらなければいけないことを薬剤師が全部検討して提案しているところがすばらしいと思います。
Na補正は薬剤師の出番だと思います。ここで細かい設定を薬剤師が提案されていますが、すごく怖かったと思います。Na補正はいつも怖くて、本当に数日だったら、すぐ上げてもいいところだと思うのですが、上げるのを急ぎすぎると、先生がおっしゃったとおり合併症の問題が生じてしまいます。浸透圧性脱髄症候群を気にして慎重に補正しながら薬剤師が検査のタイミングも提案していることが非常に興味深いと思いました。
実際に補正をかけて何日目ぐらいで患者さんの意識レベルがよくなったのでしょうか。
髙橋 確か、2日目か3日目だったと思います。
川口 意識レベルが改善するまでの経過はどうでしたか。
髙橋 患者さんの家族からは、ちょっとおかしいね、いつもと少し違います、という話があり、私が訪室しても、ちょっとうーんという感じでした。少なくとも悪化はしていませんでしたので、Na補正は継続されました。KにしろNaにしろ、電解質はいつも怖いと思っています。血清Naの上昇を予測する計算式としてAdrogué-Madias 式※がありますが、あまり頼りすぎないほうがよいかと思っています。先生方はどうお考えですか。

川口 途中で補正がかかり、水分制限に入っていく過程がプラスされてしまうのですが、Adrogué-Madias 式はそれがない状態で計算されてしまうので、必ずしも計算式通りにはいきませんね。
髙橋 私もAdrogué-Madias 式に頼っていいのかわからなくて、いつも教科書的な「3% NaCl(1mL/kg/時)点滴静注.6時間毎の血清Na値の測定」にすることが多いです。
川口 今回は急激な低ナトリウム血症だったのですが、もう少し緩徐だった場合にはさらに判断を難しくさせたと思います。もう少し緩徐に進行した場合に、先生が今回検査した尿中NaやKが重要ですね。あとは血清Naです。いわゆる浸透圧を確認して、低ナトリウム血症が悪化しているのか、改善しているのかを判断できます。当然、尿中Na、Kと血清Naのバランスで、尿中Na、Kが血清Naよりも高ければ、どんどん悪化していると判断できますし、その逆もしかり。低ナトリウム血症の対応のさまざまな引き出しは常に用意しておかないと、緊急事態に対応できないと思います。
髙橋 無症状だったら、おそらく補正の必要はないと思います。でも、CDDPを少し投与したら少し下がるような症例を結構経験します。
川口 そうですね。
髙橋 ただ、それで、積極的に何かをするかというと、あまりしません。今回は、臨床症状があり、モニタリングをしていたらどんどん悪くなっていったという、劇的な症例ではあります。
松尾 最初の2~3日に通常はhydrationをかけている関係か、電解質の異常は、やはり1週間ぐらいまでは結構ありますよね。尿量も増えていますし。血清Naが減ったから何かをしなければいけない、ということには通常なりません。ただ、今回の場合は吐き気があり、SIADHを疑うことができました。
川口 最初のところからみていくと、やはり吐き気の鑑別で、CINVを常に考えているのだけれど、ちょっとした違和感があったわけですね。薬の投与時期はCINVを考える上ですごく重要だと思います。また、血清Naが126mmol/Lの時に先生が反応しているところがすばらしいと思いました。例えば消化器がんでご飯があまり食べられない患者などでよく遭遇する血清Na値の変化ですが、患者さんに吐き気の異常といった少し違和感があったのもあり、ここで先生がしっかりSIADHの可能性を考えていたので、初動がすごく早かったです。もしも何も考えずにいてDay8の108mmol/Lをいきなりみたときには、対応が遅れていたと思います。126mmol/Lの時にほかの可能性を考えていたところが大きく、この症例を救った一つの要因だろうと思います。
電解質は判断が難しいですよね。これは腎臓内科の領域かもしれませんが、薬剤師はこういったところもすべてみていかなければいけないのだろうと思います。先生がお話しされた腫瘍随伴症候群もそうです。電解質はどうしてもいろいろなところに絡んでくるので、本当に示唆に富んだ症例で、かつ、SIADHをみたことがない方が最初にSIADHを学ぶにはよい症例かもしれません。低ナトリウム血症がこのように進み、意識障害が生じるメカニズムなど、学ぶことが多い症例だと思いました。私も非常に勉強になりました。本当にありがとうございます。
松尾 髙橋先生は呼吸器がん領域で長くご活躍されていて、小細胞肺がんではSIADHを発現しやすいので症例の経験が多く、SIADHに結び付きやかったのだと思います。肺がんのスペシャリストになるのも一つの手だろうけれど、肺がんを経て他のがん腫を担当すると、こういうケースの反応が早くなるのかもしれないと感じました。
髙橋 薬剤師は一つのがん種だけでなく、そこで学んだことを次のがん種にも活かしていけることや、がんでなくても違うところで活かせるのが必要かと思います。
Take-home message
松尾 最後に髙橋先生からこの症例を経験して、薬剤師として後輩に伝えたいメッセージをお願いします。
髙橋 がん薬物療法で最もメジャーな有害事象として悪心・嘔吐はよく知られています。われわれ薬剤師、特に若い薬剤師の方はCINVと決めつけてしまうことが多いと思います。抗がん薬を投与しているからCINVと決めつけずに、発現の時期や患者さんの訴えからきちんと鑑別できるかどうかが大事です。今回は臨床検査値などもみて、原因の鑑別が非常に必要だと思う症例の一つを挙げさせていただきました。患者さんの訴えは、今回の症例の意識障害もそうですが、薬剤師よりも看護師から得られることが多いと思います。医師や看護師、多職種で連携していくのは非常に大事で、決めつけずにいろいろな人の話を聞き、いろいろな鑑別をして、一つでも患者さんの役に立てるようになっていただければと思います。
松尾 髙橋先生、どうもありがとうございました。薬剤師が得意とするような分野でいろいろ貢献することにより、患者さんの治療に早期に対応できた興味深い症例を提示していただきました。少しでもみなさんの参考になることを願っています。