公開:2022年09月15日
更新:2023年9月

薬剤師に期待する有害事象の捉え方と評価(4回目/全5回)

福岡大学 名誉教授
田村 和夫 先生

福岡大学 薬学部 臨床薬学教室 教授
松尾 宏一 先生

外来化学療法はチーム医療

田村 ここからは外来化学療法について、お話したいと思います。外来化学療法で重要なのはチームで実施することです(図1)。今は薬剤師外来を設けている病院も増えてきています。まず、採血などの検査をして、次に薬剤師外来で薬をきちんと服用しているか、薬に関連した症状・兆候がないか、薬剤師が確認する。その後、医師が診察をして、化学療法を行うと決定した場合には薬剤部で調製をしてもらい、その薬が化学療法室に搬入され医師・看護師がダブルチェックをし、患者さんに投与されるのが一般的なフローです。
 外来化学療法では、抗がん薬投与後のフォローアップが非常に重要です。薬剤に関する質問は薬剤師、日常生活に関連した質問は看護師が窓口として対応するのが良いのではないかと思います。

松尾 かなり以前は薬剤師ががん患者さんに直接関与することはほとんどありませんでしたが、薬の説明をすることを手始めに業務が拡大していきました。今、薬の説明から次のステップに踏み出さなければいけない時代になったと思います。次のステップとは、治療の支援を行うことです。しかし、このステップは非常にハードルが高いように思います。

田村 治療の支援をするために、初めて飲む薬を渡すときは、まず薬の有効性や有害事象の説明をします。有害事象については、発現しやすい時期も伝える必要があります。実際にフォローアップをするときには、そういうイベントが起きていないかも、確認しなければいけません。

松尾 患者さんに起きている事象をしっかり確認することが、これからの薬剤師の役割だと思います。さらに、その情報を医師や看護師に提供できるようになっていかなければいけません。ただ、薬剤師にとっては、どうしても患者さんを診ることは難しいと感じています。

田村 そうですね。役割分担をして、お互いに協力し補い合いながら患者さんのフォローアップをしていけたらと思います。
 外来で処方された内服薬は、患者さんは自宅で服用されますが、薬だけではなく、患者さん自身に注目することも重要です。薬を指示通りきちんと服用できるのか、その人の生活の状況を聞いて確認することが必要です。また、薬が患者さんにとって飲みにくい形状ではないかも確認する必要があります。さらに、残薬があるかどうかの確認も必要です。

松尾 何種類も血圧の薬が追加されていく患者さんに、よくよく話を聞いてみたら、実は全然服用していなかったということもありますよね。

田村 そのあたりは、患者さんはなかなか医師には言ってくれません。

松尾 「先生には言えませんけど」というのはありますね(笑)。また、入院中は看護師に毎日会うから「看護師さんにも言いたくなかったけど」と言われることもありますね。

田村 看護師や薬剤師にも、そういった裏話はあるのですね。だからこそ、チームみんなで協力して診療していかなければなりません。それが機能してはじめて、効率よく、安全に、効果的な薬物療法が行えます。

図1 外来化学療法はチーム医療の一つのモデル
田村和夫 先生 作成

薬剤師に期待すること(図2)

田村 薬剤師の役割で重要なのは、患者さんの状態に応じて、用法・用量を決定するときの医師への助言です。経過中に有害事象が発現したときなどに薬の用法・用量の変更の提案を行ったり、その際に変更したことが十分他の医療者や患者さんに伝わっているか確認したりすることが重要です。
 それから有害事象対策は、症状が徐々にあらわれるのか、突然にあらわれるのか、時間軸をみながら予防対策と早期発見・早期治療を行う必要があります。有害事象が発現した場合には、医師と看護師が協力して治療を行います。

 病態を理解して、それに応じた対応をする。最終的には治療計画どおりに安全で効果的ながん薬物療法を実施することによって、治癒または延命を得ることになるわけです。目標はここですので、そこに向かって、医師も薬剤師もみんなで努力していきましょうということです。

松尾 実際は、医師は薬理・用法・用量についてはよく知っているので、特殊な病態の症例のときぐらいしか薬剤師の出番がありません。でも、薬剤師ができる一番のことが個別化医療での貢献だろうと思います。腎機能や肝機能の状態がよくないときに、どうするかということです。学生には特殊な病態の患者さんへの用法・用量を医師に提案できるようになりなさいと指導しています。また、有害事象のマネジメントが今の課題だと思います。医師や看護師が普通にできていることが、薬剤師はまだまだできていません。症状をよく観察して理解するところがまだ足りないのだと思います。

田村 医師、看護師、薬剤師にはそれぞれ役割があります。医師は全体を診ることプラス、症状、症候、診察、検査から診断し、それに対応する。全身状態、がん種や病期に応じて、がん薬物療法での抗がん薬の用法・用量を考えるのがわれわれ医師の仕事。看護師は有害事象の対応、あるいは有害事象が出ていなくても、全身的・局所的な問題がある人をケアします。薬剤師は薬の管理はもとより、抗がん薬に関連した有害事象や、抗腫瘍効果の対応をする。実は効果が短時間に大きく出ても困ります。白血病やリンパ腫のときに抗がん薬を始めたところ、あっという間に腫瘍が溶けて、腫瘍崩壊症候群を起こすとコントロールが難しいです。腫瘍崩壊症候群の予防処置もチームで一緒にやらなければなりません。

松尾 受けてきた教育や背景が違うので、それぞれの職種は視線が少し違いますよね。薬剤師ならではの患者の見方などで、そういう対策やケアに貢献できれば本当はいいのだろうと思います。

田村 抗がん薬の効果を考えたときに、安易に投与量を減らしたり、投与の間隔をあけたりすると、期待した効果が得られなくなる恐れがあります。そのぎりぎりのところで治療を実施していかなければいけないのですが、われわれ医師側は経験として持っていることが多い一方、薬剤師はPK/PD(pharmacokinetics/ pharmacodynamics)の知識があります。両者の情報をすり合わせながら、共同でがん薬物療法を進めていく必要があるのではないかと思います。
 それと、高齢者はいろいろな生活習慣病などの薬を飲んでいますので、薬物相互作用は非常に大きな問題です。我々の調査でも添付文書に注意が記載されている併用を行う場合があります。注意が必要なことをわかったうえでやむを得ず投与していることもありますが、後で「併用注意だったのだ」と知ることもあります。そういうところを、薬剤師にチェックしてもらえていることは助かります。

松尾 薬物相互作用は「先生、禁忌になっていますよ」と言うと「あ、そうね」とすぐにやめてくださいます。代謝経路、薬物代謝酵素などは薬剤師が得意な分野ですから、学生にはいつも代謝酵素などは真面目に勉強しろと言っています。

田村 併用注意を承知で投与せざるを得ないこともありますが、大事なのは、承知でやる理由を医師と薬剤師が議論し理解したうえで、患者・家族からICを得て、実施・フォローすることです。

松尾 そうですね。処方されている薬だけでなく、病態と治療意図を理解したうえで、しっかり診ることが本当に一番大切なのかもしれません。

田村 それから、薬剤師は、薬についてのプロフェッショナルなので、医師や看護師、その他のスタッフの教育をしてほしいですね。安全な投与の前に、安全な調剤・調製があります。昔、私たちもアドリアマイシンで真っ赤になった白衣を着て、仕事をしていましたけれど、そういった目で見える抗がん薬曝露はもうあり得ないでしょう。今はきちんと薬剤師が曝露対策の注意をしてくれます。患者さんが治療を受けるときも曝露の問題があるから、安全な環境を整えることも薬剤師と看護師、それから医師の仕事だと思います。

図2 がん薬物療法の有害事象を評価・マネジメントにあたり薬剤師に期待すること
田村和夫 先生 作成

生涯教育・フィジカルアセスメント

松尾 フィジカルアセスメントは、薬剤師の生涯教育の一つとして考え、書物で学習するだけでなく実習を兼ねた講習会を受けることが必要だと思っています。あと、患者さんを実際に診ることが大切です。

田村 一人ひとりの患者さんの症例検討を定期的にやることが必要だと思います。知識は書物から得られるし、最近はウェブで講義、講演が頻回に行われており、学ぶ機会はあります。ですが、いろいろな症状や兆候から始まり、手順に則り診断を得、処置をして、その結果まで診るという流れを実際にトレーニングしなければ身につきません。

松尾 患者さんの流れを最初から最後までみていくことですね。

田村 そうです。医師はこういったトレーニングを定期的にやっていて、それを繰り返すことによって、だんだん身に付いていきます。しかし、間が空くと忘れます。繰り返しが必要です。薬剤師の場合も、今まで蓄積した知識とか技術にも依存しますが、最初はそんなにうまくできなくても、だんだんできるようになります。
 ただ、フィジカルアセスメントを薬剤師だけでしてしまうと危険です。医師や看護師と一緒になって、フィジカルアセスメントを修練するという姿勢が重要です。薬学教育の中でも、卒後教育の中でも継続してトレーニングしてほしいと思います。

松尾 しかし、なかなか機会がないのが実情です。フィジカルアセスメントの講習は、少し前にはブームではないですが、多く実施されていました。けれど、それを1回学んだからといって診れるわけがなくて、学んだことが応用できていないのが実情だと思います。

田村 これは、一生の仕事です。基礎は基礎としてとりあえず座学で1回学んで、それを繰り返して勉強することによって知識としては身に付きます。それを実際に臨床の場で応用するとなると、大きな壁があります。それを崩すには、症例検討を重ねることや、多職種からなるグループの中での経験が必要だと思います。一つ重要なのは、医師がそれこそヒポクラテスの時代からずっとやってきたことを、薬剤師もステップバイステップで少しずつ学んでいく必要があることです。最終目標は一緒なので、やり方も基本的には変わらないはずです。フィジカルアセスメントと言いながらも、ネーミングが異なるだけで基本は医学部で学んでいる診断学であり、検査医学であり、治療学です。視点は違うけれども基本は一緒だということです。つまり、一緒になって患者を診る部分と、薬剤師は薬学的な立場から患者の課題を検討する部分、看護師は看護師の視点で関わる部分があるということです。

松尾 生涯教育が大切なのだと本当に思います。

田村 医師の場合には単位制で定期的に研修を受けた記録を提出しなければなりません。それを薬剤師もされた方がいいと思います。もちろん、がん専門薬剤師はがん専門の講習会や学術集会出席で単位を取られていますが、がん専門であっても薬剤師としての基本的な素養は復習した方がよいでしょう。特に若い人たちは卒後3年目までにトレーニングをきちんとして基本的なフィジカルアセスメントを研修しないと、生涯身に付かないと思います。それは医師も一緒です。最初の3年でどれだけ患者さんを多く診て経験を積んだかで、その人の医師としての臨床能力は決まってしまうと私は思っています。

松尾 ぜひ、卒後の若いうちに、今なら学べる環境にあると思います。

田村 例えば、眼瞼結膜をみて貧血様と言うでしょう。貧血様というのは、白っぽいということです。何をみているかというと、粘膜内の小血管を流れているヘモグロビンの濃度をみています。例えば寒い冬に外に出て、眼瞼結膜をみたら白っぽい、つまり貧血様です。

松尾 血管が収縮しているのですね。

田村 そうです。これがまさに簡単な病態生理で、それに基づく診断学です。何が起こってそう見えているのか、現象が起こっているのかを考えます。それが分かると、その状況に応じた判断ができるので大きな間違いは少ないです。

松尾 そういうことが自分の仕事に生かせたら楽しいから、若いうちだったら、もっともっと覚えたいと思うでしょうね。

田村 そうですね(笑)。是非学んでいただきたいと思います。

松尾 田村先生ありがとうございました。次回は、これまでのお話しを踏まえ、東京薬科大学の川口崇先生と大阪市立大学の髙橋克之先生を迎えて、症例を通した有害事象の具体的なマネジメントを考えていきたいと思います。

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