座談会 患者さんに寄り添うために薬剤師がめざすべき姿 ~専門医療機関連携薬局、地域連携薬局を通じた薬剤師の連携と役割~

公開:2024年07月12日

金沢大学附属病院薬剤部
教授・薬剤部長・病院長補佐
崔 吉道 先生

京都大学医学部附属病院薬剤部
教授・薬剤部長・病院長補佐 
【司会進行】
寺田 智祐 先生

札幌医科大学附属病院薬剤部
教授・薬剤部長・病院長補佐
福土 将秀 先生

南海老園豊見薬局
豊見 敦 先生

株式会社オオノ
ひかり薬局大学病院前調剤センター
松浦 綾子 先生

近年 、診療・調剤報酬において薬薬連携に関する評価が新設され、病院と薬局の連携に基づく認定薬局制度が始まるなど、病院薬剤師と薬局薬剤師が連携する重要性が高まっています。
今回は、先進的に薬薬連携に取り組む施設の先生方にお集まりいただき、各施設における具体的な施策、認定薬局制度や関連する専門薬剤師制度がもたらす病院薬剤師と薬局薬剤師の連携強化、そして、患者さんに寄り添うために両者が今後めざすべき姿などについてお話いただきました。
(取材日:2024年3月4日、取材場所:日本化薬株式会社本社)

施設情報
金沢大学附属病院
〒920-8641 石川県金沢市宝町13-1
京都大学医学部附属病院
〒606-8507 京都府京都市左京区聖護院川原町54
札幌医科大学附属病院
〒060-8543 北海道札幌市中央区南1条西16丁目291番地
南海老園豊見薬局
〒731-5135 広島県広島市佐伯区海老園1-8-25
株式会社オオノひかり薬局大学病院前調剤センター
〒980-0824 宮城県仙台市青葉区支倉町4-34

第1回 認定薬局制度の創設、地域住民の健康を守るモデル薬局の開設、能登半島地震での存在意義

第1回では、認定薬局制度が創設された経緯や、石川県における住民の健康を守るためのモデル薬局開設のプロジェクト紹介、能登半島地震における薬剤師の存在意義についてお話いただきます。

はじめに

今、薬剤師に何が求められているのか

寺田 薬剤師を取り巻く歴史を振り返ると、約30年前となる平成4(1992)年度の診療報酬改定において処方箋料が引き上げられたことで院外処方箋の発行がさらに促進され、調剤薬局が増加する契機となりました。薬局は調剤をメインの業務として発展してきましたが、現在では、患者さんに寄り添って支えていくことなど調剤以外の役割も求められるように変化してきました。
令和6(2024)年度診療報酬改定の基本方針では、医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働の取り組みによる医薬品の適正使用などが推進され、単に薬剤師同士の連携ではなく、医師も含めた協働が求められています。一方で、医師や病院薬剤師と薬局薬剤師がいかに連携していくかという課題は、歴史を顧みれば古くて新しい課題でもあるといえます。

 本日は、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局といった新たに作られた認定薬局制度をはじめとする薬剤師を巡る現状や、先生方の各地域における実際の取り組みとその実現に向けたパッション、そして今後、薬剤師に求められる役割、あるべき姿などについて、病院と薬局のそれぞれの立場からお話いただき、薬剤師全体の底上げにつながれば幸いです。

薬薬連携の現状 ~認定薬局制度の創設、各地域の実際~

認定薬局制度創設に至る経緯

寺田 2014年に厚生労働科学研究として「薬局の求められる機能とあるべき姿」が公表され、翌2015年には厚生労働省が「患者のための薬局ビジョン」を策定しました(表1)。これにより、医薬分業の原点に立ち返り、患者さんを中心とするかかりつけ薬局をめざす方向性が示されました。そして、これらの方針に基づいた法制化として、医薬品医療機器等法(薬機法)の改正法が2019年に成立し2020年9月から順次施行されました(表1)。改正薬機法では、調剤だけを目的としていた薬局の定義が約130年ぶりに変更され、新たに服薬期間中の患者さんをフォローする役割が加わり、大きなインパクトがありました。以来、いかに薬局薬剤師の地位や能力を上げていくかが議論され、2021年8月には認定薬局制度が開始となる(表1)など、病院と薬局の連携がテーマに上がるようになりました。このような大局的な流れのなかで、2020年には日本医療薬学会において地域薬学ケア専門薬剤師制度が設立されました(表1)。日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師認定委員会委員長をお務めの豊見先生から、設立の背景をご紹介いただけますでしょうか。

豊見 さらなる高齢化を迎える社会的状況のなかで、どのように薬局や薬剤師が役割を果たしていくかが、薬機法改正に基づく制度構築の議論の中心にあったと思います。日本医療薬学会では、「医療薬学」、「地域薬学ケア」、「がん」、「薬物療法」という4つの専門薬剤師制度を実施してきましたが、このうち、薬局薬剤師向けに制度を構築したのが地域薬学ケア専門薬剤師でした。そして、同時期に専門医療機関連携薬局の認定を行う必要が生じたため、その認定要件を満たす専門資格となるように、地域薬学ケア専門薬剤師にがんを副領域とした仕組みを上乗せして構築することになりました。地域薬学ケア専門薬剤師の規定に掲げられている「他職種と協働し薬物療法を実践する」ことや「研究活動を実践できる」ことなどをめざして専門薬剤師の認定要件を設定しています。

寺田 薬局薬剤師の専門認定制度が創設されたことによって、めざすべき指針が示されたと思います。今後、より一層、専門薬剤師や認定薬局を整備する方向へ進んでいくでしょう。

表1 医薬品医療機器等法改正、認定薬局制度の創設に向けた経緯

2014年1月
厚生労働科学研究「薬局の求められる機能とあるべき姿」公表
2015年3月
規制改革会議公開ディスカッション(テーマ:医薬分業における規制の見直し)開催
2015年10月
厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」策定
2016年4月
診療報酬改定におけるかかりつけ薬剤師指導料の新設など
2016年10月
健康サポート薬局の届出開始
2018年4月
診療報酬改定における地域支援体制加算の新設など
2019年11・12月
薬機法の一部改正が成立、公布
2020年1月
日本医療薬学会地域薬学ケア専門薬剤師制度設立
2020年4月
診療報酬改定における連携充実加算、特定薬剤管理指導加算2の新設など
2020年9月
改正薬機法における服薬期間中のフォロー義務化、オンライン服薬指導の施行
2021年8月
改正薬機法における認定薬局制度(地域連携薬局、専門医療機関連携薬局)の施行
2022年4月
診療報酬改定における薬局薬剤師業務の評価体系の見直し、対人業務の評価の拡充

寺田智祐先生提供

中山間地域における住民の健康を薬局が支える取り組み

寺田 認定薬局制度とは別の観点から薬薬連携を進める方法もあると思います。崔先生からは、石川県で取り組まれているプロジェクトをご紹介いただきたいと思います。

 私たちが進めている「アポテカプロジェクト」は、2017年に金沢大学と石川県白山市、地域のコメヤ薬局が連携して中山間地に薬局を開設し、医療資源が限られた地域の健康維持や医療を支える薬剤師の確保と育成を進め、社会課題を解決するために始まりました(表2)。プロジェクト名はヨーロッパでの薬局の名称「アポテカリー」に由来し、地域で連携しさまざまな機能をもつ新しい薬局として根づかせたいという思いを込めています。

 日本の5人に1人が75歳以上となる2025年問題や、65歳以上人口や年間死亡数がピークを迎え医療需要が減少し始める2040年問題の到来が想定されてきましたが、高齢化が著しく進行する石川県では、2017年頃のシミュレーションですでに入院や外来、訪問診療などの医療需要は増加が見込めないことが推計されていました。全国的にも2040年に向けて医療需要が増加するのは大都市だけで、それ以外の地域では入院・外来の需要はピークアウトし、介護の需要は増加することが予測されています1, 2)。病院が統廃合されて数が減少すれば、当然、病院と病院の距離がこれまで以上に広がっていきます。そこで、私たちはそもそも地域住民が病気にならないように健康を守るための薬局モデルを本気で作らなければならないと考え、高齢化が進んだ中山間地域に薬局を開設し、地域住民の未病や健康維持、地域医療を支える薬剤師の育成に取り組むアポテカプロジェクトをスタートさせたのです。薬剤師の立ち位置も、薬があるから薬剤師が必要という枠組みから脱却し、住民がいるから薬剤師が必要という認識に改めなくてはなりません。そして、この実現には多職種の連携が大前提となります。薬局が拠点となって医療や介護、リハビリテーション、保健福祉などへ橋渡しをして、住民の健康を見守る機能をもつことが重要と考えたのです。
 また、アポテカプロジェクトは人材育成という観点から、文部科学省の「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」の一環として進めています。開設した薬局では、薬学生の実習のほか、病院や薬局の薬剤師の研修も受け入れており、薬局がどのように地域を支えているのかを学べる場になっています。若い人たちが集まることで、地域が活性化する好循環にも期待しています。コロナ禍や能登半島地震を乗り越えて運営は続いています。

寺田 私たち薬剤師は治療にばかり意識がいきがちですが、崔先生が仰る通り、薬局という健康維持や疾病予防の拠点作りはこれから本当に大事になると思います。

表2 アポテカプロジェクトの理念、目的

①薬局の「健康管理、おくすり相談、教育、栄養支援機能」と、「医療や保健、介護への橋渡し拠点機能」を強化し新たな薬局モデルを創生する
②そのために必要な医療人材を育成する
③それらの地域社会へのインパクトをビッグデータ解析で評価してPDCAサイクルを回し最適化する
④それによって2040年の健康拠点薬局を共創する

崔吉道先生提供

能登半島地震において示された地域住民の健康を守る薬剤師という存在

寺田 2024年1月1日に発生した能登半島地震では、薬局や薬剤師を巡る状況はいかがでしたか。

 薬があるから薬剤師が必要なのではなく、住民がいるから薬剤師が必要なことを本当に思い知りました。石川県奥能登地域(能登北部医療圏)の65歳以上高齢化率は48.8%(2020年)に達しており3)、一時的に滞在する1.5次避難所へ避難してくる被災者の多くを高齢者が占めていました。血栓症などによる災害関連死を防ぐためには、血圧や血糖などの管理を途切れることなく行い、避難者へ継続した医療を提供する必要があります。救急医 、メディカルスタッフ、行政、自衛隊など医療にかかわる全員が連携して協力するなかで、薬剤師は、例えば、過去の処方歴も参照しながら、避難者から聞き取りをして血栓症リスクが高い人を拾い上げ、適切な職種へつないでいきます。災害時においても医療と生活は切り離せないため、薬物療法はもとより栄養や運動、感染対策など一体的な課題解決を薬剤師が担うのです。発災直後の超急性期から慢性期へフェーズが移るとともに、被災地のニーズが外傷治療などから災害関連死対策や感染対策などへ変化していきますが、それらのあらゆる場面で、病院薬剤師や薬局薬剤師という立場に関係なく、薬剤師ならば誰でも地域住民の医療や健康を支えるための支援ができ、それが求められます。また、薬局が被災し建物が損壊するなど機能を維持できない状況が発生しましたが、薬局の存在がなくなると地域を存続できないことに多くの関係者が気づかされたと思います。

寺田 貴重なお話をありがとうございます。ジェネラリストとしての薬剤師の職能は、災害時にも活きてくるのですね。あらためて薬剤師の存在意義を感じました。

第2回では、病院と薬局のそれぞれからみた薬薬連携の実際についてお話いただきます。

文献

1)国立社会保障・人口問題研究所 : 日本の地域別将来推計人口-平成27(2015)~57(2045)年- 平成30年推計. 2018

2)厚生労働省 : 第8次医療計画、地域医療構想等について. 2022

3)日本医師会 : 地域医療情報システム. https://jmap.jp/cities/detail/medical_area/1704
(2024年4月1日閲覧)

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