国立病院機構呉医療センターにおけるがん薬薬連携への取り組み

公開:2022年06月27日
更新:2024年03月

独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部

薬剤部長 ※取材当時(現・日本病院薬剤師会 事務局長)
松久 哲章 先生

副薬剤部長
田頭 (たがしら) 尚士 先生


柏原 志保 先生

広島県呉医療圏に位置する独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部では、がん薬物療法を中心に地域の保険薬局との薬薬連携の構築に取り組んでいます。今回、保険薬局との関係構築に尽力されている薬剤部長 松久哲章先生、副薬剤部長 田頭尚士先生、柏原志保先生にご登場いただき、これまでの所属先での薬薬連携への取り組みから、現在推進している経口抗がん薬を使用する患者さんのためのおくすり外来開設や、がん薬薬連携に関する具体的な活動内容、保険薬局薬剤師に期待することなどについてお話を伺いました。
(取材日:2022年1月17日、取材場所:オンライン取材)

施設情報
独立行政法人国立病院機構呉医療センター
〒737-0023 広島県呉市青山町3番1号
病床数700床(一般650床、精神50床)
薬剤師数40名

はじめに

病院や薬剤部の概要、特徴

松久 当院は、国立病院機構において12ある大規模病院の1つとして、病床数700床(うち精神病床50床)、病棟数13病棟、診療科数37科を擁し、地域がん診療拠点病院やがんゲノム医療連携病院、地域周産期母子医療センター、三次救命救急センターなどに指定された高度急性期医療機関です。また、がん診療においては、1965年から中国がんセンターが併設されており、高度ながん専門医療を提供しています。
 薬剤部では、定員40名の薬剤師が各部門を分担して業務を遂行しており、病棟常駐や外来化学療法センターでの服薬指導、おくすり外来での内服治療の支援、各医療チームへの薬剤師の参画などによって、チーム医療のなかで職能を発揮し、患者さんが安心して積極的に治療を受けられる医療環境の実現に努めています。また、当院は、がん専門薬剤師研修施設やがん診療病院連携研修病院、地域薬学ケア専門薬剤師研修施設などに認定されており、院内薬剤師はもちろん保険薬局薬剤師に対しても研修の場を提供し人材を育成していきたいと考えています。

地域の特徴と薬薬連携の必要性

松久 令和2年版厚生労働白書によると、65歳の人が100歳まで生存する確率は、平成元年(1989年)には男性2%、女性7%でしたが、令和元年(2019年)になると男性4%、女性16%とほぼ倍になり、2040年には男性6%、女性20%にまで伸びると予測されています。
 現在、当院のある呉医療圏(呉市、江田島市)では約25万人の人口を抱え、呉市の高齢化率は35.4%(2021年1月1日時点)に達し、3人に1人以上は65歳以上という超高齢社会が進行しています。広島県全域の高齢化率に目を向けると、全国平均28.7%(2021年1月1日時点)に対し県平均29.2%(2021年1月1日時点)と平均値では大差ありませんが、人口の多い都市部の広島市と周辺市町がかろうじて平均値を下回っているだけで、大部分の市町は平均値を上回っている状況にあります。
 これらの状況からも、地域で高齢者を支える地域包括ケアシステムを推進し、病院と保険薬局が連携していくことが今後ますます必要になると言えます。また、保険薬局にとっては、2021年8月から地域連携薬局、専門医療機関連携薬局の認定薬局制度が開始され、薬薬連携を進める新たな動きも生まれています。
 しかし、薬薬連携と言われて久しいですが、現実には、地域において保険薬局と関係性が十分に構築できているかというとまだ疑問符が付きます。薬薬連携の構築のために大切なことは、患者情報をいかに的確に迅速に共有できるかにあると考えています。

中国・四国地方の国立病院機構における薬薬連携をめざした取り組み

四国がんセンター在籍時の薬薬連携に関する取り組み

松久 私は2000年〜2007年の国立病院機構四国がんセンター(2004年に独立行政法人化)在籍時にすでに薬薬連携に取り組んでいましたが、当時は、保険薬局を対象にした勉強会の開催も十分ではない状況でした。田頭先生も同じ四国がんセンターで仕事をしていたので、二人とも歯痒い気持ちを抱えていたと思います。

田頭 熱心な保険薬局薬剤師とは連携を図りやすいのですが、保険薬局による温度差を感じていたのが正直なところです。いかに地域全体を巻き込んでいくかについて、松久先生と一緒に頭を悩ませましたが、その後の進め方を考えるうえで役に立つ経験だったと記憶しています。

松久 病院と地域の医療機関をつなぐ地域連携パスを活用した薬薬連携の構築も試みましたが、残念ながら、その後は運用されておらず、成功とは呼べなかったと思います。当時、診療報酬の面からも病院として導入が進められた地域連携パスに基づいて、メインのがん治療を四国がんセンターが行い、軌道に乗ると診療所などへ患者さんを逆紹介して返すという病院と診療所を連携するしくみが推進されました。その連携にぶら下がる形で、病院薬剤部と保険薬局の連携も図ろうという意図がありましたが十分に実現しませんでした。

岩国医療センター在籍時の薬薬連携に関する取り組み

松久 2016年〜2020年には国立病院機構岩国医療センターに在籍しましたが、当時、薬薬連携の充実をめざして、地元薬剤師会と5つの協働作業を行うことができました(表1)。
 1つめは、院外処方箋への臨床検査値の記載です。残念ながら、当院ではシステム改修の必要があるため、まだ実現できておらず、今後の課題となっています。
 2つめは、院外処方箋への保険薬局からの疑義照会を処方医の同意に基づいて一部不要とする契約の締結です。重大な案件は医師に疑義照会しなくてはなりませんが、軽微で問い合わせるまでもないことは疑義照会不要とする契約を病院と保険薬局の間で交わしました。忙しい外来や手術の最中に電話をかけて問い合わせてほしくないと考える医師も多く、これは働き方改革の1つにもなると思います。現在、当院では、院内において医師と薬剤師間で疑義照会の一部不要を実施していますが、保険薬局との間ではこれからの課題となっています。
 3つめは、外来患者さんにおける抗がん薬の適正使用を推進するため、副作用マネジメントにかかわる情報提供書類を作成しました。後述するトレーシングレポートもこの1つですが、病院から経口抗がん薬のみが処方された際に、病院薬剤師がフォローできない院外では、保険薬局薬剤師に一翼を担ってもらう必要があるため、お互いに情報提供する文書を発行します。これにより、主治医に対して支持療法の追加や経口抗がん薬の減量、腎機能に基づいた適切な投与量などの処方提案を行い、より細かなやり取りが可能になりました。
 病院と診療所の医師間では診療情報提供書が発行されるので、患者さんの個人情報も含めた情報を共有することができます。しかし、病院薬剤部と保険薬局の薬剤師間には、患者さんの個人情報をすべて共有できる統一のルールは今もない状況にあると思っています。そのため、情報共有するには患者さんの同意を逐一取らなければならず、大変煩雑です。経口抗がん薬のレジメンの場合、保険薬局においてもお薬手帳や処方箋から類推し患者さんから直接聞き取ることはできますが、病院内だけで完結する注射薬のみのレジメンの場合、保険薬局ではなかなか把握することは難しくなります。いかにお薬手帳などでレジメンの情報を提供していくかが連携のポイントの1つと言えます。
 4つめとしては、お薬手帳カバーを利用した情報共有の取り組みを行いました。安全な薬物療法を実施するために、禁忌薬剤がある緑内障患者さんや薬剤投与に注意が必要となる腎機能低下患者さんに関して、それらの情報を記載して共有するオリジナルのお薬手帳カバーを考案しました。緑内障を診る眼科医と禁忌薬剤を処方する可能性がある医師との間を薬剤師が取りもつことで連携を密にしようという試みでした。
 5つめとして、病院と保険薬局の連携のための研修会や講習会を企画し、年1回は実施してきました。研修会開催は、令和2年度診療報酬改定で新設された連携充実加算の算定要件ともなっており、当院でも取りかかっています。

表1 岩国医療センター時代に実施した地元薬剤師会との協働作業

①院外処方箋への臨床検査値の記載
②院外処方箋への保険薬局からの疑義照会の一部不要
③外来患者さんの抗がん薬副作用マネジメントに関する情報提供書類の作成(トレーシングレポートなど)
④お薬手帳カバーを利用した情報共有
⑤病院と保険薬局の連携のための研修会や講習会の開催

松久哲章先生提供

岡山医療センター在籍時の薬薬連携に関する取り組み

田頭 私は2006年〜2015年に四国がんセンターに在籍したのち、2015年〜2021年に国立病院機構岡山医療センターに在籍しました。岡山医療センター時代には、薬薬連携に関する取り組みとして、近隣の保険薬局と情報交換する会合を不定期で開催していました。そのなかで、抗がん薬の副作用に対して、医師や病院薬剤師、保険薬局薬剤師と密に連携しながら、病院内外で共通の意識に基づいて均一の対応ができるように支持療法を一緒に確立しました。その他、近隣の保険薬局向けに、病院で行うレジメン内容や支持療法などの解説、経口抗がん薬の副作用対策などをテーマにした講習会を定期的に開催していました。
 もう一つ、薬薬連携の一環として岡山時代に力を入れていたのが各病院同士の連携でした。各病院で主にがん領域を担当し中心となる薬剤師を対象として連携を深めるためにネットワークグループを立ち上げ、メーリングリストの作成やミーティングの開催などを行いました。岡山の地域性として、岡山大学病院を中心に各病院が放射線状につながっていますが、個々の病院間をつないで輪のような全体的な連携を構築したいというビジョンを掲げて実施したものです。

薬剤師が面談するおくすり外来の開設

おくすり外来の導入目的、経緯

柏原 入院中の患者さんは多くの医療スタッフによるサポートを得られますが、外来治療に移行すると、副作用の確認などを含め医療スタッフのサポートを受ける機会が少なくなります。そこで、外来患者さんのサポートを充実させるために、経口抗がん薬や医療用麻薬を服用中の患者さんを対象として、薬剤師が面談するおくすり外来(薬剤師外来)を2012年から開設しました(図1)。

図1 おくすり外来の様子
独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部提供

おくすり外来の具体的な流れ、内容

柏原 おくすり外来は、医師からのオーダーによる予約制で実施します。患者さんが来院後、まず採血や尿検査が行われ、検査結果が判明するまでの1時間弱の時間を活用して、おくすり外来用の相談室で面談します(図2)。面談では、服薬コンプライアンスや副作用を確認し、テンプレートを利用して電子カルテに入力し医師へ情報提供します。必要に応じて支持薬などの処方提案も行います。

田頭 おくすり外来の担当者は、将来的に認定取得をめざしていたり、がん領域に興味をもつ薬剤師を中心に編成しており、曜日ごとの交代制で運営しています。

図2 おくすり外来の流れ
独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部提供

おくすり外来の実施状況、導入効果

柏原 おくすり外来の実施件数としては、2017年度から年間3,500件以上実施しており、2020年度は4,015件の実施がありました(図3)。必要に応じて残薬調節や支持薬などを医師に対して提案しており(図4)、提案数は2020年度では2,131件となり、提案に対する医師の承諾率は毎年ほぼ80%を超えています(図3)。各科で週1回や月2回の頻度で開催されるカンファレンスに薬剤師が参加し情報共有を行ってきたことが医師からの信頼につながり、高い承諾率に結びついていると考えています。

田頭 柏原先生をはじめ薬剤師がカンファレンスに参加するなどして、日頃から医師との関係を作っていくことは大事なポイントだと思います。カンファレンスでは医師が柏原先生の話を参考にしている様子をよく見ますので、普段から医師とコミュニケーションを図るなど連携を築いてきたこれまでの活動により高い信頼を得ていると感じています。

図3 おくすり外来の実施件数、提案率、承諾率
独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部提供

図4 おくすり外来での提案内容
(2021年4月1日〜9月30日)

独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部提供

おくすり外来の今後の展望、課題

柏原 おくすり外来で遭遇する事例のなかには、栄養士などとの連携が必要な場合があるため、今まで以上に他職種との懸け橋のような存在になりたいと思っています。また、承諾率は高く推移していますが、20%程度は承諾されていませんので、さらに必要とされる情報提供を行いたいと思います。現在は特定の診療科のカンファレンスに参加しているので、他科のカンファレンスにも行き、医師との認識のすり合わせをより一層、行いたいと考えています。

松久  このおくすり外来において外来患者さんの面談に力を入れるとともに、将来的な医療行政の動向も見ながら、現在、周術期医療において、がんも含めた手術予定患者さんに対する薬剤師面談にも力を注いでいます。

がん薬物療法における薬薬連携の取り組み

がん領域特有の薬薬連携を構築する意義

田頭 当院のある呉医療圏は広大で、また、当院は門前薬局がないという特殊な事情もあることから、処方箋を応需する保険薬局は面に広がっています。患者さんは広範囲の保険薬局に処方箋を持ち込むため、店舗によっては月に1回もしくは数カ月に1回ほどの頻度でしか抗がん薬を取り扱わないこともあると聞きます。このような保険薬局ごとの差や不慣れな領域を少しでも埋めるためにも、病院や地域との連携は大変有効な手段であると考えています。

がん薬薬連携を推進するための情報共有ツール、研修会などの取り組み

松久 患者情報を的確に迅速に共有するための仕組みとして、広島県病院薬剤師会と広島県薬剤師会では統一様式のトレーシングレポート(服薬情報提供書)を作成し運用しており(図5)、当院では2022年1月から正式に導入しました。広島県では、病院薬剤部が保険薬局からの窓口となってトレーシングレポートを集約し、処方医に情報提供する流れになっています。

田頭 保険薬局との情報共有のためのツールについては、当院はこれから力を入れていくところですが、トレーシングレポートなどのように副作用に対して共通の認識をもつことができて連携が取れるものを用意したいと思っています。
また、情報共有・提供の一環として、研修会は大変有効であると考えています。コロナ禍以前は、定期的に研修会を開催していましたが、2021年度は2022年1月時点で2回、オンラインで開催しています。
 オンライン開催とリアル開催には、どちらにも良い点があります。オンラインでは、遠方の薬剤師にも気楽に参加してもらえるようになり、ハードルが下がったと感じています。一方で、画面上だけの参加では受け身になりがちなのが難点です。連携の一環としての研修会のため、病院薬剤師から一方的に教えるのではなく、保険薬局薬剤師からもわからない点などの意見を返してもらい、相互にやり取りをしたいと考えており、それにはリアル開催の方が適していると思います。また、保険薬局薬剤師は患者さんとの距離感が近く全体像を把握して有益な情報をもっていることが多いため、リアル開催によって実際に顔を合わせる機会を設けることで情報共有のための連携が密になるのは利点と感じます。

松久 研修会の内容としては、2021年12月にオンライン開催した際の演題をご紹介すると、当薬剤部の業務概略と薬薬連携の必要性の解説や、嚥下困難な症例に対する簡易懸濁の推進とがん患者さんにおける栄養状況などについて当院薬剤師2名が講演しました。また、当院血液内科の医師が、悪性リンパ腫の病態と薬物療法について解説しました。令和2年度の診療・調剤報酬改定において新設された連携充実加算と特定薬剤管理指導加算2を効率的に運用するためにも、薬薬連携の研修会を継続開催する必要があると考えています。

図5 広島県統一版トレーシングレポート
(服薬情報提供書)

独立行政法人国立病院機構呉医療センター薬剤部提供

がん薬薬連携を円滑に推進するために

田頭 経口抗がん薬は組み合わせる点滴抗がん薬によってさまざまな投与量や服用間隔があるので、処方箋1枚から保険薬局薬剤師がすべてを把握するのは大変困難だと思います。また、特定の病院やクリニックの近隣といった保険薬局の立地によって、普段応需する処方箋の内容に偏りが生まれるため、頻度の少ない抗がん薬や医療用麻薬の取り扱いに不慣れな保険薬局があるのは止むを得ません。そのような状況のなかで、私たち病院薬剤師が協力できることとして、特に研修会の開催は有効ではないかと考えています。

おわりに

薬薬連携を推し進めるなかでの課題

松久 四国がんセンター時代から、保険薬局によって薬薬連携に対する温度差があるため、満遍なく全体を巻き込んでいく点が課題と感じていました。そのためには、がん薬物療法などに関する研修会などに参加したくなる目玉、メリットが大事になると考えています。
 以前、四国がんセンターの地域連携室に所属していたある看護師が、薬薬連携の勉強会において保険薬局薬剤師を前に話した言葉が今も印象に残っています。「大事な患者さんを守ってもらうため、患者さんには薬学的管理をしっかりとできる保険薬局に行ってもらいたい」ときっぱりと言ったのです。しかし、そのときから保険薬局薬剤師の皆さんの目の色が変わったと感じています。

よりよい薬薬連携をめざす薬剤師へのメッセージ

松久 保険薬局薬剤師には、これからより一層、がん薬物療法に参画してほしいと考えています。日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで亡くなる時代と言われています。がんの生涯累積罹患リスクを考えると、保険薬局薬剤師にとってもがんは決して他人事ではなく、より身近な問題として捉えてもらえるかもしれません。
 また、保険薬局薬剤師に研修を受けてもらい、地域薬学ケア専門薬剤師や外来がん治療専門薬剤師などの資格を取得することで、それ相応のプレミアムが付き、専門医療機関連携薬局の認定薬局として看板を掲げることもできます。先述の看護師の言葉のように、適切な薬学的管理を実践できないと患者さんが保険薬局に来なくなるかもしれないという危機感をもち、患者さんに選ばれる保険薬局をめざしてほしいと思っています。

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