地域を第一に考え大阪市広域に拡大するがん薬薬連携

公開:2022年04月11日
更新:2024年04月

日本赤十字社大阪赤十字病院薬剤部

薬剤部長
小林 政彦 先生

がん薬物療法課長
山瀬 大雄 先生

薬事衛生課薬剤システム係長
吉良 俊彦 先生

2016年に始まった大阪市天王寺区における5つの基幹病院による院外処方箋問い合わせ簡素化の取り組みは、さらに大阪市広域への拡大をめざしています。今回、日本赤十字社大阪赤十字病院薬剤部において薬薬連携への取り組みを主導されてきた薬剤部長 小林政彦先生、がん薬物療法課長 山瀬大雄先生、薬事衛生課薬剤システム係長 吉良俊彦先生にがん薬物療法を含めた薬薬連携への取り組みの経緯や概要、ポイントなどのお話を伺いました。
(取材日:2021年12月17日、取材場所:シェラトン都ホテル大阪)

施設情報
日本赤十字社大阪赤十字病院
〒543-8555 大阪府大阪市天王寺区筆ケ崎町5番30号
病床数883床(一般841床、精神42床)
薬剤師数54名

はじめに

病院や薬剤部の概要、特徴

小林 1909年に日本赤十字社大阪支部病院として設立されたのが当院の始まりです。現在の病床数は964床(一般922床、精神42床)(インタビュー時)となり、地域がん診療連携拠点病院をはじめ、小児がん連携病院、がんゲノム医療連携病院として位置づけられており、がん診療に力を入れているのが特徴の1つです。また、国際貢献という日本赤十字社としての使命があり、全国に5つある国際医療救援拠点病院の1つに指定され、薬剤部門からも薬剤師を海外派遣しています。
 薬剤部の業務内容としては、入院患者さんの適正な薬物療法を推進するため、薬剤管理指導業務に力を入れており、2021年11月時点(2020年10月〜2021年11月の月平均値)では薬剤管理指導件数2,925件/月、退院指導件数805件/月を数えています。また、医師の業務負担軽減を目的として、処方支援に積極的に取り組んでいます。さらに、医療安全にも病院全体で力を入れており、薬剤部からの医療安全報告件数は350件/月を超え、薬剤師も貢献しています。

※2024年4月現在の病床数は883床(一般841床、精神42床)

薬薬連携の必要性・重要性について

小林 入院患者さんに対しては当院薬剤師が薬物療法を実践する役割を担います。そして、院外処方箋は発行率が96%に達しているため、院外の保険薬局に薬物療法を推進するための業務を担ってもらっています。近年、地域包括ケアシステムの推進によって、患者さんのさまざまな状態を保険薬局も病院も把握することが求められ、情報共有を図るためにはお互いに連携をとる必要性があると考えています。

当院における薬薬連携の始まり

小林 当院における薬薬連携は、2009年4月に前薬剤部長が地域連携の勉強会を開催したことに始まります。がん領域のテーマから開始し、保険薬局薬剤師を対象に医師や病院薬剤師が講演を行うなど、がんの薬物療法についてお互いに知識を深める取り組みを現在も継続しています。
 また、2010年からは地域において吸入指導に関する勉強会も行ってきました。これは、「患者さんが吸入デバイスを正しく使えるように薬剤師が指導してほしい」という医師からの要望に端を発しています。加えて、院外処方箋を発行していましたが、当時はまだ保険薬局薬剤師の顔が十分見えている訳ではなかったため、それならばと当院の医師、薬剤師、近隣の保険薬局薬剤師が一堂に介して吸入療法を医師から学ぶ会を設けることにしたのです。吸入デバイスの指導を通してお互いの姿が見える化されたことで、連携の構築につながったと思います。
 その後さらに、多くの保険薬局薬剤師が興味をもつ生活習慣病に関する勉強会も行うなどして連携を深めてきました。

薬薬連携における院外処方箋問い合わせ簡素化の取り組み

院外処方箋問い合わせ簡素化を導入した経緯、目的

小林 2016年11月より天王寺区内5病院と近隣保険薬局において院外処方箋に関する問い合わせの簡素化を導入しましたが、この取り組みは、もともとは残薬の整理を目的に始まったものです。国民医療費が年々増加するなかで、国の施策としても、平成28年度(2016年度)診療報酬改定において残薬調整に対する加算が設けられました。
 しかし、残薬調整をすることで、今度は疑義照会の件数が増えて医師の業務負担が増加することも予想されていました。そこで、まず準備段階として、2016年1月から当院では、医師の業務負担軽減を目的に、従来は医師が行っていた処方箋応需保険薬局から寄せられた院外処方箋の修正を病院薬剤師が行う仕組みを取り入れました。保険薬局からFAXで送られてきた院外処方箋の変更内容に関して、病院薬剤師がPBPM※1として処方修正を行うのです(図1)。病院薬剤師を介入させたのは、問題が発生したときに保険薬局が残薬整理したことが原因ではないかと医師に誤って認識されて、保険薬局に対するマイナスイメージが生まれる可能性を回避したかったことも理由の1つです。また、薬剤部としても院外処方箋への関与を考えていました。
 このように病院薬剤師が情報を把握し、あらゆる場面において保険薬局に協力を要請する土壌を築いていき、2016年4月には当院と近隣の保険薬局の間で契約を結び、残薬調整は事後報告を可能とする検証的な取り組みを導入することになりました。導入の結果、問い合わせは一部減少したものの依然として多い状況にあり、医師から、「残薬調整に限らず軽微な処方の変更をその都度、問い合わせを受ける必要はあるのか」といった意見が出されていました。また、近隣以外の保険薬局にもこのような取り組みを広げていきたいと考えました。
 そこで、患者さんのために医療費を抑え、かつ、医師の業務負担を減らし、これらを地域全体で進めていくという方針に基づいて、当院と同じ大阪市天王寺区にある第二大阪警察病院(前NTT西日本大阪病院)薬剤部と一緒に院外処方箋問い合わせ簡素化を進める話がもち上がり、同じ区内の大阪警察病院、四天王寺病院、早石病院の5病院が連携して地域で導入することになりました。5病院が連携したのは、各病院の簡素化に関する規則を統一することで保険薬局の負担を減らしたいという意図もありました。
 2016年5〜6月頃に残薬調整の検証を行い、5病院で会合を開いて各薬剤部の考えをまとめ、病院幹部が許容できるように個々にもち帰って検討し、並行して天王寺区薬剤師会と協働できるように協議を進め、実質的に稼働したのが2016年11月となります。各保険薬局とは、院外処方箋問い合わせ簡素化に関する具体的なプロトコルをまとめた合意書を締結し(図2)、個々の保険薬局と当院間で合意書を締結すれば、他の4病院とも包括合意される仕組みになっています。

※1)PBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management、プロトコルに基づく薬物治療管理)

図1 病院薬剤師によるPBPMを活用した院外処方箋の処方修正
大阪赤十字病院薬剤部提供

院外処方箋問い合わせ簡素化プロトコルの原則、具体的な内容

小林 院外処方箋問い合わせ簡素化プロトコルの原則として、保険薬局に在庫がないことを理由にした処方変更は不可としています。しかしながら、昨今、医薬品の供給が不安定な状況が続いており、判断が難しいですが、欠品の場合は変更も止むを得ない旨を通知し始めているところです。また、麻薬や覚醒剤原料、抗がん薬は合意項目にかかわらず疑義照会をすることが原則となっています。
 そして、患者さんのアドヒアランス向上に資する安定性、利便性向上のための変更に限ることとしています。患者さんに対して、医師に問い合わせずに処方変更することを十分に説明し、患者さんの考えを受け止めたうえで変更に至ります。新規に保険薬局と契約を結ぶ際には、このようなコンコーダンスを念頭においた対応をするように伝えています。コンコーダンスとは患者さんと医療者が同じチームの一員と考える概念のことですが、患者さんと医療者がパートナーシップに基づき、両者で情報を共有し対等の立場で話し合ったうえで服薬も含めた治療を決定していくことをめざしています。
 具体的なプロトコルのうち(表1)、患者さんの希望で④半割や粉砕、混合、⑤一包化することについては、無料という条件がついており、保険薬局からは、「患者さんが変更内容を十分に理解して費用の発生に同意しているのであれば、有料であってもプロトコルの対象として問い合わせを簡素化してよいのではないか」という意見もあります。近隣の市が実施している疑義照会プロトコルでは無料という条件がないため、もし同じ条件になれば、その市とほぼ同じプロトコルになり、対象地域を拡大することにもつながると考えられます。

表1 院外処方箋問い合わせ簡素化プロトコルの具体的な内容

以下の場合、原則として問い合わせ(疑義照会)不要とする
①成分名が同一の銘柄変更
②剤型の変更
③別規格製剤がある場合の処方規格の変更
④無料で行う半割、粉砕あるいは混合
⑤無料で行う一包化
⑥経過措置などによる一般名への変更による名称変更
⑦残薬確認後の処方箋日数変更
⑧その他(協議にて簡素化できるもの):2021年12月現在、新規追加はなし

大阪赤十字病院薬剤部提供

院外処方箋問い合わせ簡素化導入後の状況、反響

小林 2016年の導入以来、2021年12月時点では398軒の保険薬局と合意に至ることができました。通院に便利な最寄りの鉄道沿線に在住の患者さんが多く来院されますが、三重県や兵庫県方面にも路線は延びているため、合意薬局の範囲は幅広くしたいという希望があります。基本的には区や市の薬剤師会ごとに合意の協議をする場合が多いのですが、ありがたいことに簡素化の取り組みの話が伝わり、個々の保険薬局から患者さんのためにと合意締結の申し出を受けることもあります。

院外処方箋問い合わせ簡素化に基づく今後の展望、期待

小林 問い合わせ簡素化の取り組みは、大阪市内の他の病院や地域でも始まっており、最終的には同様のプロトコルをもつ他地域を含めたより広域での包括的な合意ができないか模索しているところです。大阪市北区の北野病院と住友病院は天王寺区と同じプロトコルを運用しており、私たちとともに大阪病診薬連携推進協議会を立ち上げようと話を進め、合意契約書までまとめていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行によって一旦保留になっています。
 また、問い合わせ簡素化を導入することによって、患者さんが「保険薬局薬剤師は自分たちのために処方修正までしてくれる」ということで、保険薬局との関係性がより良いものになると思います。
 そして、この地域において各医療機関と良好な関係を築くことができていますので、これから先の地域における連携を見据えて、地域フォーミュラリーの策定なども医師会や薬剤師会と協議し運用していきたいと考えています。

※令和5年より「院外処方せんにおける問い合わせ簡素化プロトコル(大阪病診薬連携アライアンス)」として運用を開始しております。

入退院時情報共有シートを活用した保険薬局との情報共有

入退院時情報共有シート導入の経緯

吉良 厚生労働省の「令和元年度薬局の連携体制整備のための検討モデル事業」の一環として、大阪府薬剤師会において「入退院時の情報共有を軸とした各種薬学的管理の提案検討事業」が実施されることになり、大阪市天王寺区では2019年10月〜12月の期間に先述の5病院と保険薬局との間で入退院時情報共有シートを用いた情報共有を行いました。より安全で効率的な薬剤管理を実現するために、病院と保険薬局においてどのような情報を共有する必要があるかを明らかにし、また、効率的な伝達方法を検討することが目的です。前年度にも、「患者のための薬局ビジョン推進事業」として、入退院時情報共有シートを活用した検討を行っており、さらに使いやすく改良したシートを用いました。

小林 医師が発行する紹介状は詳細が記載されており、医師同士の連携は十分に取ることが可能となります。一方で、保険薬局と病院薬剤部間の患者情報の伝達はお薬手帳などを介して行われますが、入院時に情報が病院に十分には伝わらず、退院時も保険薬局が把握できるのは処方箋やお薬手帳に記載された情報だけで疾患や治療内容なども把握しにくい状況でした。そこで、医師の紹介状と同様の情報共有をめざして、吉良さんが中心となって本事業を担当してくれました。

入退院時情報共有シートの記載項目、授受の手順

吉良 入退院時情報共有シートは電子的な1つのファイルになっており、入院時も退院時も同じシートに記入します(図3)。例えば、入院中の投薬内容の変更など退院後の服薬指導に必要な情報がある場合は、入院時に記載した服用薬一覧に変更点などを追記します。入院時と退院時の情報を1枚のシートにまとめることで、一元管理でき、変更点が一目でわかる点もメリットではないかと思います。
 具体的な授受の手順としては、入院決定後、病院で入院前面談を行う際に、患者さんへ本事業の取り組みを説明し、かかりつけ薬局に申し出るように促します。保険薬局でも本事業のポスターを掲示するなどして患者さんに周知し、患者さんから入院の申し出があった場合、同意を得たうえで服用情報などを本シートに記載します。今回は、保険薬局とは電子メールで本シートのやりとりを行い、入院時に病院へシートが届くと、入院する病棟の担当薬剤師がシートを活用して業務を行います。退院時には、担当薬剤師が同じシートに必要事項を追記し、保険薬局に電子メールで送信します。

小林 手書きは読み間違えることもあり、吉良さんが電子的なファイルで一元管理する方法などを提案し、電子メール送信も可能として実現してくれました。送信間違いなどのセキュリティの問題も考慮し、専用のメールアドレスを病院で取得して使用するなどしています。

図3 入退院時情報共有シート
入院時の記載項目:自宅での服薬の管理状況、コンプライアンス、薬剤の管理者、一包化の有無、粉砕や脱カプセルなどの状態、副作用歴やアレルギー歴、健康食品やサプリメント摂取の有無、入院前段階での服用薬の一覧など。退院時の記載項目:入院中に行った治療内容や変更があった投薬内容、入院中に発生した副作用やアレルギーの具体的な薬剤や症状、対応を詳細に記載。大阪赤十字病院薬剤部提供

入退院時情報共有シート導入による効果

吉良 本事業では、当院の薬剤師17名が入院患者さん27名に関して本シートを活用しました。担当薬剤師に対して行ったアンケート調査からは、持参薬確認などにかかる時間が短縮したという人数は少なく、時間という観点ではあまり有用ではありませんでしたが、このシートが有用であるという回答がいくつか得られました。例えば、入院時は、「患者さん自身が把握していない副作用歴、アレルギー歴がわかった」、「持参していない薬剤を把握できた」、「術前中止薬を保険薬局で事前に一包化から除外しているという情報提供があり、入院後の業務をスムーズに行うのに有用だった」といった回答が得られています。また、退院時に関しては、「保険薬局で把握していない服用薬の持参があり情報提供できた」、「アレルギー歴を追加で情報提供できた」という回答もありました。

入退院時情報共有シートに関する今後の展望

吉良 本シートが有用な患者さんが一定数存在すると考えられ、今後どのような患者さんでより有用かを検証することが課題の1つとして挙げられます。具体的には、コンプライアンスが不良な患者さんや、本人からの聴取だけでは情報の信頼性が低く不安が残る患者さんなどには有用と考えています。
 本シートは電子的なデータではありましたが、電子カルテとは切り離されているため、病院ではカルテにあらためて入力する手間がかかります。また、保険薬局でもシートを記載する負担が生じるため、より簡便に登録、記入できる方法を検討する必要があると考えています。
 実際には、患者さんが保険薬局の知らない間に入院していたというケースが多々あり、情報共有にとっては課題となります。緊急入院の場合は止むを得ない面もありますが、予定入院の場合は、患者さんに保険薬局への連絡を周知しておくことで保険薬局が把握できる割合が増えるのではないかと考えています。
 今回の事業終了後も保険薬局から本シートを使用して情報提供したい旨の相談を受けることもあり、将来的には、本シートを保険薬局との情報共有の基盤にしたいと考えています。また、今回の事業は、保険薬局が起点となり情報提供する取り組みでしたが、さらに病院側を起点とした情報提供の仕組みも整えられれば、予期せぬ入院でもかかりつけ薬局への情報提供が可能となるので、今後、検討していきたいと考えています。

小林 本事業によって、保険薬局との情報共有が大変有益であることがわかり、さらに連携の基盤が拡張されたと思います。情報共有は簡単ではありませんが、患者さんに「薬剤師は薬物療法をしっかりと管理してくれている」という認識をもってもらうことができれば、患者さんにとってより有益なものに発展すると思います。

がん薬物療法における地域連携の取り組み

がんという領域ならではの薬薬連携の難しさ

山瀬 抗がん薬は、新薬が頻繁に登場し多数のレジメンがあるなど多岐にわたる治療法が存在すること、そして、副作用の頻度が高いことが特徴であり、地域連携の難しさを生む要因でもあると思います。以前は入院で行われていた治療が、新たな方法が開発されたことで外来で行えるようになり、患者さんが自宅で過ごす時間が増えるため、多様な情報を保険薬局と共有する必要があります。個人情報の保護も考えながら、どのように情報共有するべきなのか、迷いながら思案しています。一方で、十分に情報を共有できるならば大変有効に活用できると思いますので、メリットを生むように地域での連携を進めていきたいと思っています。

抗がん薬治療への薬剤師のかかわり

山瀬 外来での抗がん薬治療を受ける患者さんへの当院薬剤師のかかわりとしては、まずメインとなるのが、外来通院治療センターでの抗がん薬調製と患者さんに対する薬剤管理指導になります。加えて、乳腺外科においては経口抗がん薬に関する薬剤師外来を実施しています。また、当院はがんゲノム医療連携病院のため、がんゲノム医療コーディネーター研修を修了した薬剤師4名が、がんゲノム外来において薬物治療を実施する場合に薬剤と副作用の説明を担っています。そして、当院は血液内科の患者さんが多く、造血幹細胞移植を実施しているため、造血幹細胞移植患者長期フォローアップ外来として、移植後の免疫抑制薬の投与やGVHD※2への対応を薬剤師も参画して行っています。同じく血液内科において、サリドマイド製剤やその誘導体に関して、主に調剤室の薬剤師が患者さんの内服管理の確認をしています。

※2)GVHD(graft-versus-host disease、移植片対宿主病)

がん薬物療法における薬薬連携の体制、情報の流れ

山瀬 まず医師による抗がん薬投与実施の確定を受けて、経口抗がん薬が処方される場合、院外処方箋が発行されます。外来通院治療センターで点滴の抗がん薬治療を受ける患者さんの場合は、外来と入院で共通して使用する当院オリジナルの抗がん薬の投与スケジュールや副作用の項目をまとめた抗がん剤治療説明書を用いて、薬剤師がベッドサイドで説明します(図4)。
 この仕組みに加えて2020年度から新たに、保険薬局へ情報を提供することで外来でも患者さんが安心して治療を受けられることを目的に、薬剤情報提供書を発行し、患者さんに内容を説明して同意を得たうえで保険薬局に提示するように指導しています(図5)。さらに、当院ホームページでは、連携充実加算の算定要件に従ってレジメンと抗がん剤治療説明書を掲載していますが、患者さんの同意を得て、これらの書類を保険薬局宛の封筒に同封しホームページを探さなくても院内での指導内容がわかるようにしています。
 保険薬局側からの情報提供には、がん治療服薬情報提供書(トレーシングレポート)を使用してもらいます(図6)。天王寺区薬剤師会で意見交換するなかで、施設ごと疾患ごとに書式があると手間であるという意見があり、5病院共通のトレーシングレポートを策定しています。保険薬局からのトレーシングレポートの送信方法は、がん治療に関してはFAXを使用していますが、電子カルテに入力しないと医師が見逃す可能性もあり、薬剤部が集約して電子カルテに情報を登録しています。確認する医師の負担にならないように、「経過観察」、「提案通り処方を変更」などのチェックボックスを設置することで指示をもらい、その旨、薬剤部から保険薬局へ返信します。
 外来通院治療センターでは、患者さんに薬剤師から1回説明して終わりではなく、できる限りフォローをして問題なく治療が継続できているかを確認していく必要があるため、2回目、3回目の外来時に介入することもあります。また、看護師と連携をとって薬剤に関する問題があれば提起してもらい、医師から服薬指導や副作用確認の依頼を受けることもあります。患者さんに薬剤関係の問題がある場合には薬剤師が介入する体制を整えており、チームの一員としての役割を担っています。

図4 がん薬物療法における薬薬連携の体制
大阪赤十字病院薬剤部提供

図5 抗がん剤治療説明書と薬剤情報提供書
大阪赤十字病院薬剤部提供

図6 がん治療服薬情報提供書
(トレーシングレポート)

大阪赤十字病院薬剤部提供

情報共有ツール(薬剤情報提供書、トレーシングレポート)の活用状況

山瀬 薬剤情報提供書は、外来通院治療センターで初めて抗がん薬治療を受ける患者さんには必須で発行します。また、治療中にレジメンが変更になった方、保険薬局に伝えておくべき情報が発生した方にも発行します。薬剤情報提供書の発行数は月平均約90件となり、それに対するトレーシングレポートの返信は約3分の1程度となる月平均約30件と横ばいで推移している状況です。
 薬剤情報提供書の発行数の増加を期待する一方で、1人の患者さんに説明、指導、モニタリングまで行うには十分な時間が必要です。その分、収集した情報は保険薬局へ提供・共有できていますが、質を低下させずに遂行するには現在の件数が限度ではないかとも考えています。

保険薬局薬剤師を対象とした研修会の開催

山瀬 地域連携を強化していこうとした矢先に、コロナ禍に見舞われ、2020年はウェブ形式で研修会を開催することとなりました。ウェブ形式は移動時間が必要なく参加しやすいメリットもあります。しかし、質問を気軽にしにくかったり、終了後に情報交換をできなかったりするなど参加者からの働きかけが少なくなりがちです。やはり集合形式もあわせて開催したいという考えもあり、感染状況が少し落ち着いた2020年秋頃に集合形式の研修会を開き、現在も状況を見ながら模索しています。
 また、2020年度の研修会から、天王寺区の病院薬剤師と保険薬局薬剤師に一緒に運営スタッフとして参加してもらい、当院が伝えたい情報だけではなく、保険薬局の立場から知りたいことや、当院では伝えられないことを保険薬局薬剤師に解説してもらうといった試みをしており、常によりよい研修会にしたいと考えながら運営しています。

がん薬薬連携の取り組みを円滑に進めるポイント

山瀬 もちろん保険薬局薬剤師と意見交換を十分にすることで円滑に進んでいくと考え心がけています。そして、トレーシングレポートのように医師に情報共有して返答してもらう必要がありますので、院内の医師に保険薬局との地域連携の重要性を理解してもらうことも大事だと思います。

これまでのがん薬薬連携の振り返りと今後の展望

山瀬 薬剤情報提供書とトレーシングレポートを導入したことによって、保険薬局薬剤師からは、経口抗がん薬処方時に単剤治療か併用治療かがわかるなど患者さんの治療背景を知ることができ、病院で発生した副作用も把握したうえで、支持療法の説明やさらに他の薬剤も管理することができるので有用であるといった意見を多数もらっています。
 病院としても、トレーシングレポートを送ってもらうことで、医師に相談して経口抗がん薬を止めて来院してもらったケースや次回の支持療法の追加につながったケースもあり、患者さんにとって有益な取り組みができていると考えています。
 薬薬連携のための各種ツールを導入してからおよそ2年目になりますが、保険薬局薬剤師と病院薬剤師の意見を出し合い、より使いやすいものに改訂していきたいと考え、研修会などで議論していきたいと思っています。また、紙のツールだけでは情報共有が十分ではないこともあるので、より患者さんに有益な治療を実現できるように、保険薬局薬剤師とともにカンファレンスのような情報共有や協議ができる機会を作りたいと考えています。

おわりに

よりよい薬薬連携をめざす方々へ

吉良 保険薬局との円滑な情報共有が、より安全で患者さんが安心できる薬物治療につながっていくと思います。その意識を保険薬局と共有するとともに、薬剤部内でも共有することが大切です。そのために、普段から薬剤部内でも関連事項を話し合う機会をもつことができれば、薬剤部内・外でよりよい薬薬連携の構築につながっていくのではないかと思っています。

山瀬 連携のスタート時には、地域の病院や保険薬局に協力を要請する声掛けを誰が最初にするかという難しさがあるかもしれません。薬剤部長の力を借りて連携への協力を地域の病院や保険薬局へ伝えてもらい、まず一度、地域の方々が集まることができれば、そこから次へと動いていくと思います。そのため、まずは一歩踏み出すことが大切だと思っています。踏み出した後は、病院の医師や保険薬局薬剤師の方々の意見を聞き手直しをくり返して新たな活動ができるようになり、少しずつ連携の形ができ上がっていくと思います。

小林 今回、この地域の薬薬連携について私たちが話す機会をいただけたのは、天王寺区の4病院の方々の力があってのことです。4病院の薬剤部長、薬局長も「まず地域のことを考える」という同じ想いをおもちだったと思います。個々の病院が抱える背景や関連病院などが異なるなかで連携するのは難しさがあり、誰しも自分の病院を第一に考えがちですが、ありがたいことに各病院の院長や幹部も含めて「まず地域をよくしてから自分の病院の特徴を発揮しよう」と考える方々が一緒に活動してくださったことが、この地域における薬薬連携の構築につながったと思います。さらには、地域のクリニックや保険薬局の方々が5病院をつないでくださっています。加えて、若手・中堅の薬剤師やスタッフが地域の指導的立場にある方々の姿を見ることで、よりよい医療の実現のために、自分の病院だけがよければいいのではなく、お互いに協力していく意識が身についています。薬剤部の一部の人間だけが考えるのではなく、全世代のスタッフが地域連携の必要性を考えることがポイントの1つであると思います。そして、各医療機関においても、同じ意識をもっている点がこの地域の強みとなっています。今になって思うことは、地域連携が重要であるという意識がこの地域の土壌として育ち、ゆっくりと形になってきたということです。地域の方々に深く感謝しています。

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