がんサポート薬剤師外来による薬剤師の貢献と円滑に進めるポイント

公開:2022年11月21日

公立学校共済組合中国中央病院

薬剤部長  大塚 識稔 先生

副薬剤部長 石井 一也 先生

主任    神原 康佑 先生

左から大塚先生、石井先生、神原先生

 公立学校共済組合中国中央病院薬剤部では、がん薬物療法のさらなる充実をめざして、2016 年にがんサポート薬剤師外来を開設するとともに、保険薬局との薬薬連携を密に構築してきました。今回、薬剤部長として種々の取り組みを推進されてきた大塚識稔先生、病棟業務に注力しながら薬剤師外来の開設に尽力されてきた副薬剤部長石井一也先生(日本医療薬学会認定がん専門薬剤師、日本病院薬剤師会認定がん薬物療法認定薬剤師)、そして、薬剤師外来を担当し発展に務めてきた主任神原康佑先生(日本医療薬学会認定がん専門薬剤師、日本病院薬剤師会認定がん薬物療法認定薬剤師)にその取り組みの内容や円滑に進めるポイントなどを伺いました。
(取材日:2022年5月23日、取材場所:福山ニューキャッスルホテル)

がんサポート薬剤師外来における薬剤師の活躍

2016年7月がんサポート薬剤師外来を開設

大塚 当薬剤部で取り組んでいるがんサポート薬剤師外来は、薬剤師が担う業務の幅をまずはがん領域から広げていくことを意図して始めました。薬剤師の職能をより一層、活かすことを強く推進し、石井と神原が中心になって発展させてきました。

神原 2016年当時はまだ薬剤師外来のある施設は、全国的にも珍しかったと思います。開設した目的としては、医師の業務負担軽減が挙げられますが、それだけではなく薬剤師の職能をアピールすることで病院内での立場を向上したいという思惑もありました。開設当時、病棟には薬剤師が常駐し入院患者さんの薬物療法に寄与できる体制を整えていましたが、外来はまだ手薄な状態でした。当時の外来がん化学療法への薬剤師のかかわりは主に化学療法室で注射抗がん薬により治療を受けられる患者さんを中心に処方監査や副作用のモニタリング、処方提案などを行っていました。一方、外来で経口抗がん薬による治療を受けられる患者さんには、院内の薬剤師がかかわる機会は限られており、有効、安全な薬物療法に貢献できているとは言いがたい状況でした。患者さんが医師の診察後に向かう保険薬局の薬剤師も、処方箋からの情報と投薬時の面談だけではあまり深い関与はできていなかったと思います。そこで、2015年に私ががん薬物療法認定薬剤師資格を取得したタイミングで、外来で経口抗がん薬により治療をされる患者さんを対象としたがんサポート薬剤師外来の開設に向けて動き出すことになりました。

石井 がん領域は医師や患者さんの医薬品に対するニーズが高い領域でもあり、さらに、神原が力強く押し進めてくれたおかげで薬剤師外来を開設できたと思います。しかし、すんなりスタートした訳ではなく、開始まで足踏みしていた時期もあり、何から手を付けるべきか少し難しさを感じていました。そこで最初は、薬剤師外来で想定された活動内容を実施できる場所の確保と、外来業務に当てられる時間の確保から始めていきました。

神原 薬剤師外来を実施する場所の確保に関しては、患者さんと面談するスペースが必要でしたが、当時、看護師が検査説明をするための面談室を外来に作るという話がもち上がり、前薬剤部長が薬剤師外来のためのスペースを併設して分けてもらえるように交渉し確保してくれました。その後、外来にあった化学療法室の移設に伴い、その跡地に新たな面談室を設けることになり、大塚部長が交渉した結果、現在は広く、プライバシーも考慮された面談室を使うことができています。
また、がんサポート薬剤師外来は、診察前の待ち時間を活用して実施しています。患者さんには診察前に行う血液検査などの検査結果を待つ間に面談を行うことで時間を有効に使っています。医師だけが関与していた経口抗がん薬を処方された患者さんに対して、薬剤師が積極的にかかわることができるようになりました。

がんサポート薬剤師外来における取り組みの内容

神原 当院のがんサポート薬剤師外来(図1)の対象は、外来通院で経口抗がん薬を服用しているすべての患者さんとなり、同意を得て実施しています。薬剤師外来に来る患者数は1日あたり5〜20名以上と曜日や週によって波があります。担当する薬剤師は、外来化学療法室での面談とがんサポート薬剤師外来の業務を2名で受けもち、曜日ごとに交代しています。
がんサポート薬剤師外来で患者さんから聞き取る具体的な内容としては、患者さんの訴えや副作用のモニタリングなどがありますが、がん治療中の患者さんは、副作用の訴えとともに心理的に大きな負担があると強く感じています。「治療はいつまで続けるのか」、「薬に効果はあるのか」、「この症状は副作用か」などいろいろな悩みを抱えて外来通院している方がたくさんいますが、診察時に医師へ尋ねようと思っても遠慮してなかなか口に出せずにいることが多くあります。そこで、薬剤師が患者さんに近い立場で不安に思っておられることを聞き取り説明するなど、心理的なサポートにも重点を置いています。薬剤師外来で得られた情報は医師と共有し、支持療法の提案や特定の抗がん薬に必要な検査の確認や必要時オーダーを提案するなどのサポートを行っています。

図1 がんサポート薬剤師外来の概要公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

がん領域における薬薬連携〜がんサポート薬剤師外来で得た情報を提供する

図2 がん領域を含めた薬薬連携の主な概要公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

院外処方箋への臨床検査値とレジメンの記載

大塚 保険薬局への情報提供をさまざまな方法で行ってきましたが(図2)、その1つとして2014年から院外処方箋に臨床検査値とレジメンの記載を開始しました。
当時は、院外処方箋に臨床検査値を印字している施設は全国的にもまだ少ない状況でした。しかし、検査値13項目を印字する必要性を院内でアピールし了解を得て始まりました。最初の頃は、「どうして検査値を保険薬局に教える必要があるのか」と納得してもらえない患者さんもいましたが、今では、保険薬局で検査値を確認する必要性が伝わってきたようで、すべての患者さんから同意を得ることができています。

石井 レジメンの記載については、2014年のスタート時点では、処方箋にレジメンを印字しているものの、おそらく保険薬局では内容はほとんどわからない状況だったのではないかと思います。そのため、2020年に連携充実加算の施設基準となる前から、当院ホームページでレジメンを公開して保険薬局に情報開示をしてきました。勉強会なども開催してきましたので、今では、保険薬局からレジメンに関する問い合わせもあり、2014年頃と比較して保険薬局の意識も高く変化してきたと思います。

「トレーシングレポート」による保険薬局から病院への情報提供

石井 他にも情報共有のためのツールとしては、「トレーシングレポート」(服薬情報提供書)を導入しています。現在は、広島県病院薬剤師会統一書式(図3)を用いて実施しています。「トレーシングレポート」による情報共有は、以前から当院では薬剤部が窓口になる体制を取っています。

神原 院外処方箋への検査値の記載やレジメン情報の公開を始めたことで、最近は保険薬局の薬剤師も経口抗がん薬や注射抗がん薬の副作用モニタリングや支持療法のチェックを積極的にしていただいています。特に外来で経口抗がん薬を開始した後の患者さんの変化や注射抗がん薬投与後の体調確認などは保険薬局の薬剤師が電話で問診を行い、その結果を「トレーシングレポート」を使用して報告してもらっています。「トレーシングレポート」の報告内容については、外来化学療法室とがんサポート薬剤師外来の担当薬剤師が確認し、必要に応じて医師に報告します。一方、吐き気などの副作用で食事がほとんど摂取できない、ひどい下痢をしている、発熱しているといった緊急の対応が必要と思われるときは、「トレーシングレポート」ではなく「院外処方箋疑義照会票」で送るようにお願いしています。

図3 広島県病院薬剤師会統一トレーシングレポート公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

「経口抗がん剤開始時情報交換書」を活用して未入手情報を補完しあう

神原 保険薬局向け情報提供ツールとしては、「経口抗がん剤開始時情報交換書」(図4)を2020年11月から導入しています。きっかけは、「経口抗がん薬を使用している患者さんについて、私たちにできることありませんか」と門前薬局から相談をいただいたことにあります。
経口抗がん薬は、投与スケジュールが複雑な薬や支持療法薬が多数処方される場合もあるため、外来で経口抗がん薬を開始するときにはがんサポート薬剤師で初回説明を行っています。多くの患者さんは「わかりました」と言って病院をあとにされますが、特にご高齢の患者さんに本当に理解してもらえているのか心配でした。また、その後、患者さんは保険薬局で経口抗がん薬を受け取りますが、保険薬局の薬剤師には処方箋しか手がかりがなく、疾患によって投与スケジュールや投与量を変更する薬剤や、腎機能や患者さんの忍容性に合わせて用量調節をしている場合など、処方意図を十分理解した処方監査ができない可能性もありました。また、病院薬剤師の説明をどの程度理解されているかわからないまま投薬することになるため、理解度に合わせた説明を行うには不十分との意見がありました。
このように、病院薬剤師は服薬指導後の患者さんの理解度、一方の保険薬局側では処方の適格性や患者さんの理解度に応じた服薬指導を行うにはそれぞれに不足している情報があると感じていました。そこで、特に外来で経口抗がん薬を開始するときが最も間違いが起きやすいと考え、保険薬局と協同して、「経口抗がん剤開始時情報交換書」を作成し病院から保険薬局へ、病名や用法・用量、服用スケジュールの開始日や投与量を調節した理由など処方監査に必要な情報を提供することにしました。これを外来で経口抗がん剤が開始される場合に患者さんの同意を得て保険薬局にFAXしています。

図4 経口抗がん剤開始時情報交換書公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

「患者さんの理解度確認シート」による理解度の把握と服薬指導

神原 保険薬局では、外来で経口抗がん薬が開始された患者さんに「患者さんの理解度確認シート」(図5)へ記入してもらい、薬剤の内服スケジュールや用法・用量、副作用やその対応などに関する説明の理解度を確認しています。患者さんの理解が不十分な箇所があれば、その点を保険薬局の薬剤師が重点的に説明することで、より安全ながん薬物療法が行えると考えました。理解度確認シートおよび、理解度を確認した結果を「経口抗がん剤開始時情報交換書」の下部欄に記載して病院へ返信してもらうことで、病院薬剤師も患者さんがどの程度理解していたか確認でき、理解度が低かった部分は次回の薬剤師外来で再度確認することができるようになりました。
「経口抗がん剤開始時情報交換書」と「患者さんの理解度確認シート」はセットで運用しており、福山市薬剤師会協力の下、運用方法に関する説明会を開催し、この取り組みに賛同していただいた保険薬局との間で使用しています。現在、福山市内では28の保険薬局が参加し、導入後から1年間で128件の運用実績(2020年11月1日〜2021年10月31日)がありました。
今では「経口抗がん剤開始時情報交換書」だけではなく、次の受診までの期間にテレフォンフォローアップを実施して、その結果を「トレーシングレポート」で返してくれる保険薬局もあります。病院薬剤師がフォローできていない領域を保険薬局の薬剤師が積極的にカバーしてくれていると思います。

図5 患者さんの理解度確認シート公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

「薬剤管理サマリー」を用いた退院時の情報共有

石井 「薬剤管理サマリー」(図6)は、がん患者さんに特化したものではなく入院患者さん全般に活用しており、退院時薬剤師情報連携加算の要件に該当する文書になります。入院中に発生した副作用やアレルギー、直近の検査情報、入院中の服薬管理方法などの情報を記載し保険薬局に提供しています。
がん患者さんの場合は、入院中に発生した副作用を継続して確認してもらえるように副作用情報を提供しています。また、個々の保険薬局がすべての経口抗がん薬の在庫を所有している訳ではないので、「薬剤管理サマリー」を用いることで、退院する患者さんに必要な薬剤の在庫を揃えてもらうための情報共有もできていると思います。
2018年5月から取り組み始め、年間416件と件数も多くなり(2020年11月1日〜2021年10月31日)、保険薬局からも大変参考になると評価を得ています。患者さんは、退院後の治療期間の方が圧倒的に長くなりますから、保険薬局へ情報をできるだけ提供したいと考え、当院の薬剤師も積極的に取り組んでいます。

図6 薬剤管理サマリー公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

場面や状況に応じた連携ツールの使い分け、特定の疑義照会の簡略化

石井 また、保険薬局に術前休薬への協力を得ることを目的とした「入院前施設間情報提供書」や、退院時に入院中の変更・中止薬剤などの情報を診療所へ提供する「退院時薬剤情報提供書」、それらに該当しないさまざまな情報提供に使用できる「施設間情報連絡書」、そして「院外処方箋疑義照会票」、「残薬確認の報告書」、「インシデント等報告書」などのツールを用意しています。当院では、このようなさまざまな連携ツールを年々導入し、場面や状況に応じて使い分けて、薬薬連携や開業医を含めた地域の医療機関との連携を進めています。

大塚 その他、2018年からは各保険薬局と院外処方箋に関する合意書を締結し、特定の事務的な剤形変更や規格変更などは事前に包括的に変更可能としておき、毎回の疑義照会はせずに事後報告としています。これらは保険薬局での患者さんの待ち時間や業務上の煩雑さを低減することを目的にしています。

「分子標的治療剤皮膚障害の予防・治療フローチャート」により薬剤師介入を標準化

神原 2018年4月には、「分子標的治療剤における皮膚障害の予防・治療に関するフローチャート」を作成しました。当時は、皮膚障害の発生頻度が高い経口抗がん薬が新たに登場し、薬剤師外来においても皮膚障害のマネジメントをする機会が多くありました。症状に合わせて支持療法薬や代薬の提案はしていたものの、根拠が十分ではありませんでした。そこで、皮膚障害の状態に応じた薬剤選択のルールを定め、それに基づいて医師に提案すればより説得力があると考え、このフローチャートを当院皮膚科医の協力のもと作成し運用を開始しました。
一方、外来では薬剤師外来で処方提案した薬剤も保険薬局で受け取ることになるため、保険薬局薬剤師が処方意図を汲み取って適切な指導をする必要がありました。そこで、フローチャートの作成と同時に保険薬局の薬剤師を対象に抗がん薬による皮膚障害の予防、治療に関する研修会を実施しました。研修会では、実際に当院で皮膚障害が発生した患者さんの症例写真や情報を提示したうえで、このフローチャートを使ってどのような対策を立てるか、グループワーク形式で病院薬剤師と薬局薬剤師が混じって症例ごとに対策を検討しました。このフローチャートは当院ホームページに掲載し、いつでも閲覧できるようになっています。

石井 このフローチャートがあることによって、経験の浅い薬剤師であっても全員が同じ対応をできるようになります。誰もが同じ介入をできるのは、大きなメリットと感じています。

大塚 経口薬は注射薬と比較して副作用発現のタイミングが異なることも多く、また、たくさんの分子標的薬が登場しているなかで、このフローチャートを活用することで、どの薬剤師が副作用マネジメントを行っても一定レベル以上を担保でき、汎用性の高い有用なツールであると考えています。

図7 分子標的治療剤皮膚障害の予防・治療フローチャート公立学校共済組合中国中央病院薬剤部提供

保険薬局薬剤師へのがん薬物療法に関する研修会の開催

神原 保険薬局薬剤師を対象にしたがん薬物療法に関する研修会は、コロナ禍前は年2回開催し、1回は院内の医師か薬剤師が講師を務め、もう1回は外部講師を招聘していました。コロナ禍では集合研修ができないため、連携充実加算と特定薬剤管理指導加算2の施設基準としての研修会をウェブで開催しています。

石井 先ほどの皮膚障害のグループワークも、保険薬局薬剤師から意見を出してもらったり、他の保険薬局や病院の薬剤師と交流できたり、参加者の意欲が高く学びの多い研修会でしたが、コロナ禍では開催できていないのが残念です。これから再開できることを願っています。

がんサポート薬剤師外来の現在とこれから

がんサポート薬剤師外来の導入による効果

石井 患者さんが病棟から外来に戻る際に、初めて入院した患者さんには、今後は薬剤師外来で薬剤師が面談することを伝えたり、入退院をくり返している患者さんには、薬剤師外来を予約しておくことを伝えると安心されます。薬剤師が時間をかけて話を聞いてくれるのは、患者さんにとって安心材料になっているように私には見えます。

大塚 医師には言いづらい重要な情報を薬剤師には話してくれたりするので、患者さんから話を聞き出せることも薬剤師の存在意義につながっていると思います。

がんサポート薬剤師外来の課題、今後の展望

神原 病院から保険薬局へ情報を提供する際には、初回は手厚く充実した体制が整ってきたと思います。しかし、例えば、減量や休薬、再開、あるいは支持療法の追加といった治療途中に変化が加わった場合に、まだ十分な情報提供ができていないと考えています。ここが充実すれば、より安全な治療につながると思います。

石井 当施設の今後の課題として、がん以外の領域でも同様に薬剤師外来の取り組みができればと考えています。がんはもちろん重点領域ですが、当院は急性期病院ですから、その他の患者さんも多く来院されますので全体を網羅したいと思います。

大塚 がん患者さんは、高齢になると高血圧などさまざまな合併症を抱えるようになりますから、幅広い領域をサポートする必要があると思います。一気にすべての領域には手が回りませんので、必要な薬剤師数を見極めながら、新たな領域の薬剤師外来を検討していきたいと思います。

薬剤師外来や薬薬連携の円滑な導入・運営をめざす方々へ

がんサポート薬剤師外来を円滑に導入・運営するポイント

神原 当院のがんサポート薬剤師外来は、薬剤師として積極的に外来の治療にもかかわりたいという想いから開始しました。今、入院では、病棟薬剤師が充実した薬物療法やサポートができていますので、その後を引き継いで外来でも同様のサポートをしたいという目標をもつことも大事だと思います。

石井 病院のなかで薬剤師が自らのポジショニングをしっかり取っていくことも大事だと思います。病院薬剤師の基本となる病棟業務を通して他職種から信頼を得ることができれば、必要な人員や場所、時間、あとはやる気次第で薬剤師外来を導入できるのではないかと思います。

神原 多くの病院で薬剤師外来が実現できないのは、現状では診療報酬の課題があるかもしれません。今は算定がなくても患者さんのためにまずは始めることが大切で、それを上層部が認めてくれる環境が必要かもしれません。

石井 それにはやはり病院から薬剤師が認められることが必要になりますね。診療報酬に結び付かないとしても、タスクシフティングにより医師のサポートになる、あるいは医療の質の向上につながるといった収益以外で貢献するという考え方が必要ではないかと思います。

大塚 薬剤師が院内で信頼関係を築くことは大変重要です。それに加えて、論文や学会発表などで薬剤師外来の効果についてデータを提示するといった学術的なエビデンスの構築も必要と考えています。人手が少なく忙しい環境にはありますが、学術活動に注力していきたいという課題意識をもっています。

石井 確かに学術的なエビデンスを作ることは、未来のために大切ですね。私たちのような一般病院から新しいエビデンスを発信したいと夢見ています。

薬薬連携を円滑に導入・運営するポイント

石井 地域の薬剤師会との連携が一番大事だと思います。新しいことをしようと思っても、病院単体でできるものではありません。地域の保険薬局をまとめてもらえるのは薬剤師会だと思います。私たちの地域では密に連携を取れているので、新しい取り組みがしやすい環境にあると思います。地域薬剤師会とのつながりを大事にされると、連携に関する取り組みをスムーズに導入できるのではないかと思います。

薬剤部内の情報共有の重要性

石井 薬剤部と保険薬局、院内他部門の連携も重要ではありますが、薬剤部内の各セクションの連携、特に病棟薬剤師と外来薬剤師の連携も大変重要であると考えています。入院患者さんが外来へ戻る際に、病棟薬剤師から保険薬局薬剤師に情報を提供するだけではなく、外来薬剤師にも情報を送ることでシームレスな介入が可能となるので、病棟と外来のつながりも大事にしています。
また、担当薬剤師によって共有される情報に差が出ないように、外来薬剤師への定型の伝達項目を作り電子カルテにテンプレート化しています。全員が定型の項目を入力することで、ある程度、同じレベルで情報を共有できていると思います。

おわりに

がん薬物療法における病院・保険薬局薬剤師のこれから

大塚 「患者のための薬局ビジョン」に「対物から対人へ」というスローガンが掲げられていますが、保険薬局薬剤師に対しては、これからより一層、求められていくと感じています。
一方の病院薬剤師については、根本的な問題として、今、薬学生のなかで志望者が少ないと感じています。人材が揃わないと、新たに取り組みたいことがあっても手を出せません。当院は、病床数237床に対して薬剤師が18名いますが、足りない状況にあります。病院薬剤師の人材確保という根本的な課題を解決しながら進めなくてはなりません。
また、石井さんが先述したように、病棟から外来の薬剤師へ、外来の薬剤師から保険薬局へ、入院時には保険薬局から病棟薬剤師へとシームレスに連携していくことが求められていますので、病院薬剤師と保険薬局薬剤師が同等の情報をお互いにもち、共通言語で話せることが重要になってくると思います。

石井 がん治療は病院だけでは当然できません。ほとんどの患者さんが外来通院の今、保険薬局の力は欠かせないと思います。そのため、大塚部長の指摘のように、保険薬局との連携が重要だと感じています。これは地域として取り組む課題だと思います。例えば、合同研修会の開催や、当院が研修施設として保険薬局薬剤師を受け入れるなどの方法で連携を図ることが地域として大事ではないかと思っています。研修の受け入れだけではなく、私たちの経験を活かして、症例報告の書き方の相談に乗るなど病院側から日常的にサポートする姿勢をアピールをしながら連携を進めていきたいと考えています。病院から十分な情報を提供し、そして保険薬局から返ってきた情報を丁寧に院内で取り扱い、再び保険薬局へ返すといったさまざまな場面でつながりを密にして、地域全体でレベルを上げていくのが目標です。

神原 薬剤師外来の担当として、専門性をもった立場で仕事をしているので、保険薬局にも専門性をもった薬剤師がいると話が通りやすいと思います。私たちは保険薬局の仕事を十分に知っている訳ではないので、がん薬物療法に関して保険薬局ができることをいろいろ提案してもらえるようになると理想的です。お互いにさまざまな提案をしながら、充実した薬物治療を実現したいと思っています。

患者さんのためによりよいがん薬物療法をめざす薬剤師へ

大塚 薬剤師がよりよいがん薬物療法の実現に貢献するためには、3つのSIONが必要だと思います。これは、Vision(ビジョン:目標、戦略)、Mission(ミッション:使命)、そして、Passion(パッション:情熱)を指します。ビジョンだけでは道を進むには足りず、ミッションだけでも進むべき道がわかりません。そして、最も大事なのはやる気にかかわるパッションでしょう。薬剤師が最適な薬物療法に寄与することによって、がん患者さんのQOLを高めることが大切であると思っています。

POINT

  • がんサポート薬剤師外来では、副作用のモニタリングや患者さんの訴えの聞き取りとともに心理的サポートにも重点を置いています。
  • がんサポート薬剤師外来での面談に基づき、医師に対して副作用発現時の支持療法や検査オーダーの提案などの支援を行います。
  • 広島県病院薬剤師会統一書式の「トレーシングレポート」を用いて、保険薬局から病院へ残薬報告や抗がん薬の副作用モニタリングなどの情報提供を行います。
  • 病院と保険薬局の各々に不足している情報を補完するために、「経口抗がん剤情報交換書」と「患者さんの理解度確認シート」をセットで運用しています。
  • 「薬剤管理サマリー」、「入院前施設間情報提供書」、「退院時薬剤情報提供書」などのツールを場面や状況に応じて使い分け、薬薬連携や地域連携を図ります。
  • 「分子標的治療剤皮膚障害の予防・治療フローチャート」を用いることで、薬剤師による介入レベルを一定以上に担保できます。
  • がんサポート薬剤師外来において薬剤師とコミュニケーションを取ることによって、患者さんは安心して薬物治療に臨めています。
  • がんサポート薬剤師外来を円滑に導入・運営するためには、積極的に外来にもかかわりたいという目標をもつこと、また、病院のなかで薬剤師のポジショニングを取っていくこと、そして、薬剤師外来がもたらす効果について学術的なエビデンスを構築することも重要です。
  • 薬薬連携を円滑に導入・運営するためには、地域の薬剤師会との連携が最も大事です。
  • 病棟薬剤師と外来薬剤師の連携によって、患者さんにシームレスな介入が可能となります。
  • 病院薬剤部では、人材確保という根本的な課題を解決する必要があります。
  • 保険薬局薬剤師と病院薬剤師が相互に提案しながら、充実した薬物治療を実現することが求められます。
  • 3つのSION(Vision、Mission、Passion)に基づいて、薬剤師が最適な薬物療法の実現に貢献することによって、がん患者さんのQOLを高めることが大切です。
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