公開:2022年09月15日
更新:2024年09月
公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院 薬剤部
薬剤部長 尾上 雅英 先生
副部長 三宅 麻文 先生
係長 近藤 篤 先生
左から尾上先生、三宅先生、近藤先生
近年、活躍の場が広がる薬剤師には、院内におけるチーム医療での貢献はもとより、院外のチーム医療とも言える地域連携での貢献も求められています。また、患者さんが安全に入院し治療を受け退院していくために、その支援の重要性が今、注目されています。考え抜く力をもった薬剤師の育成に取り組む北野病院では、チーム医療や地域連携、そして、入退院支援などにおいて、いかに薬剤師が他職種や患者さんのために貢献できるかを追求しています。今回、同院薬剤部長 尾上雅英先生、副部長 三宅麻文先生、係長 近藤篤先生にこれらの取り組みの概要や円滑に進めるポイントなどを伺いました。
(取材日:2022年5月26日、取材場所:オンライン取材)
はじめに-薬剤部の理念、方針
尾上 現在、当院のコーポレートスローガンとして、改善、ICT(情報通信技術)、教育、広報の4つの要素からなる「Kitano Quality」を掲げており、その方針に従って薬剤部でも目標などを定めています。まず当院の理念である「1.質の高い医療を実践し、信頼される病院をめざします」、「2.病む人の立場に立った安心の得られる病院をめざします」、「3.各自が医療人としての誇りをもって最善を尽くす病院をめざします」に基づいて、私たち薬剤部では、「患者さんに信頼と安心を与えるため何ができるか常に考えて、行動できる薬剤師」を理念に掲げめざしています。また、2022年度の病院としての目標を「力を合わせて」と定めており、病院内でそれぞれの職員が協力して業務に取り組んでいきたいと考えています。さらに薬剤部では、「考え抜く」を目標に掲げており、目的や意図を大切にし、どのように行動すべきかを考え抜いたうえで前進するという意味をここに込めています。
チーム医療への薬剤師の貢献
各種医療チームへの参画、ASTにおける薬剤師の評価と貢献
尾上 現在、ICT(感染制御チーム)やAST(抗菌薬適正使用チーム)など院内の医療チームのほぼすべてに薬剤師が参画し、組織横断的に活動しています。一方、病棟業務においては、医薬品の有効性と安全性の向上をめざして、服薬指導や副作用モニタリングなどに携わっています。チーム医療の推進にあたっては、医師や看護師、他のメディカルスタッフなど他職種との連携が大切です。
ASTにおいては、薬剤師がチームリーダーを務めています。これは、2018年に診療報酬で抗菌薬適正使用支援加算が新設された際に、病院からぜひ薬剤師がリーダーを務めてほしい旨の要望があり実現しました。それまで何十年間に渡り薬剤部の職員たちが積み重ねてきた努力を病院が評価してくださり、大変ありがたく感じています。現在、ASTには感染制御専門・認定薬剤師や抗菌化学療法認定薬剤師の資格保有者3名が交代で携わり、改築して広くなった感染制御対策室にて2022年4月からは専従で業務に当たっています。業務内容としては、長期投与あるいは届け出制で投与が可能となる抗菌薬が適正使用されているかを評価し、その結果を感染制御対策室の医師へ伝達したり、毎週木曜日に開催されるASTカンファレンスに向けて数百例をまとめた資料を準備するなど、抗菌薬の適正使用に関するすべての業務に携わっています。また、ASTとICTが合同で動いており、病院全体の感染対策に関与しています。
外来・病棟でのがん薬物療法におけるチーム医療への薬剤師の貢献
近藤 外来化学療法センターでは、数名の薬剤師で抗がん薬調製と、薬学的管理・服薬指導を担当しており、服薬指導に関しては、がん関連の資格を所有する薬剤師が交代で担当しています。業務内容としては、依頼があった患者さんに服薬指導を行い、常駐する腫瘍内科医と看護師とともに朝・夕方のカンファレンスに参加しています。朝のカンファレンスでは、当日来院予定の患者さんについて問題点や特に重要な情報をチーム内で共有し、安全に化学療法を実施するための取り組みを行っています。夕方は、当日の患者さんの状態などを共有することで次回の治療につなげています。安全で有効ながん薬物療法を継続するために、チーム内では薬剤師の視点から副作用マネジメントなどに関する意見を述べる役割を担っています。
病棟においては、各病棟に病棟担当薬剤師が1名ずつ配置されており、各診療科や病棟で多職種が参加して開催されるカンファレンスに参加し、薬剤師から情報提供や支持療法の提案などを行っています。
緩和ケアチームにおける薬剤師の貢献
三宅 緩和ケアチームでは、薬剤師の他、緩和ケア専門医を含む医師、看護師、栄養士、理学療法士、MSW(医療ソーシャルワーカー)という必要な職種を網羅して院内横断的な体制を整え、患者さんの希望を最期まで実現するためにどのような支援が必要かを考えて動いています。週1回、開かれる緩和ケアチームのカンファレンスでは、おのおのの職種が相談したい患者さんを議題に上げ、他職種から意見をもらい、介入を検討していきます。チームのなかで検討される方向性を共有しながら各職種が介入する手順を取っています。
チーム医療において薬剤師が果たすべき今後の課題、展望
尾上 薬剤師としてチーム医療へ参画する際には、薬剤部を代表する“顔”としての責任を背負うことになります。そのため、チーム内で薬剤師に求められる知識や経験をもち貢献できる若い薬剤師を育成していくことがこれからの課題です。三宅さんや近藤さんのように、緩和ケアやがんという個々の領域でチームを牽引する役割を担いながら、同時に次世代を育て引き継いでいくことが大切だと思っています。
また、患者さんにとって入院は一瞬の期間であり、退院後のフォローは保険薬局が担うため、病院内だけではなく病院外ともチームとして連携を取り、患者さんの薬物療法をつないでいくことも一つの課題であると考えています。
近藤 がん薬物療法に関しては、近年、多種多様な治療薬やレジメンが登場しています。例えば、免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗がん薬の併用がさまざまながん種で行われるようになりました。そこで、個々の診療科ごとではなく、臓器横断的に見ることができる薬剤師が広い視点をもって情報収集し、必要な情報を各診療科へ還元していくことが大事になると思います。
また、薬剤師の活躍が期待される領域として支持療法があると思います。がん治療を継続するために、患者さんや看護師ともコミュニケーションを取り、しっかりと服薬指導をしていくことが大事だと考えています。
三宅 化学療法においても、治療の場が入院から外来にシフトしており、自宅や施設など療養している場で治療を安全に続けてもらうことが大切です。緩和ケアにおいては、患者さんが希望に沿った最期を迎えるために、薬剤師として北野病院としてどのような取り組みができるかを考えることが大事だと思います。
また、外来化学療法においては院外の薬剤師や医師との連携が課題と考えています。院外で患者さんを支える方々に患者さんの情報をいかに的確に伝えるかについては、まだ改善点が多いと感じています。今後は、病院がもつ情報を発信し、院外の情報を効率よく院内での治療にまた活かしていくといった好循環を生み出していきたいと考えています。
チーム医療に薬剤師が貢献するためのポイント
尾上 チーム医療では、多様な職種が集まり、同じ視点からではなく異なる視点から患者さんを見ることが重要であると思います。薬剤師の場合は、疾患と薬物療法という視点から判断していくことが求められます。また、自らの経験や考えをもち、必要に応じて自分の意見を他職種に理解してもらえるように伝えられる能力をもつことも必要です。
近藤 チーム内で普段から話しやすい環境や雰囲気を作り、コミュニケーションを十分に取ることを私自身は大事にしています。ちょっとしたやり取りから把握できる情報もあり、看護師、栄養士などいろいろな職種と密にコミュニケーションを取ることを心がけています。
三宅 チームという名称がなくても、通常の業務からすでにチームでの活動は始まっていると思います。セントラル業務でも病棟業務でも他職種とのかかわりはあり、さらに当院では後述の入退院サポートステーションのように院外とかかわる機会の多い業務もあります。通常業務のなかで薬剤師以外の他職種とのかかわりが少しずつ広がっていき、最終的には薬剤部を代表してチームに入ることにつながるのだと思います。
新しいチームに入るときは、まず尻込みせずに参加してみることが大切です。事前に勉強や準備は必要ですが、チーム内でコミュニケーションを取り始めることによって、薬剤師と他職種の視点の違いがとても明確に見えてきます。そこで見えてきた違いは、薬剤師らしさであり、薬剤師独自の視点です。それを患者さんへの介入につなげていくことが大切だと思います。
地域の病院や保険薬局との連携
地域の病院や保険薬局との連携が始まった経緯
尾上 当院のある大阪市北区では、2006年に吸入指導ネットワークができた頃から近隣保険薬局との連携が始まったと伺います。
私が2013年に着任してからは、前任地で行われていたトレーシングレポートなどの取り組みを当院の地域にも導入しようと考え、まず保険薬局と数カ月に1回程度の顔合わせをする機会などを作ることから着手しました。幸い大阪市北区の病院関係者には以前からの知り合いがいて、門前薬局や大阪市北区薬剤師会とも顔見知りになってつながりができ、さまざまな取り組みをできるようになりました。
2017年6月には、大阪市北区にある当院、住友病院、済生会中津病院において、吸入指導依頼書や報告書、情報提供書を統一化した「おおさか吸入支援連携システム」が稼働しています。
2020年1月には、電子カルテシステムの改修に合わせて、院外処方箋への臨床検査値の表記を開始しました。以前から院内では承諾を得ており、システム改修のタイミングを待って導入となりました。
特に最近では、2020年の薬学部コアカリキュラムの改訂をきっかけに、実務実習の最後に学生による合同発表会を開催しています。発表会には、大阪市北区の病院と実習を受け入れている保険薬局の薬剤師、大学教員も参加します。また、実務実習に関する協議会も開いて実習内容を議論するなどし、教育面においても地域で顔を合わせる機会ができ、連携が築かれるようになりました。実務だけではなく教育もテーマにすると、より幅広い分野から人が集まりますので、さまざまな情報交換をする機会にできると思います。
院外処方箋における疑義照会事前合意プロトコルを地域で統一
尾上 院外処方箋における疑義照会を簡素化する事前合意プロトコルは、前任地で行われており、いずれ地域で導入に向けて動き始めると考えていました。その頃に交流のあった大阪市天王寺区にある病院や薬剤師会が導入を検討していたので相談したところ、この機会に地域で統一化をめざす方針になったと記憶しています。2017年に大阪市北区で当院と住友病院がプロトコルを統一し、それは、2016年に統一していた天王寺区5病院(大阪赤十字病院、大阪警察病院、大阪第二警察病院、四天王寺病院、早石病院)とも同じ形式にしており、開始時から地域で拡大していくビジョンをイメージしていたと思います。
統一するためのポイントとしては、最初から高いハードルをめざすのではなく、まずは誰でもできるようなレベルの内容から始めた方が、スムーズに同じベクトルを向くことができるかもしれません。
がん薬物療法に関する薬薬連携
尾上 2014年には、経口抗がん薬を処方された患者さんに対して、保険薬局から電話確認をする取り組みを行いましたが、これはとても熱心な保険薬局薬剤師の方が希望して始まったものです。その方が患者さんのために実現したいと目的と目標をもって相談に来られたことで、一緒にシステムを構築し、最終的には2016年にこの取り組みに関する論文発表を行うことができ、私も執筆にかかわりました。
近藤 その他、最近の具体的な薬薬連携の取り組みとしては、2020年の連携充実加算の算定開始にあたってさまざまな整備を進めました。算定要件に従い、まずレジメンを当院ホームページに公開しています。また、患者さんに治療中のレジメンの詳細を情報提供しています。レジメンの情報を提供する方法としては、お薬手帳に貼る詳細を記載したシールを作成して、すべての患者さんを対象に交付しています。外来化学療法室に通院される患者さんの場合は、看護師を通じて交付します。このシールをお薬手帳に貼ることによって、地域の保険薬局にも内容を確認してもらえるようにしています。
それから、副作用の発現状況をまとめた文書として、副作用チェックシート(図2)を作成して交付しています。抗がん薬の種類によって発現する副作用が異なるため、殺細胞性抗がん薬と分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の3種類の副作用チェックシートを用意して使い分けています。薬剤師が患者さんから副作用を聞き取り記入して渡しますが、支持療法が必要と思われる場合には主治医に処方提案を行います。その他にも、例えば、下痢があるときは刺激物の摂取を避け水分をよく摂る、皮膚障害を予防するために保湿を十分行うなど、化学療法を継続していくためのワンポイントアドバイスを記載して患者さんの状況に応じた指導を行っています。副作用チェックシートは保険薬局に渡してもらい、保険薬局薬剤師が患者さんにあらためて指導を行うためのツールにもなっています。初回の説明だけでは患者さんも理解するのがなかなか難しいので、継続した指導が大事だと思います。
トレーシングレポートの効果や影響、そして課題
尾上 保険薬局から病院への情報提供のツールとしてトレーシングレポートを導入していますが、現在、当院への提出数は確実に増えてきています。保険薬局から情報提供できる手段として確立されてきたと思います。また、トレーシングレポートが届くことによって、保険薬局がしっかりと患者さんを見ていることを当院の医師が認識してくれるようになったと思います。トレーシングレポートを見た医師は、きちんと対応をしてくれており、保険薬局の役割に対する医師の理解が進んだと感じています。
今後の大きな課題の一つとしては、トレーシングレポートに対する保険薬局へのフィードバックをどのような形式で行い、いかにすべてに返答をするかが挙げられます。例えば、トレーシングレポートが届いた患者さんが来院する当日に、あらためて医師と確認したうえで保険薬局にフィードバックし、なおかつ、返答率100%を実践している施設もあると聞きます。当院ではまだ十分ではないので、しっかりと取り組める体制を築くことを考えていきたいと思います。
地域連携を円滑に進めるポイント
尾上 先述の疑義照会事前合意プロトコルのように、最初は連携のハードルを上げ過ぎない方がよいのではないかと思います。また、コロナ禍の影響もあってウェブを上手に利用する時代になりましたので、オンライン会議システムやメール、電話などを活用して、地域の薬剤師の方々と顔を合わせたり、話し合うきっかけを作れると連携は進むと思います。そして、さりげないことでも相談し話してみることが、連携を円滑に進める秘訣ではないかと思います。
入退院サポートステーションにおける薬剤師の貢献
入退院サポートステーションが始まった経緯、取り組み
三宅 まず2006年12月に持参薬管理センターを開設し、薬剤師がすべての入院予定の患者さんに面談を行うようになりました。土日祝日の救急などの入院患者さんも病棟担当薬剤師と救急担当薬剤師が連携して持参薬を確認します。それ以前はほとんど看護師が持参薬などの管理を行っていましたが、当時の看護部長から事故が起こる要因になりかねないため薬剤師による介入の要望があったのが発端です。そこで、薬剤部を必ず通って患者さんが入院する流れを作りました。
その後、2011年11月から外来患者さんも対象となり、2017年8月からは入退院支援センター、2019年4月からは入退院サポートステーションと名称が変わり、現在、看護師と薬剤師がメインで担当しています(図3)。入院前に薬剤を使用されていない患者さんの場合は薬剤師が関与しないケースもありますが、例えば、健康食品を多数摂取しているために薬剤師に相談が来ることもあります。必要な患者さんには栄養士も入院前から介入します。作業療法士にも必要に応じて相談でき、看護師が必要と判断した場合はMSW(医療ソーシャルワーカー)にもつなげられる体制を取っています。
PBPM(プロトコルに基づく薬物治療管理)に基づく持参薬確認後の処方オーダー
三宅 持参薬確認後の処方オーダーは、当初、医師に対して書面による報告を行い、電子カルテにはPDFファイルを上げる仕組みでした。しかし、実際には、医師は紙ベースの報告を見ながら、電子カルテに指示を手入力しており、入力時に間違いが起こるリスクがありました。そこで、医師の働き方改革の一環として、処方オーダー内の鑑別報告オーダーという名称のもとで薬剤師が電子カルテ上に直接入力し、医師は薬剤師が入力した持参薬の情報をコピーして使えるようにしました。もちろんそこで医師は修正することもできます。また、これらを実現するための院内のプロトコルを整備して導入しました。
入退院支援開始後の効果、影響
三宅 入退院支援に関する仕組みを導入した大きな目的の一つは、治療に向けて準備を整えた状態で安全に入院してもらうことにあります。入院時には術前中止薬や検査前中止薬などの確認が必要となり、最近ではポリファーマシーの問題などもあります。急性期病院である当院は入院期間が短く、入院後に動き始めても処方変更まで行き着かずに退院となりかねません。また、処方変更ができたとしても、フォローできないまま退院になるかもしれません。そのため、入院前の面談でスクリーニングをかけ、特に減薬希望の場合は先に把握しておくことで準備して積極的に提案できることもあります。
入退院支援における薬剤師の貢献について今後の展望や課題
三宅 入院時については、セーフティーネットを何重にもかけて、情報収集と情報提供を院内で比較的スムーズにタイミングよく行えるようになったと考えています。最近では、保険薬局に対して入院日や術前中止薬を伝達したり、一包化から抜いてもらう薬剤があるときは対応を依頼する送り状を渡すなどして、一緒に服薬指導をお願いするようにもなりました。
一方で、退院時にどのような情報を患者さんに提供してかかりつけ薬局といかに連携していくかについては、私たちの取り組みはまだ不十分と考えています。お薬手帳に貼付するシールに変更点などを書き込んで伝えるといった取り組みに留まっているのですが、情報提供書などを活用してかかりつけ薬局との連携をさらに充実させたいと考えています。
入退院支援に関する取り組みを円滑に運営するポイント
三宅 入退院には多職種がかかわるので、役割分担が大事であると考えています。各職種が分担せずに勝手なことをしてしまうと、例えば、一人の患者さんに同じ質問を何度もしたりしてしまいます。実は私たちも当初はその間違いを犯してしまいました。多職種が集まるのは患者さんにとってメリットがあると思いますが、そのメリットを深めるには、お互いが何をしているかを深く理解し、役割を明確にしていくことが大事だと思います。看護師と同じ場所で面談をするようになったことで、看護師が患者さんに何を確認しているのか、どのような面談をしているのかを私たちも知ることができました。患者さんに看護師がどのような説明をした後にバトンを受け取っているのかがわかると、薬剤師の役割が明確になります。お互いの仕事を知ると、例えば、看護師が、患者さんが全く理解できていない薬剤があると気づくと、次の薬剤師に特に念入りに指導を依頼するなど、個々の役割を担いつつ、全職種で安全な入院準備を整えていけると思います。お互いを知り、まさしく一緒に仕事をしていくことが、スムーズに運営するポイントだと思います。
おわりに
がん薬物療法における病院・保険薬局薬剤師のこれからの役割や方向性
尾上 2021年4月から地域薬学ケア専門薬剤師の研修のために、保険薬局薬剤師1名が当院へ来てがん薬物療法を学んでくれています。患者さんが病院の外来で点滴による抗がん薬治療を受けてから次に来院するまでには、どうしても期間が空いてしまいます。また、経口抗がん薬による治療では、さらに病院が関与する機会が少なくなってしまいます。そこで、保険薬局が介入してがん患者さんをフォローしてもらうことで、切れ目のない抗がん薬治療が実現できると思います。がん薬物療法の専門性をもった保険薬局薬剤師の方々のこれからの活躍に期待しています。
近藤 尾上部長の先述の通り、地域薬学ケア専門薬剤師制度の研修受け入れを開始し、病棟担当薬剤師の協力も得て研修を進めています。保険薬局と病院では業務内容が全く異なりますので、実際に病院に来て病院薬剤師がどのような視点をもって何に注意して業務を行っているかを実際に見ることは、保険薬局薬剤師にとって役立つという声がありました。逆に私たちも保険薬局薬剤師の意見や視点を知ることで勉強になり、相互にとてもメリットがあると感じています。これから、お互いを知ることができる病院研修などを多くの地域に広めるとともに薬薬連携を深めていくことが大切だと思います。
三宅 例えば、患者さんが医師や看護師に相談したいと思っても、在宅医療以外では、病院やクリニックに行かないと相談ができません。一方で、薬剤師は病院にも保険薬局にもいるため、患者さんからアクセスの良いところで相談に乗ることができるはずです。薬剤師とは、患者さんにとって大きな役割を担える存在であると考えています。ただ、健康上の問題で困ったときに薬剤師に相談しようと思っている患者さんが今どれだけいるのかというもどかしさは感じています。「そうだ、あの薬剤師に相談しよう」と思ってもらえる存在をめざして、日々、業務や研鑽に努める必要があると思います。
より良いがん薬物療法をめざす薬剤師、次世代を担う若手薬剤師へのメッセージ
尾上 今の若手薬剤師は、6年制薬学部を卒業しとても優秀な方々ばかりだと感じています。やりがいや目標とは、最終的には自分で見つけるものであって、自分の道は自分で切り開かなくてはならないと思います。若い方々には、大きな目標や目的をもち、それに向かって一歩ずつ歩んでほしいと願っています。
近藤 患者さんは、治療前に服薬指導を受けても実際に体験しないと理解できないことも少なくないため、治療開始後にもう一度、薬の使い方などを確認すると、「今、薬剤師の話を聞けてよかった。また話に来てほしい」といった声をもらうことがあり、大変やりがいを感じています。新規治療薬が登場し、勉強は日々必要ですが、薬剤師は服薬指導や支持療法の提案などを通して患者さんのより良いがん治療の継続に貢献できますので、若手薬剤師の方々には学んだ知識や経験を患者さんに還元してほしいと思っています。
三宅 特にがん患者さんは、大きな不安を抱えながら毎日を過ごしています。医療従事者の視点からは治癒が望めるステージの患者さんであっても、夜な夜な不安を抱き、揺れ動いています。薬剤師は、患者さんとの会話を通して、不安の真の要因を明確化していき、科学的根拠に基づいた情報によって患者さんを支えることが大事だと感じています。患者さんに寄り添い、家庭や仕事の事情などの社会的背景や個々人が置かれた環境に薬剤師がもつ情報を適合させて患者さんに伝えていくことが大切だと思います。
「相談してよかった」、「話せて楽になった」、「安心してまた来られます」、「ありがとう」という患者さんからの言葉は、私たちにとって何よりの喜び・やりがいにつながります。現場で活躍する病院薬剤師や保険薬局薬剤師の方々と、ぜひ一緒に喜びを感じられる体験をしていきたいと考えています。
POINT
- チーム医療では多様な職種が集まり、異なる視点から患者さんを見ることが重要となり、薬剤師には疾患と薬物療法という視点が求められます。
- 自らの経験や考えをもち、自分の意見を他職種に理解してもらえるように伝えられる能力をもつことが必要です。
- チーム内で普段から話しやすい環境や雰囲気を作り、コミュニケーションを十分に取ることが大事です。
- チームという名称がなくても、通常の業務からすでにチームでの活動は始まっています。
- 新しいチームに入るときは、まず尻込みせずに参加してみることが大切です。
- 薬剤師独自の視点を患者さんへの介入につなげることが大切です。
- 最初は誰でも参加できるように地域連携のハードルを上げ過ぎないことがポイントです。
- ウェブなどを上手に活用して、地域の薬剤師と顔を合わせ、話し合うきっかけを作ると連携が進みます。
- さりげないことでも相談し話してみることが連携を円滑に進める秘訣です。
- 入退院支援には多職種がかかわるので、お互いが何をしているかを深く理解し、役割を明確にしていくことが大事です。
- 保険薬局が介入してがん患者さんをフォローすることで切れ目のない抗がん薬治療が実現できます。
- 保険薬局薬剤師と病院薬剤師がお互いを知ることができる病院研修などを多くの地域に広め、薬薬連携を深めていくことが大切です。
- 病院・保険薬局薬剤師は、常に患者さんの近くにいて相談に乗り、大きな役割を担える存在です。
- 若手薬剤師の方々には、目標や目的、やりがいを自分で見つけ、それに向かって一歩ずつ歩んでほしいと願っています。
- 若手薬剤師の方々には、服薬指導や支持療法の提案などを通してより良いがん治療の継続に貢献し、学んだ知識や経験を患者さんに還元してほしいと思います。
- 薬剤師は、患者さんとの会話を通して、不安の真の要因を明確化していき、科学的根拠に基づいた情報によって患者さんを支えることが大事です。