がん薬物療法における医療安全への取り組み 〜医療者であること、医療のあり方を意識する重要性

公開:2022年03月15日
更新:2024年04月

国立がん研究センター
中央病院薬剤部

副薬剤部長/
副医療安全管理室長 ※取材当時

赤木 徹 先生

近年、増加する多様な背景をもつがんサバイバーへの対応や、がん対策基本法に基づく政策などにおいても、医療安全の重要性が高まっています。医療安全の実現にはチーム医療の推進や人材育成が必要とされ、安全な薬物療法を提供するにあたっては、医薬品の専門家である薬剤師の貢献が期待されています。そこで、今回、国立がん研究センター中央病院薬剤部 副薬剤部長/副医療安全管理室長を務める赤木徹先生に、同院の取り組みをご紹介いただきながら、がん薬物療法における医療安全に向けた取り組みやポイントについてお話を伺いました。
(取材日:2021年11月19日、取材場所:AP東京八重洲)

近年のがん医療・政策の傾向と医療安全

多様な背景をもつがんサバイバーの増加

近年、がんの早期発見やそれに伴う治療の早期開始、そして、治療成績の向上などによって、がんサバイバーが増加しています。これは、さまざまな背景を抱えた患者さんの増加を意味しており、比例して医療現場では多様な問題が発生しています。例えば、術後に手術創の痛みやリンパ浮腫が引き起こされるなど、がんサバイバーの身体にはさまざまな辛い症状が発生することがあります。また、がんを克服したように見えても、治療終了から長期間を経て、治療の影響による血液がんや甲状腺がんなどの二次がんが起きる可能性もあります。さらに、命にかかわる疾患を罹患し、治癒・寛解しても再発の不安を抱え続けることで、適応障害やうつ状態などに苦しみ、精神的に辛い状態の方もいます。ライフステージ別にみると、小児患者さんにおいては、治療の影響によって成長・発達障害が引き起こされることがあります。AYA(adolescent and young adult:思春期と若年成人)世代の患者さんにおいては、女性では妊娠や出産の問題、そして、女性と男性ともに不妊の問題に直面することもあります。また、がんの治療期間が以前よりも長期化し、日常生活と治療を両立させる必要がありますが、両立支援に関する情報はまだ十分ではなく、患者さんは困難を抱えていると感じます。

このような多様で複雑な背景を抱えたがんサバイバーにヒヤリ・ハットが発生すると、対応や解決に難渋することが往々にしてあります。そこで、提供する医療を限りなく安全で安心なものにする必要があるため、医療安全体制の構築が求められています。

がんサバイバーの増加に伴う医療安全体制構築の必要性

まずがんサバイバーへの情報提供をいかに行うかという課題があり、当院では相談支援センターにおいて、通院中の患者さんであれば妊娠・出産に関する相談や、日常生活・仕事と治療の両立支援などを行っています。通院機会の多いがんサバイバーは相談支援センターを利用できますが、年1回のフォローアップのみになった方へいかに情報を届けるかも課題となっています。情報を必要とするがんサバイバーへ少しでも届くように、当院では、「がん情報サービス」(https://ganjoho.jp/)というウェブサイトで情報発信していますが、自発的に情報を取りに来てもらわなくてはならないという難点はあります。

また、相談支援センターに限らず各診療科においても、さまざまな相談を受けるなかで、患者さんからクレームが発生することは少ないながら起こり得ます。該当部署のスタッフだけではクレーム対応が困難になった場合には、解決のために中立の立場である仲介者のような存在が必要であると考えています。そこで、当院の医療安全管理部では患者医療対話推進室を設置し、医療対話推進者が常駐しています(図1)。医療対話推進者が患者さんの気持ちを聞き取るなどしてコミュニケーションを図るなかで、解決のために重要な情報が手に入ることもあります。患者さんとスタッフの仲介役を医療対話推進者が務め、対話を続けながら解決する仕組みを構築し、医療安全と医療の質向上において不可欠な役割を担っています。

図1 当院の医療安全管理体制
文献1を参照して作成

文献

がん医療政策における医療安全の位置づけと、その実現のためのチーム医療の推進、人材育成の重要性

現在、わが国のがん医療は、関係法令が整備され政策医療として実施されています。がん対策基本法(2006年成立、2007年施行)に基づいてがん対策推進基本計画が策定され、さらに各都道府県は地域の実情に合わせて提供するがん医療を都道府県がん対策推進計画として策定しています。つまり、がん医療の真の中心は、都道府県がん診療連携拠点病院であると言えます。このがん診療連携拠点病院の認定要件には、医療安全に関する項目が定められており、医療安全に対する体制作りが重要視されています。

特定機能病院の認定においては、医療安全管理室に医師・薬剤師・看護師を専従で配置することが求められていますが、都道府県がん診療連携拠点病院の認定においては、薬剤師は常勤かつ専任とされ、専従が望ましいものの必ずしもその必要はありません(2022年9月時点)。現在、この要件の見直しが議論されており、医療安全体制は政策的にも重要であると考えられています。

また、がん対策推進基本計画(第3期)では、多職種が連携して治療に臨むチーム医療と、これを支える基盤の整備として専門的な職種の人材育成も重要視されています。このなかで薬剤師には、医薬品の専門家として安全を十分に担保し質の高いがん薬物療法を提供することが求められています。

  • ※令和5年3月に「がん対策推進基本計画(第4期)」が策定されています。

チーム医療を実践し医療安全を実現できる人材育成への取り組み

薬剤師レジデント制度による人材育成

医療安全体制の構築に結びつくチーム医療の推進と人材育成に関する当院の取り組みのなかから、特に薬剤師レジデント制度をご紹介したいと思います。がん医療を専門とする薬剤師を育成するため、2006年から同制度を開始し教育体制を整えてきました。研修において身につけるべき能力をコアカリキュラムとして定め、それをもれなく経験してもらうプログラムを策定しています。策定に当たっては、当時、すでに臨床薬剤師の養成システムが完成されていたアメリカのカリキュラムを参考にしました。

以前、アメリカ臨床薬学会が定める専門薬剤師養成カリキュラムと比較して、われわれのカリキュラムに不足している点を評価したことがあります。設定している到達目標自体には大きな差はなかったのですが、われわれの教育方法では課題解決能力を高める仕組みが不十分なこと、そして、指導者を育成する仕組みが不足していることがわかりました。その他にも、臨床研究を実践する能力やそのための教育が十分ではありませんでした。これらの結果から、臨床研究能力の強化に重点を置いた教育や、薬剤師レジデントと指導薬剤師が到達目標に対する共通の認識をもちながらカリキュラムの内容を十分に習得できる体制を再構築していく必要があると考えました。

そこで、例えば、薬剤師レジデントの卒業生を中心としたスタッフによるチューター制を導⼊し基本を学んでもらいます。また、PDCAシートを活⽤することで、薬剤師レジデントと指導薬剤師がお互いに現状の到達度や課題を把握できるようにしています。そして、一方通行に知識を詰め込むだけではなく、知識を組み合わせて考える能力を鍛えるために、医薬品情報を収集・評価してプレゼンし議論するゼミ形式の場を設けています。その他にも、当院では外来化学療法を受けている患者さんの相談窓口として外来化学療法ホットラインを設けており、薬剤師レジデントも医師や看護師とともに当番制で分担して電話を受けます。気になる症状や副作用などに関する患者さんからの相談に対して回答し、必要に応じて受診勧奨を行うなどしており、教育面での効果も期待され、コミュニケーションの技術を磨くことにもつながっています。さらに、薬剤師レジデント修了後に臨床研究を実際に推進できる人材を養成するため、2014年からがん専門修練薬剤師制度を開始しています。このようにチーム医療を実践し医療安全を実現できる人材を育成するために、試行錯誤をくり返して教育制度の改善を続けています。

医療安全のためにチーム医療において薬剤師が貢献するために

がん医療において薬剤師が医療安全を実践するためのポイント

がん医療において薬剤師が医療安全を実践するにあたっては、やはり薬物療法に責任をもって関与する姿勢が大切です。責任ある関与をするためには、薬剤師としてまずは基本的な知識や技能を確実に習得しなくてはなりません。そのうえで専門家としてがん診療チームに進言できるように研鑽を積み重ねることがポイントになります。また、薬剤師以外の職種とコミュニケーションをとる必要があるため、他職種について十分に理解し、そのうえで自分自身の役割を再認識することも重要です。このように適切なコミュニケーションをとりながら、専門家としてチームのなかで役割を発揮していくことが大切だと思います。つまり、あらゆる場面において、コミュニケーションがキーワードになると言えます。しかし、実は、薬剤師間でも十分なコミュニケーションをとれていない状況に遭遇することがあります。他職種以前に、薬剤師同士の自らのコミュニケーションを築けなくては、質の高い医療はおろか医療安全にも結びつきません。

基本的な知識や技能を習得し、薬剤師間・多職種間で適切なコミュニケーションができる薬剤師の継続的な育成が、医療安全において重要であると考えています(表1)。

表1 薬剤師として医療安全のためにチーム医療において貢献するためのポイント
①薬剤師としての基本的な知識・技能を習得する
②専門家としてチームに進言できるように知識・技能を磨く
③薬剤師間での良好なコミュニケーションを築く
④他職種を理解し、自身の役割を認識したうえで良好なコミュニケーションをとる
⑤専門家としてがん診療チーム内で役割を発揮してチーム医療に参画する

赤木徹先生提供

がん医療におけるヒヤリ・ハット報告の実際

がん医療においてヒヤリ・ハットはあらゆる場面で発生する

まずがん医療全般のあらゆる場面においてヒヤリ・ハットが起こり得ることを把握しておく必要があります。患者さんが来院されてから、検査を行い診断がつき、治療が開始され、治療が行われる際の療養環境といったさまざまな機会・場所において実際にヒヤリ・ハットが発生しているのです(表2)。

検査の場面では、例えば、不適切な器具で検体を採取してしまうといった検体の扱いに関するヒヤリ・ハットや、検査結果が担当医にフィードバックされていない情報共有のヒヤリ・ハット、画像検査の依頼が曖昧なために不適切な部位を撮影するというヒヤリ・ハットなどもあります。

また、がん治療は、集学的治療として手術療法・放射線療法・薬物療法を組み合わせて行うため、それぞれの領域と領域間の連携においてヒヤリ・ハットも発生します。

そして、療養環境は、医療の質にもかかわりますが、医療安全にも大きく関与します。例えば、患者さんが歩行中にカーペットにつまずいて転倒する、入院中にベッドから転落するなどの転倒・転落の発生はなかなかゼロにできない課題です。

近年、がん患者さんが増加し、人が多くなれば比例して問題も多数発生します。広範囲に渡る要因が複雑に絡み合った問題が多く、完全な正解はないと思うことはよくあります。

表2 がん医療のあらゆる場面においてヒヤリ・ハットが発生
検査 病理検査、画像検査、検体検査など
治療 手術療法、放射線療法、薬物療法など
療養環境 緩和医療、治療・生活環境、患者相談など

赤木徹先生提供

国立がん研究センター中央病院におけるヒヤリ・ハット報告の状況・特徴

ここで、がん医療を専門とする当院におけるヒヤリ・ハット報告の状況や特徴についてご紹介したいと思います。当院と全国の状況を比較したところ、まず当院では医師からのヒヤリ・ハット報告が多い傾向がみられます(図2)。これは、そもそも医師からの報告が増えるように工夫をしていることが要因として挙げられます。ヒヤリ・ハット発生時には、医療安全管理部から医師に対して、「先生、この件で知っていることがあれば報告をお願いします」と積極的に働きかけをしています。その結果、全国平均と比較して当院は医師からの報告が多くなり、働きかけた成果が上がっています。

当院におけるヒヤリ・ハット報告件数は、年々増加し2020年度は6,000件を超えています(図3)。全体の報告数も重要ですが、先述した医師からの報告数を増加させる取り組みに力を入れています。薬剤師にとっての処方箋があるように、医療は医師のさまざまな指示に基づいてスタッフが動くことで行われることが大多数です。そのなかでヒヤリ・ハットが発生する訳ですから、指示元の医師から報告を多く出してもらうことで、医療安全に参画しているという医師のさらなる意識向上を目論んでおり、病院全体における医療安全意識の醸成を心がけています。

また、当院のヒヤリ・ハット報告の内容としては、全国集計と同様に医薬品に関係する報告が最多となっています(図4)。そして、明確な要因は示せないのですが治療や検査に関する報告内容の割合が比較して多くを占めており、がん医療においては治療や検査に関して重大なリスクがないかを十分に検証していく必要があることを、この結果から考えさせられました。

図2 当院と全国集計における職種別ヒヤリ・ハット報告割合
A:赤木徹先生提供。B:文献2を参照して作成

図3 当院におけるヒヤリ・ハット報告件数の推移
赤木徹先生提供

図4 当院と全国集計におけるヒヤリ・ハット報告内容
A:赤木徹先生提供。B:文献2を参照して作成

文献
  • 2) 「医療事故情報収集等事業2020年年報」(日本医療機能評価機構医療事故防止事業部/編), pp.28-29, 2020

がん患者さんのDNARへの対応における医療安全の実現のために

がん患者さんのDNAR研修会の実施とその背景

がん患者さんは、がんが進行し亡くなる直前になると急速に病状が悪化していくという臨床経過をたどります。心停止の状態に陥った場合、通常、苦痛を伴うような救命処置を行うことになりますが、がん自体によって生命の危機を迎えた患者さんは、救命処置を行っても再び同じような状況をくり返すことが考えられます。そのため、がん自体による生命危機の状態に陥ったときには、苦痛を伴う救命処置は行わず、経過を見守ってほしいという意思表示をする患者さんもいます。それが心肺蘇生法を行わないDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)です(表3、表4)。

多数のがん患者さんを診ている当院では、DNARの意思表示をする患者さんは比較的多くいます。そして、そのような環境のなかで勤務している医療者は、ほとんどのがん患者さんはDNARの意思があるという意識をもちやすい傾向があります。そのため、患者さんの急変時に遭遇した際に、「DNARかもしれない」と咄嗟に思ったり、DNARの確認ができていない患者さんでも、「ここまでがんが進行していると、救命処置をしてもまた同じことをくり返すかもしれず、本当に意義があるのか」と迷う気持ちが生まれることもあるようです。そのような迷いを感じていると、急変時対応の遅れにつながりかねません。

表3 DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)
●患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定を受けて心肺蘇生法を行わないこと
●蘇生に成功することがそう多くないなかで蘇生のための処置を試みないこと

文献3より引用

表4 当院におけるDNAR
●原疾患に対する治療がなく、原疾患が悪化した際に、すべての蘇生行為を行わないこと
●サポーティブケアの患者さんにも、DNAR取得がされていなければ、心肺蘇生を行う

赤木徹先生提供

文献

DNAR研修会により医療者の使命を再認識してもらう

「最善を尽くして命を救う」という基本的な医療者としての姿勢が当院内で少し後退りしている雰囲気を感じることもあり、そこで、医療者が行うべき使命をもう一度考え直す機会を設けるために、医療安全管理室が主催してDNARに関する研修会を3年ほど前から開催するようになりました(表5)。急変時にどのような治療を望むか、どのように生きていきたいかという患者さん本人の権利を尊重して救命処置をするという考え方をもう一度、認識し、基本に基づいた判断をして医療行為を実践することをあらためて思い直してもらう場として設定しています。

研修会ではDNARの簡単な考え方などを学ぶとともに、唯一の正解がある問題ではないため、個々のスタッフの経験や考え、感じていることを議論する場の提供が大きな目的となっています。また、毎回、重点的に考えるテーマを掲げており、例えば、2021年は「まずは救命を考えること」、2020年は「急変時の予測指示の実施」をテーマに設定しました。開催頻度は年1回となり、毎回およそ20~30人の参加者を4~5人のグループに分けて議論してもらい、約2時間をかけています。答えのない問題を思案するので、終了すると皆、疲労困憊になります。しかし、医療者として大切な内容であるため年に複数回開催した方がよいのではないかという意見が振り返りでは出されています。

現在は、研修会に参加しているスタッフのほとんどを看護師が占めており、薬剤師をはじめ他の医療職も参加してほしいと考えています。がん医療では、医師と看護師だけが患者さんと向き合っている訳ではなく、多職種からなるチームで医療を提供しており、チーム全体が同じ方向を向いている必要があります。薬剤師だけが違うところを見ていてはチームワークもとれず、質の高い医療や医療安全は提供できません。今後は、いろいろな職種が参加して、がん医療のあり方をあらためて感じ考えてもらえる研修会にしたいと思っています。

表5 当院におけるDNAR研修会の概要
研修会の趣旨
●事例検討を通じて、中央病院の職員が、患者さんの生命を救う・守るというミッションを、再確認する機会としたい
研修目標

①中央病院の「【患者さんの権利】安全で質の高い医療を受ける権利」を急変時対応と関連づけることができる

②サポーティブケアとDNARについて定義できる

③治療方針を部署で共有し、急変時に患者さんの権利を尊重した医療行為を実践できる

④予測指示の実施目的を考え、患者容態変化時の医師への報告の必要性を認識できる

赤木徹先生提供

DNARへの対応においては患者さんの意思を尊重することが大切

DNARの理論や問題点などを知ることも必要ですが、やはり大切なことは、患者さんと医療者で十分なコミュニケーションをとり、がんとの向き合い方をお互いに認識し共通理解にしておくことです。DNARとは、患者さんとのコミュニケーションのなかで表現されるものの1つだと思います。医療者には、患者さんが1日でも1秒でも長く生命を維持できるように最善の医療を提供するという基本姿勢が備わっていますが、患者さんの意思を十分に尊重することが必要です。そのためには、患者さんが普段どのような考え方をしてどのようなことを思っているのかを、コミュニケーションを十分にとって把握していくことが最も大切なのです。安全で質の高い医療を提供できるように、実践する際には、気づきや気遣い、配慮といった感性を働かせることが大事です。患者さんと対話を行い、コミュニケーションをとり、患者さんの心身を正確に感じとれているかをあらためて見つめ直してほしいと思います(表6)。

表6 DNAR研修会において院内スタッフへ伝えているメッセージ

●安全で質の高い医療が提供できるよう、患者さんが治療を受けたいと望めば(生命を守る権利が通底している)、その目的を達成するために努力する必要がある

●そのことを認識して医療行為を提供できているか、1人1人が、各チームが、見つめ直す

●そのためには、常に学ぶ姿勢をもち続け、学びを実践に活かす

●実践する際は、気づき・リスク感性(気遣い・配慮)を働かせる

国立がん研究センター中央病院医療安全管理室提供

おわりに〜医療安全を実現し、よりよいがん薬物療法をめざす薬剤師へ

医療者であること、医療のあり方を意識することで医療安全につながる

多くの薬剤師は、薬物の適切な投与量や相互作用の確認、副作用への対処などの薬学的管理に関しては適切に対応していると思います。そのうえで、安全なよりよい薬物療法をめざすためには、薬剤師は医療者であることをあらためて意識して患者さんと接してほしいと思います。医療チームの一員として、患者さんの命を守るといった医療の基本をあらためて認識する機会が薬剤師にも必要であると思います。がん患者さんのDNARについて考えることは、その契機の1つになるのではないかと思います。特にがん患者さんとかかわる際には、「医療とは何か」、「どのように医療を提供していくべきか」という基本を考えてみることも、ときには必要だと思います。なぜならがん医療の現場に身を置くと、そのことを考えさせられる場面に直面することがあるからです。医療のあり方を意識しながら患者さんの薬物療法に薬剤師が参画していくことで、質が高く医療安全にもつながる医療の提供が可能になるのではないかと考えています。

POINT

  • 多様で複雑な背景を抱えたがんサバイバーが増加しており、安全で安心な医療を提供する必要があるため、医療安全体制の構築が求められています。
  • 医療対話推進者を配置し、患者さんとスタッフの仲介役として解決に難渋する問題に対応するなどして、医療安全と医療の質向上において不可欠な役割を担っています。
  • がん対策基本法に基づく都道府県がん対策推進計画において、がん診療連携拠点病院の認定要件として医療安全に関する項目が定められており、医療安全に対する体制作りが重要視されています。
  • がん対策推進基本計画(第3期)では、チーム医療と人材育成が重要視され、薬剤師は医薬品の専門家として安全を十分に担保し質の高いがん薬物療法を提供することが求められています。
  • 薬剤師レジデント制度の導入などによって、チーム医療を実践し医療安全を実現できる人材を継続的に育成することが必要です。
  • がん医療全般の検査、治療、療養環境といったあらゆる場面においてヒヤリ・ハットは起こり得ます。
  • 医療上の各種指示元である医師からヒヤリ・ハット報告を提出してもらうことで、医療安全への医師の意識向上を図り、病院全体における医療安全意識の醸成につなげています。
  • DNAR研修会を開催することで、最善を尽くして命を救うとともに、急変時にどのような治療を望むかという患者さん本人の権利を尊重して救命処置をするという基本的な医療者の使命を考え直す機会にしています。
  • DNARにおいて大切なことは、患者さんと医療者で十分なコミュニケーションをとり、がんとの向き合い方をお互いに認識し共通理解にしておくことです。
  • 安全なよりよい薬物療法をめざすためには、薬剤師は医療者であることを意識して患者さんと接することが大切です。特にがん患者さんとかかわる際には、「医療とは何か」、「どのように医療を提供していくべきか」という基本を考えることが必要です。がん患者さんのDNARについて考えることは、その契機の1つになります。
  • 医療のあり方を意識しながら患者さんの薬物療法に薬剤師が参画していくことで、質が高く医療安全にもつながる医療の提供が可能になります。
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