がん薬物療法におけるポリファーマシー解決への取り組み
公開:2021年10月29日
更新:2024年09月
神戸大学医学部附属病院薬剤部
教授・部長 矢野 育子 先生
副薬剤部長 木村 丈司 先生
薬剤主任 丹田 雅明 先生
左から矢野先生、木村先生、丹田先生
がん薬物療法において特に高齢患者さんは併存症などの要因からポリファーマシーに陥りやすく、その結果、薬物相互作用や有害事象の増加などの問題が発生しており、薬剤師が取り組むべき重要な課題の1つとなっています。今回、ポリファーマシーの解決を推進してきた神戸大学医学部附属病院薬剤部の教授・部長 矢野育子先生、副薬剤部長 木村丈司先生、薬剤主任 丹田雅明先生に、不適切処方を検出し処方変更を提案する多職種連携や地域との病診薬連携など同院が進めてきた取り組みをご紹介いただきながら、ポリファーマシーを巡る問題や対応策などについてお話いただきました。
(取材日:2021年7月1日、取材場所:THE MARCUS SQUARE KOBE)
はじめに-ポリファーマシーの定義と対策のポイント
ポリファーマシーの定義
木村 ポリファーマシーとは、目安として5〜6剤以上の薬剤が処方されている状態と一般的に認識されています。しかし、重要な点は、単純に薬剤数だけではなく、用法・用量や投与期間が不適切な処方や、相互作用を起こす薬剤同士の処方、エビデンスに基づく臨床的な適応が不明確な薬剤の処方についても、PIMs(潜在的に不適切な処方)注1としてポリファーマシーに含まれます。また、本当に必要な薬が処方されていない状態もポリファーマシーになります。これはPPOs(潜在的に必要な処方の欠落)注2と呼ばれ、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」1)をはじめとする各種ガイドラインにおいても問題が指摘されています(表1)。
矢野 「薬剤数は2、3剤でも、不適切な薬が入っているとポリファーマシーです」と薬学生に講義すると皆、驚くのですが、何より大切なのは適切な処方です。薬にかかわる不適切な状態を解決することは、薬剤師が取り組むべき課題の1つだと考えています。
表1 高齢者におけるポリファーマシー
①薬剤数が多い |
②不適切な処方(inappropriate prescribing) |
●潜在的に不適切な処方(potentially inappropriate medications:PIMs)
|
●潜在的に必要な処方の欠落(potential prescribing omissions:PPOs)
|
薬物療法の適正化にあたり大切な多職種連携、病診薬連携
矢野 薬物療法の適正化にあたり、多職種の連携は重要です。多職種でカンファレンスを実施して薬剤の検討をすることは、診療報酬においても薬剤総合評価調整加算の算定要件の1つになっています。
病院でのポリファーマシー対策としては、「入るところ」と「出るところ」に注目するのが効果的です。まず入院患者さんの持参薬チェックが介入のポイントになります。当院では、担当医と相談しながら不要な薬剤について検討する介入を多職種チームで行っています。以前から、入院時の持参薬チェックにおいてSTOPP/START注3 criteria2)を用いて薬物療法の適正化を行ってきましたが、それだけでは退院後に元の処方に戻ってしまうことが明らかになりました。そこで、2019年から退院時の薬剤情報提供に力を入れ、お薬手帳にシールを貼って入院中に中止や減薬した薬剤の理由を記入するようにしました。この取り組みは、保険薬局薬剤師やさらに患者さんの家族からも大変好評を得ています。
薬剤師の仕事は、多職種チームにおける連携とともに、地域との連携も必要です。ポリファーマシー対策についても、病院だけで完結することは少なく、地域で情報共有しながら、さまざまな場面で薬剤師がかかわる病診薬連携が鍵になると考えています。しかし、カルテや検査値などを閲覧できる病院薬剤師と違い、これまで保険薬局薬剤師は処方箋1枚から患者さんの状態を判断しなくてはならず、ポリファーマシーへの介入が難しい状況でした。そこで、当院では2020年1月から院外処方箋に検査値の記載を開始しました。現在では処方箋を見れば処方薬と検査値を同時にチェックでき、疑義照会やトレーシングレポートの作成が可能になっています。病院から情報を提供し、保険薬局からも情報を返信してもらうという双方向に情報を伝達することが大事です。将来的には保険薬局薬剤師がより多くの情報を手にし、患者さんのケアにもっと深くかかわることができているのが未来の姿だと思っています。
ポリファーマシーを生む要因
高齢者に対する薬物療法を巡る問題点
木村 高齢者は、複数疾患を併存した状態=マルチモビディティにあることが多いため、複数の診療科や医療機関を受診し、ポリファーマシーにつながりやすい問題点があります。また、高齢者は糖尿病や高血圧などの慢性疾患をもつ場合が多く、その治療薬の長期服用も問題となります。さらに、高齢者では、老年症候群とも関連する腰痛や頭痛など非定型的な症状の訴えが多くみられ、対症療法的に不要な薬剤が追加される可能性があります。その他にも、加齢によって腎機能などの臓器予備能が低下することで薬物動態が変化していきます。これらが高齢者において薬物有害事象やポリファーマシーを生み出しやすい背景にあります。
実際、日本で行われた全国調査において、高齢者の48.4%で不適切処方がみられ、そのうち8%に薬物有害事象がみられたという報告があります3)。また、アイルランドでは、70歳以上の高齢者における医薬品総支出の9%を不適切処方が占めていたと報告されています4)。
そして、処方薬剤数が増加すると相互作用の問題が起こります。イギリスのNICE(英国国立医療技術評価機構)注4ガイドラインのうち、2型糖尿病、うつ病、心不全のガイドラインで推奨されている薬剤とその他の11疾患のガイドライン推奨薬剤の相互作用を検証した結果、2型糖尿病との間では133件、うつ病では89件、心不全では111件に薬物相互作用が起こりうることが報告されています5)。個々の薬は適切でも、複数疾患が併存して処方された場合の相互作用はガイドラインでも検証されていないことがあるため、ガイドライン通り処方すれば安心とは限らないのです。
ポリファーマシーを生む背景にある処方カスケード
木村 ポリファーマシーを生みやすい背景には、処方カスケードの問題もあります(図1)。処方カスケードとは、処方薬によって有害事象が出現したときに、有害事象と認識できずに疾患による症状と誤認し、それに対して対症療法的に薬を処方し、さらにその薬で有害事象が出現する、という負のスパイラルに陥った状態です。処方カスケードであることに気づき、大元の処方を見直せば状況は改善されますが、認識できないと改善は困難となります。
図1 処方カスケード
がん患者さんにおけるポリファーマシーとその対策
がん患者さんのポリファーマシーの実態、予後が限られた患者さんへの対応
丹田 がん患者さんにおけるポリファーマシーの実態を知る手がかりとして、スウェーデンにおいてがん患者さんの死亡前1年間に処方された予防的薬剤の内容とコストを評価した研究が報告されています7)。2007〜2013年に死亡した65歳以上の固形がん患者さん151,201名を対象に調査したところ、平均服用薬剤数は死亡前1年間にそれまでの6.9剤から10.1剤に増加し、長期的な効果を期待する降圧薬、抗血小板薬、抗凝固薬、スタチン、経口糖尿病薬などの予防的薬剤が死亡1カ月前まで継続される症例もあったことが明らかになりました。予後が限られているがん患者さんにとっては、予防的薬剤は本当に必要だったのかという問題点が指摘されています。
また、アメリカにおいて初診がん患者さん234名(年齢中央値79.9歳)を対象に内服している薬剤を調査したところ、服用薬剤数は平均9.23剤、定期内服薬として例えば降圧薬(76.9%)、脂質異常症薬(53.0%)、消化性潰瘍薬(41.0%)を服用していたと報告されています8)。また、119名(約51%)において173件のPIMsが検出され、具体的にはベンゾジアゼピン系薬剤(16.2%)、消化性潰瘍薬(9.4%)、NSAIDs(8.6%)などがありました8)。
しかし、一方でPIMsが検出されたからと言って、すべての薬剤を中止することが適切とは限りません。患者さんが必要としている薬剤も多くあるので、検出された薬剤が本当にすべて不適切かは見極める必要があります。
不適切処方を検出するガイドライン、ツールの活用
木村 不適切処方を検出するガイドラインとしては、アメリカ老年医学会が定期的に更新しているBeers criteriaと、ヨーロッパで改訂されているSTOPP/START criteriaがあり、日本では日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を発行しています(表2)。この3つはexplicit criteriaとして、具体的な薬剤名、薬剤分類、用量がリストになっています。
また、その他にimplicit criteriaとして、MAI注5やdeprescribingのプロトコルもあります(表2)。これらは、薬剤名のリストが記載されているのではなく、任意の処方に対する臨床的判断のアルゴリズムがまとめられており、さまざまな処方に対して応用しやすいと言えます。
矢野 explicit criteriaは、例えば、4週間以上のベンゾジアゼピン使用といった具体的な服薬の状況を確認していけばよいので、すべての薬剤師が漏れなくチェックを実施できます。一方、implicit criteriaは、個々の薬について、その薬を使用するベネフィットの程度や、他の薬と比べた有害事象の状況などを確認するなどして使用意義を評価していくため、薬剤師の見る力が必要になります。
木村 STOPP/START criteriaの不適切処方の条件に該当した薬剤について、薬剤師が評価し実際に処方変更をするかどうかを確認したところ、高い割合で変更されていました。一方、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」には、STOPP/START criteriaにない項目が含まれています。そこで、当院では、誰でも確認しやすいexplicit criteriaのSTOPP/START criteriaと「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の両者を活用した取り組みを行ってきましたので、後ほど詳細をご紹介したいと思います。
丹田 また、STOPP/START criteriaや「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、抗がん薬とその他の一般薬の相互作用の検出が十分ではないこともあり、当院では、Lexicompの相互作用検出ツールも使用しています。これは、市販薬やサプリメントとの飲み合わせによる相互作用も検出できます。
木村 これに限らずご自身の施設で使えるツールでかまわないと思いますが、最低限、添付文書に基づいた相互作用の確認は必要と思います。医薬品卸企業が添付文書の情報を検索できるツールを提供しており、薬物相互作用をチェックできるものもありますので、これらを活用するのも1つの方法です。
矢野 実際の現場では、例えば、薬剤師が入院時の持参薬を確認して服薬の目的などを把握し、本当に必要な薬かどうかを見極めるとともに、プラスして、このようなガイドラインやツールによって不適切処方が検出されるか活用していくことになります。
表2 不適切処方を検出するガイドライン
①explicit criteria |
高齢者に有害な影響を及ぼす薬剤や薬剤分類、薬剤用量のリスト |
|
②implicit criteria |
臨床医もしくは薬剤師が任意の処方に対して臨床的判断を用いて適用する |
|
臨床検査値や身体能力値からポリファーマシーを予測する
木村 ポリファーマシーとなるがん患者さんは、併存症を複数もち、それゆえに身体機能も低下しているため、さまざまな側面からの評価が必要となります。これらを具体的に評価し、がん薬物療法の有害事象を予測するための代表的なツールとして、CARG注6スコア9)、CRASH注7スコア10)があります(表3)。身体機能や生化学検査などの複数の項目を点数化して総合的に評価する方法で、いずれのツールにおいてもスコアが高いと有害事象の発現率が高いと予測できる結果が報告されています9, 10)。
矢野 これらのスコアが高かった患者さんは、実際に標準投与量より減量されているのでしょうか。
丹田 減量してもよいかもしれないと言われてはいますが、日本ではまだ積極的には実行されていません。しかし、さらにエビデンスを構築していけば、より有効なツールになると思います。現在のところ、スコアが高い患者さんについて注意喚起する目的での使用が多いと思われますが、将来的には、スコアを用いてがん患者さんの副作用発現を減少させることにつなげるのが理想であり、今後の研究が待たれます。
矢野 通常、添付文書では、例えば、腎機能が低下している患者さんに対して投与量を減量する場合、クレアチニンクリアランス値など単一の基準が示されています。これからは、これらのスコアを参考に複数の項目をチェックする総合的な評価が重要になると考えられるのでしょうか。
丹田 その通りです。単一の基準での評価も重要ですが、ガイドラインでも総合的な評価も実施した方がよいと言われています。なお、このスコアが高い患者さんは、ポリファーマシーの問題が絡んでいると個人的にも感じています。
表3 有害事象を予測するツール
①CARG(cancer and aging research group)スコア |
2011年Hurriaにより開発。年齢、がん種、抗がん薬の数、投与量、ヘモグロビン値、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒歴、IADL(手段的日常生活動作)注8、歩行能力、身体的・感情的理由による活動性低下の11の要素から予測。 |
②CRASH(chemotherapy risk assessment scale for high-age patients)スコア |
2012年Extermannlにより開発。拡張期血圧、IADL、LDH、ECOGパフォーマンスステータス、認知機能、栄養状態、抗がん薬治療のレジメンの7つの要素から予測。 |
神戸大学医学部附属病院薬剤部におけるポリファーマシーへの取り組み
ポリファーマシーへの取り組みの歴史
矢野 当院におけるポリファーマシー対策の取り組み(表4)は、2013年にまず薬剤部内でポリファーマシーに関する勉強会を開催したのが始まりです。2014年には病院全体の職員必修講習会としてポリファーマシーの講義を実施しています。そして、1病棟で試験的にSTOPP/START criteriaによるポリファーマシーへの介入を開始し、その後、対象病棟を増やし、2015年にはSTOPP/START criteria version2を用いた介入、2016年には「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を用いた介入、2018年からは両者を統合して88項目からなる基準を用いた介入を行いました。その後、項目数が多いため、2019年からは、両者を統合したなかから、よく検出される項目に絞って90%ほどをカバーするように基準を簡略化し、誰でも使える形式にして介入を実施してきました。
表4 神戸大学医学部附属病院薬剤部におけるポリファーマシーへの
主な取り組み(院内)
|
|
|
|
|
|
|
|
薬剤師によるポリファーマシーへの介入の効果
木村 当院で薬剤師がポリファーマシーに対して介入したデータがありますのでご紹介します(図2)11)。2015年4月から2016年3月の間で3病棟822名の患者さんを対象に介入したところ、346名(42.1%)に不適切処方が検出されました。具体的な薬剤としては、ベンゾジアゼピン系薬剤(50%)が多く、NSAIDs(18%)、SU薬(7%)、PPI(6%)もありました。ベンゾジアゼピン系薬剤が最多なのは、もともとベンゾジアゼピン系薬剤に関する不適切処方の基準が多いことも要因と考えられました。不適切処方が検出された事例のなかで薬剤師が実際に処方変更を推奨した割合は310件(47.6%)でしたが、残りの341件(52.4%)は患者さんの希望や短期間入院での調整の難しさから推奨には至りませんでした。そして、薬剤師が処方変更を推奨した310件のうち、292件(94.2%)が実際に変更されました。社会的にもポリファーマシーが注目を集め関心をもつ医師が増えていますので、処方変更がスムーズに進んだと思います。
矢野 入院時の持参薬チェックは介入しやすいタイミングであると先に述べましたが、当院ではPBPM(プロトコルに基づく薬物治療管理)注9を導入しており、持参薬確認時に薬剤師が処方の仮オーダーを行うことを認めてもらっています。病棟で薬剤師が患者さんの持参薬チェックをして必要か不要かを評価・検討し、仮オーダーすることでほぼそのまま承認されています。
- 対象:
- 持参薬を有する65歳以上の新規入院患者822名(総合内科、膠原病リウマチ内科、神経内科、放射線科、心臓血管外科、循環器内科、整形外科、呼吸器外科などがある計3病棟)
- 方法:
- 2015年4月〜2016年3月において、対象患者の持参薬に対して、合計9名の薬剤師が各病棟1日あたり1〜2名で介入。
図2 薬剤師による持参薬への介入の結果
がん患者さんに処方変更への希望を聞くことの重要性
木村 患者さんによっては、「この薬を長く飲んでいるので続けたい」という要望もあり、特にベンゾジアゼピン系薬剤は処方変更が難しいこともあります。
矢野 当院の研究からも、NSAIDs関連の変更率は「確立した高血圧や心不全の患者さんへのNSAIDsの使用」(63.4%)や「eGFR<50 mL/min/1.73m2の患者さんへのNSAIDsの使用」(70.0%)となっているものの、ベンゾジアゼピン系薬剤関連の変更率が「4週間以上のベンゾジアゼピン系薬剤の使用」(36.6%)、「転倒リスクのある患者さんへのベンゾジアゼピン系薬剤の使用」(44.8%)、「転倒リスクのある患者さんへの催眠性Z-drugsの使用」(48.4%)と低いことが示されています11)。
木村 予後が限られたがん患者さんなどの場合は、基準通りにすべての薬剤を見直すことが必ずしも適切ではない場合もあると思います。一般的な高齢者のポリファーマシーと、がん患者さんなどのある程度予後が限られた人のポリファーマシーでは、おそらく少し違う対応が必要になるのではないでしょうか。高齢者でも予後がそれほど限られていない方に対しては、ベンゾジアゼピン系薬剤やNSAIDsを長期使用する問題が強調されると思いますが、予後が限られる方に対しては、長期使用の問題よりも服薬することで患者さんが得るメリットが上回る場合もあるでしょう。そこで大事なことは患者さんの希望ではないかと考えています。もちろん、すべてを患者さんの希望通りにはできないかもしれませんけれども。
矢野 「薬が多くて困るから止めたい」と希望を伝えてくれる患者さんや、ふらつきなどの有害事象を明らかに認める患者さんの場合は、薬剤師から「薬を止めてみましょうか」と言いやすいですね。しかし、「困っていない」と言う患者さんに対しては、なかなか説明しづらいところはあります。
木村 確かに、今、患者さん自身が身をもってデメリットを感じていないと、その先に起こりうるデメリットは想像しにくいので、減薬してもらう難しさがあります。それを患者さんにきちんとわかってもらえる方法で、私たちもコミュニケーションをとることが必要なのだと思います。
病診薬連携-お薬手帳による情報共有
木村 冒頭にご紹介したように、当院では退院時にお薬手帳に処方変更内容を記載したシールを貼付しており(図3)、患者さんが保険薬局に持参することで情報提供につながり、これは診療報酬上も退院時薬剤情報管理指導料として認められています。また、令和2年度診療報酬改定で退院時薬剤情報連携加算が新設され、保険薬局向けに、入院前の処方の見直し理由や内容などまとめたレポートを退院時に発行すると算定できるようになりました。両方を作成するのはなかなか労力が必要となるため、当院ではお薬手帳への情報提供シールの貼付が中心になっていますが、入院中の処方変更に関する情報を保険薬局へ伝達する手段として活用しています。
図3 お薬手帳へ処方変更内容を記載したシールを貼付
病診薬連携-処方見直し方法を学び、医師との距離を近づける勉強会
木村 その他に地域との連携としては、当院の医師にも協力してもらい、保険薬局薬剤師と当院薬剤師が参加するポリファーマシーに関する勉強会をコロナ禍以前は定期的に開催していました。症例検討会の形式でポリファーマシーの症例を提示して具体的にどのような見直しの提案をするかについて、病院薬剤師と薬局薬剤師でグループになりディスカッションします。不適切処方の頻度が高いベンゾジアゼピン系薬剤やNSAIDsなどについて、具体的にどのように処方の見直しを進めるとよいかがわかるプロトコルを作成して、保険薬局薬剤師と共有し見直し方法を考える参考にしてもらっています(図4)。
矢野 特に検査値に基づいた処方の見直しは、究極のポリファーマシー対策の1つと思っています。当院では検査値を処方箋に記載するようになってから、検査値に対して薬剤の用量が多いのではないかといった疑義照会が増えてきており、私自身はとてもうれしく感じています。処方箋への検査値の記載が大学病院だけではなく一般病院にも普及してほしいと願い、この成果を論文化するなどしてさらに広めていきたいと考えています。。
木村 また、この勉強会には、薬局薬剤師と医師との距離を近づける目的もありました。普段、医師と接しない薬局薬剤師が疑義照会をするのはハードルが高いという意見を聞き、医師にも勉強会に参加してもらうことで、薬局薬剤師とコミュニケーションをとる機会を作るようにしました。勉強会の場に医師がいることで、お互いに大きな影響を受けたと思います。医師にも、薬局薬剤師の業務内容への理解を深めて共感してもらえるようになりました。ポリファーマシーに限りませんが、医師としっかりコミュニケーションをとることは大事だと思っています。
矢野 病院薬剤師は常日頃、医師とコミュニケーションがとれるので、それなりに評価してもらえていると思います。しかし、院外にいる薬局薬剤師に対しては、これまで評価してもらうのが難しい雰囲気もあったと思いますが、検査値などの情報提供を充実させることで保険薬局から質の高い疑義照会が来るようになると医師からの評価も高まっていくと思います。薬剤師全体のレベルを上げることが大切で、それは最終的に患者さんのためになると考えています。当院の院外処方箋発行率は95%に達しており、がん患者さんに処方される多種類の抗がん薬も院外で調剤してもらっていますので、保険薬局でしっかり監査、疑義照会してもらうことはとても大事だと思っています。
図4 処方見直しプロトコルの一例
これからのポリファーマシーへの取り組みの展望
ポリファーマシーにおける患者さんおよび医療従事者コミュニケーションの重要性
木村 減薬のためには、患者さんとどのようにコミュニケーションをとるかが大事になり、これからより一層、力を入れなくてはならないと思います。
丹田 患者さんとのコミュニケーションでは、薬を止める理由の説明が最も大事ではないかと思います。そして、実際に話をお聞きするなかで、患者さんの考え方をしっかり把握できることにより、患者さんに十分に納得いただいたうえで薬を止めることができます。一方で、変更しないという結論に至ることもあります。医療従事者視点では中止した方がよいように思えても、患者さんの意向をしっかりと汲み入れる必要があり、コミュニケーションはとても大事だと思っています。
また、院外の保険薬局薬剤師や院内スタッフとのコミュニケーションも大事です。私は今、外来でがん患者さんにかかわっており、ポリファーマシーの問題を解決したいと思っていますが、外来は入院よりも時間的な制約が厳しいため、患者さんへの丁寧な説明が必要なものの十分には行えていません。また、院内や院外のスタッフとのスムーズな連携も欠かせません。そのため、そのコミュニケーションのとり方を思案しているところです。
地域全体でポリファーマシーに取り組める体制作り、レベルアップが必要
木村 各地でこのようなポリファーマシーへの取り組みが進み、病院でも保険薬局でも不適切な処方を見直すことができるようになると、病院の外来や短期間の入院中には見直せなくても保険薬局で長期的にかかわるなかで見直せるなど、ポリファーマシーへの対策が行いやすくなると思います。そのためには、薬剤師の誰もが処方の見直しをできるようになるのが理想的だと思います。
矢野 当院は兵庫県唯一の国立大学ですから、自施設だけではなく、兵庫県全体のレベルアップが目標になります。国民の半分ががんに罹患する時代を迎え、ポリファーマシーの解消も含めて、病院だけでできることは限られており、保険薬局の力が欠かせなくなっています。そのような背景から連携充実加算が新設され、保険薬局向けのがんの専門性に関する日本医療薬学会の地域薬学ケア専門薬剤師認定制度も立ち上げられています。2021年度から当院でも4名の研修生を受け入れていますが、それぞれの地域を支えるがんを専門とする保険薬局薬剤師を病院が育てていくことが大事であると使命感をもって取り組んでいるところです。
文献
- 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(日本老年医学会/編), メジカルビュー社, 2015
- O’Mahony D, et al. : Age Ageing, 44 : 213-218, 2015
- Onda M, et al. : BMJ Open, 5 : e007581, 2015
- Cahir C, et al. : Br J Clin Pharmacol, 69 : 543-552, 2010
- Dumbreck S, et al. : BMJ, 350 : h949, 2015
- 「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(厚生労働省/著), 2018
- Morin L, et al. : Cancer, 125 : 2309-2317, 2019
- Nightingale G, et al. : J Clin Oncol, 33 : 1453-1459, 2015
- Hurria A, et al. : J Clin Oncol, 29 : 3457-3465, 2011
- Extermann M, et al. : Cancer, 118 : 3377-3386, 2012
- Kimura T, et al. : J Clin Pharm Ther, 42 : 209-214, 2017