公開:2024年05月31日
男女共同参画への取り組みは持続可能な医療の提供につながる
~医師の多様な働き方を支える就業環境の整備~
長時間労働の是正によって持続可能な医療の提供をめざす医師の働き方改革が進められるなか、その実現のため、男女共同参画の推進にも焦点が当てられています。北海道大学病院男女共同参画推進室において、女性医師はもとより男性医師も含めた育児支援やキャリア支援などに尽力されている古田恵先生に、男女共同参画への取り組みが重視される背景や同院の具体的な取り組み、支援のポイント、今後の課題などについてお話を伺いました。
(取材日時:2023年9月28日(木)
取材場所:TKPガーデンシティPREMIUM札幌大通)
北海道大学大学院医学研究院呼吸器内科学教室
北海道大学病院呼吸器内科/男女共同参画推進室
古田恵先生
第2回 北海道大学病院が進める具体的な施策、
男女共同参画推進のポイント・展望
第2回では、北海道大学病院における具体的な育児支援、キャリア支援などの取り組み、男女共同参画を推進するために大切なことや、今後の課題、展望について伺います。
育児支援として3つの保育施設を整備 〜子育てをしながら働き続けられる環境を〜
男女共同参画推進室では、子育てをしながら働き続けられる育児支援に力を入れており、具体的な取り組みとして保育施設の整備があります。現在、当大学の構内には3つの保育施設があります。1つは当院内にある「北海道大学病院保育園ポプラ」で認可外保育施設です。原則として、当院に勤務する職員が利用対象となります。もう1つの「北海道大学保育所ともに」も認可外保育施設で、こちらは当院だけではなく、当大学の職員や学生も利用対象です。そして、もう1つの「子どもの園保育園」は、札幌市の認可保育施設となります。合わせて3施設ありますので、少なくとも子どもの預け先がないために仕事に復帰できないという事態は避けられていると思います。また、希望者には、札幌市内のその他の保育施設を紹介することもあり、自宅の場所など個々の状況に応じて対応しています。
また、病気の回復期に入った子どもを預かる病後児保育についても、2011年に「病後児保育室ぶらん」を開設し、専門の看護師や保育士が配置されているので、安心して勤務できる環境が整いました。病院内に設置され朝7時30分から開いており、費用面でも良心的な利用料であると好評を得ています。
子育て医師の復帰を支援する短時間勤務医員枠
産休・育休から復帰する際の支援として、2012年から「すくすく育児支援プラン」という短時間勤務医員枠が設けられました(図3)。通常の勤務とは別枠で、ご自身が専門とする診療科の外来診療などにおいて短時間の勤務を行うことができます。勤務時間は個々の事情に合わせて相談のうえで設定しており、時間外勤務や宿日直業務は行いません。原則、未就学児をもつ女性・男性の医師または歯科医師が対象で、勤務時間に応じて社会保険にも加入できます。育休後にさまざまな事情から長時間勤務が難しい医師をサポートするためのシステムですが、他の医師にとっても診療を分担してもらえるので業務負担の軽減につながっていると思います。各医局に支援プランを周知して認知されており、利用状況としては、幅広い診療科で毎年およそ計30~40人が活用しています。
他にも、妊娠中の医師や医学生に対するマタニティ向けの白衣の貸出しや、授乳室の設置など、実際に職員の希望を聞いて実現した支援策もあります。
保育や勤務形態、復職などの相談窓口を設置
ご紹介した育児支援などの具体的な制度を実際に活用してもらえるように、2015年から男女共同参画推進室に相談窓口を開設しており、保育や勤務形態、復職などに関する相談にコーディネーターが応じています。メールや電話での相談も随時受けつけており、年間およそ50件ほどの相談があります。特に、北海道大学病院保育園ポプラの入所に関しては男女共同参画推進室を通して調整しています。
キャリア支援としてロールモデルからのメッセージを発信、交流会を開催
医師のキャリア継続を支援する一環として、男女共同参画推進室のホームページにおいて、病院全体で取り組んでいることが伝わるように、全診療科の男女共同参画への取り組みを紹介しています。また、さまざまな経歴をもち当院で活躍する医師のインタビュー記事を掲載し、自分にとって参考になるロールモデルを見つけてほしいと考えています。
そして、コロナ禍で中止していますが、年に数回、医学生や研修医を対象とした「現役医師とのおしゃべりの会」を開催してきました。当院には、さまざまな専門性をもってキャリアを歩んでいる医師が多数いますので、一緒に昼食をとりながら1時間ほど、キャリアだけではなくプライベートに至るまでざっくばらんに話をする機会を設けていました。病院実習では医学生も医師も忙しくてじっくり話す機会が十分ないので、好評を得ていました。近々、再開する予定で準備を進めています。
医学生へのキャリア支援 〜多様な働き方を一緒に考える〜
医学生向けのキャリア支援として、「医学生と考えるダイバーシティの会」という講演会も開催しています。これは、北海道女性医師の会が主催し、医学生が希望する講演テーマの聞き取りや会場確保など男女共同参画推進室も支援しながら、医学生と一緒に企画を作り上げています。医学生からは、取り上げるテーマや質問内容などについて積極的な案が挙がり、講演会の実施に向けて議論が活発です。
医学生や研修医などの若手医師に話を聞くと、ロールモデルを知りたいという声が多いと感じます。医師といっても、その働き方は臨床医だけではなく、基礎研究をする医師や、産学連携で企業と共同研究を進める医師もいます。男女共同参画推進室では、さまざまなキャリアの選択肢を提示しながら、役立つ情報を発信していきたいと思っています。
個人の希望に合わせたサポートが大切
私が男女共同参画推進室での活動において大切にしているのは、性別や年代によって異なる考え方に合わせて、そして、時代の変化にも対応しながら、働く環境を整備していくことです。10年くらい前は女性医師への支援が中心でしたが、最近は女性医師だけではなく男性医師も含めて全体の支援をしていくことが重視されています。当室の名称が女性医師等就労支援室から2017年に現在の男女共同参画推進室へ名称変更したように、若い世代はもちろん、先輩方の世代でも男女共同参画やキャリア支援に対する意識が徐々に変わってきていると感じています。
アンコンシャス・バイアスの払拭を
一方で、支援の際に気をつけたいことの1つにアンコンシャス・バイアスがあります。自分自身が気づいていない無意識の思い込み、偏った物の捉え方のことを指します。例えば、子育て中の女性医師に対して、仕事と子育ての両立は大変だから、あまり働かなくてすむようにしてあげることが支援であるかのように思っていた人もいるかもしれません。しかし、子どもが小さいからといって仕事をさせないのではなく、本人の意思があれば、診療や研究を続けられる支援が大事だと思います。
今後の課題はキャリアアップ支援、病児保育、男性医師への育児支援
男女共同参画における今後の課題としては、短時間勤務制度や保育所の設置といった制度・設備面からのライフイベントへのサポートはもちろん大切ですが、上位職にも就けるキャリアアップへの支援も求められると思います。本人に診療や研究への意欲はあるのに、育児中は負担だからと気を利かせたつもりで、症例の割当てや発表の機会などが少なくされていることもあるかもしれません。
また、当院としては、病児の受け入れができる保育所の整備が課題として挙げられます。病後児のための保育所はあるものの、まだ病児への対応は進んでいません。場所やスタッフなどの問題から、すぐに解決できる訳ではありませんが、施設拡充に向けて活動を続けています。
そして、男性医師への育児支援もさらに力を入れていく必要があると思います。医学生を対象に男女共同参画に関するアンケートを実施したところ、10年以上前の同様の結果と比べて、ライフイベントを重視する姿勢の男子学生数が約2割増えていました。この結果からも、女性医師が働きやすい環境を支援するだけでなく、男性も含めて支援策を考えていくことが大切です。
さらに、若い世代に限らず、親の介護や自分自身の健康の問題など、中年の世代でも支援を求めている人たちはいるかもしれません。当事者からなかなか打ち明けにくく、表面化しにくい問題なので対応の難しさはありますが、そのような問題にも目を向けていく必要があるかもしれません。
働き方改革も見据え、持続可能な医療のために男女共同参画の推進を
2024年には医師の働き方改革がスタートし、時間外労働と連続勤務が制限されます。この動きも相まって、就労支援などを行う男女共同参画の活動に注目が集まっていると思います。特に働き盛りである子育て世代の医師の離職を防ぐことは、人員の確保からも大事なポイントです。男女共同参画への取り組みは、医療にかかわる人材を支えることによって、持続可能な医療を提供することに直結しています。
大学病院では、臨床・研究・教育の3本柱が重要な責務となっています。これらの責務を全うできるように、職員の多様な働き方を支えていくことが、私たち男女共同参画推進室の役割だと考えています。
男女共同参画への取り組みは持続可能な医療の提供につながる
~医師の多様な働き方を支える就業環境の整備~
2024年05月31日公開
北海道大学大学院医学研究院呼吸器内科学教室
北海道大学病院呼吸器内科/男女共同参画推進室
古田恵先生