公開:2026年03月30日
腫瘍内科の魅力を深掘りする
〜「研究」「教育」「診療」への取り組みと今後の展望
「腫瘍内科」は、臓器横断的にがんを扱う診療科として国内では2000年代から普及し、その多くは各臓器がんや緩和医療などを学んだ医師によって支えられています。しかし、がん診療の劇的な進歩とともに、腫瘍内科に求められる役割や育成のあり方も年々変化し発展しています。
林秀敏先生が若手として経験を積まれた時代は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が次々と開発され、腫瘍内科の黎明期と重なります。肺がんの臨床研究からスタートし、さまざまながんを幅広く診るために腫瘍内科を目指されたご経験を振り返っていただきながら、いま若手に伝えたい腫瘍内科の魅力について伺いました。
(取材日時:2024年10月15日(火)
取材場所:リーガロイヤルホテル大阪)
近畿大学医学部 内科学教室腫瘍内科部門
主任教授 林 秀敏先生
第2回 若手腫瘍内科医の教育とチーム医療における
腫瘍内科の役割
第1回では、腫瘍内科の先生方は多様な背景や専門性を持つ医師が集っていることを伺いました。第2回では、今まさに臓器横断的な学びを求めて腫瘍内科に入局する医師がどのような教育課程を辿っているのかについて伺います。また、チーム医療が当たり前となった現在、腫瘍内科医が果たす役割についてもお話しいただきます。
―一例として近畿大学病院腫瘍内科での研修について教えてください。
総合内科的なマネジメントと化学療法の知識を身につける
典型的な例として、卒後3年目から内科専攻医として腫瘍内科に在籍する若手医師には、まず病棟管理を経験していただいています。当施設では化学療法のために入院される患者さんは比較的少なく、救急(オンコロジーエマージェンシー)や緩和ケアの患者さんが多いので、まさに総合内科的なマネジメント能力が求められます。感染症治療など、内科の基本をまず身をもって学んでいただこうと考えています。
専攻医1年目の後半からは徐々に外来診療が始まります。腫瘍内科では外来診療が非常に重要で、実際に患者さんとどのように接するのか、化学療法や緩和ケアをどのように行うのかを学んでいきます。4年目は地域ローテートとして、関連施設の腫瘍内科での病棟管理を基本に本格的な外来デビューとなり、週1回の外来診療を1年間継続して担当します。
5年目からは、3・4年目で学んだことをアウトプットしていきます。専門的な手技を学ぶ、薬物治療に精通するなど、各自の目標に合わせて、大学病院で1年間外来を担当して病棟も診るとともにがんプロ*や大学院に入ってどう患者さんに接するかということを学びます。
一般的に、入局直後の2年間(卒後3・4年目)はがんのプロフェッショナルとしての技能を学び、その次の2年間はアウトプット期(同5・6年目)、さらにその次の2年間(同7・8年目)で基礎研究や臨床研究に専門性が分かれてくるということが多いです。
*がんプロ:文部科学省採択事業で、次世代のがんプロフェッショナル養成プランの略称。その中の一つである「阪神5大学サステナブルがん人材養成プラン」(https://www.med.kindai.ac.jp/ganpro/greeting.html)は、近畿大学を申請校とした、大阪公立大学、神戸大学、関西医科大学、兵庫医科大学の5大学9学部が相互連携している。大学院生などを対象に、がん治療やがん予防の進歩に加え、がん医療の高度化進歩にサステナブルに対応できるがん専門医療人を養成することを目的としている。
「相談しどころ」を判断できるようになってほしい
やはり、大学病院だけでなく、どこの病院に行っても腫瘍内科医として活躍できる医師に育てるのが最初の目標です。臨床の場で最低限の知識と経験を得て、腫瘍内科医として独り立ちできるようになるのは卒後6・7年目くらいかと思います。
しかし、すべてを一人で判断することは私であっても困難です。重要なのは、一人で突っ走るのではなくて、相談のしどころを含めて判断できることかと思います。私も肺がんなら一人で判断できても、例えば乳がんなら治療方針に関しては専門医の先生とディスカッションして、その方針に沿って自分が治療すると思います。そうした相談の判断ができるのも、大体6・7年目ではないかなと思います。
―研修のお話にもありましたが、腫瘍内科医が身につけるべき手技とはどのようなものでしょうか?
腫瘍内科医が身につけるべき手技や知識は幅広い
CVポート(皮下埋め込み型ポート、中心静脈カテーテルの一種)を含むカテーテル関連の手技は、腫瘍内科において必須の臨床技術なので必ずトレーニングしますし、他にも胸腔ドレーンや腹水穿刺などの手技があります。例えば、胸腔ドレーンはその場に呼吸器内科医がいなくても、腫瘍内科医は救急医と同様に、自分で処置できるようにしておくのが重要かと思います。実際に進行がん患者さんではこうした場面が多いからです。
―がん治療の進歩とともに、腫瘍内科医が身につけるべき知識や手技も幅広くなっているのですね。
そこを魅力に感じてくれて、当施設では初期研修医のローテーションに腫瘍内科を選ばれるケースも非常に多いと感じています。
―それでは、腫瘍内科医に求める資質というのは、そうした新しい治療を魅力的に感じてくれる人となるのでしょうか?
どなたでも歓迎します。いろいろな人がいて良いと思います。ハートの熱い腫瘍内科医がいてもいいでしょうし、非常にロジカルに物事を考える腫瘍内科医がいてもいいと思います。同じようなタイプの人がたくさんいるより、がん患者さんもさまざまですし、腫瘍内科医もさまざまでいいと思います。
腫瘍内科は様々な文化をもつ医師が融合する「合衆国」。活発に意見を交わすことを大切に
林先生ご自身は近畿大学病院の腫瘍内科について“様々な文化をもつ医師が融合する「合衆国」のような科であり、「腫瘍内科」という共通言語で溶け込んでいます”と表現されています。
―第1回でも伺いましたが、近畿大学病院腫瘍内科には実際にさまざまな専門性や考え方、目標を持つ先生方が集まっていらっしゃるのでしょうか?
そうですね。一人ひとりは考え方も全然違いますし、意見がぶつかることも多々あるのですが、それで良いのではないかと思っています。当科の伝統として、カンファレンスは教授も若い医師も関係なく活発に意見が出されることが多く、大人しいよりもむしろそういう意見のぶつかり合いを大切にしています。年齢や経験は関係ないというのが当科のルールということになりますね。
―若い先生も発言しやすい環境で伸び伸び成長できそうです。
それを心がけてはいるのですが、日本の文化としてなかなか発言しない人も多いので、そこを促していくことも大切かなと思っています。また、最近は変わった経歴の先生も増えてきまして、地域で10年以上も総合診療医として活躍されていて、「地域医療にもがんは大切だから」ということで当科に学びに来てくださった先生もいます。経験豊富なので、むしろ我々が内科的なことをその先生から学ぶこともできます。そうしたWin―Winの関係を辿れれば理想的ですし、それぞれの違いを楽しむ、勉強できるという雰囲気作りに力を注いでいます。
―多様な個性の先生が集まっている大学病院の腫瘍内科で、ここだけは基本として押えてほしいという方針はありますか?
やはり一つは研究です。研究なしに進歩はありませんので、常に研究のことを考えるといったことでしょうか。たとえケースレポートであっても、特殊な患者さんのケースでは、世界のどこかにそれが役に立つ人がいる可能性もあります。そういった姿勢で論文作成をしていくことは常に重要だと考えています。
チーム医療における腫瘍内科医の役割
がん診療は多職種チームで取り組む時代。患者さんにとっての腫瘍内科医、そしてチームの中での腫瘍内科医のあり方について伺います。
―診療に対する姿勢として心がけていることは?
ルーティンワークで安心しない。内科医として診断も治療もロジカルに
患者さんが多いので効率良く診療することは大切ですが、ルーティンワークになってはいけません。患者さんや病気は時々刻々と変化するものです。よく「この治療ならばスクリーニング検査として○○と○○をしましょう」というものがありますが、私が嫌うのは、それをしただけで安心して、ルーティンワークになってしまうことです。やはり目の前の患者さんを診て、変化の兆しを捉えた上で、「なぜ今、この検査が必要なのか」という明確な根拠を持って治療を進めていくことです。
ただ、患者さんの中には「とにかく全部やってくれたほうが安心できる」という方もいらっしゃいます。しかし、検査をすれば診断精度が上がるというものではありませんから、まず病歴や身体所見から「検査前確率」を論理的に導き出し、その上で必要な検査を厳選すべきです。内科医として、診断も治療もロジカルに考えることが一番重要ではないかと思います。
内科は深くあるべきで、化学療法も、決してマニュアル通りに「片手間」にこなせるものではありません。診断から治療に至るまで、常にロジカルに考え抜くこと。それが内科医としての矜持ではないかと考えています。
―林先生は、2017年に診療科横断的なirAE対策チーム「imNET」を立ち上げられたと伺いました。その経緯を教えてください。
副作用の種類が幅広いirAEは診療科横断的に共有し対策していく
分子標的薬の副作用は比較的シンプルで勉強しやすく、頻度もあるので経験も重ねられますが、免疫チェックポイント阻害薬の副作用は頻度が少ない割に種類が幅広い反面、医療者が経験しにくいのは課題です。単純に考えても、1%の副作用を診ようと思ったら100人の患者さんを診ないといけません。そうした希少な副作用が何十種類とあるわけですから、事例共有がとても大切だというのがimNETを立ち上げた理由の一つです。
もう一つの理由として、がん患者さんに関わることが少ない診療科とも連携する必要がありました。irAEの対策は腎臓内科、神経内科、代謝内科、循環器内科などとも進めていく必要があるので、月に1回ケースカンファレンスを開いて他科の先生方と顔の見える関係を築いておきたかったのです。始めたときはまだirAEの認知は薄かったかもしれませんが、今は医療の流れに伴って関心を増していただいています。
実際に、irAEの副作用は自己免疫疾患に似た状態になるため、自己免疫疾患の抗体薬を使うので、その点でわれわれは他科の先生から教えていただくこともあります。ただし、類似していても完全に一致しているわけではないため、神経内科や代謝内科の先生方も実際の事例を見て学ばれているところがあるのではないでしょうか。患者さんから学んだことを自分で抱えるのではなく、みんなに広めることがこのカンファレンスのもっとも重要な役割だと思います。
―具体的にはどのような話し合いをされるのですか?
どういった治療をしたのかということと、うまくいった点、いかなかった点を共有して
専門家からの解説を加えます。紹介する副作用に関連した診療科の先生に出席していただきます。参加者も10人程度から何十人まで各回によってまちまちですが、とにかく閉ざさずに続けることが重要です。今は若い先生たちが主導して開いてくれており、何よりも顔の見える事例共有を第一に考えています。
―治療方針を決めるにあたって、患者さんや多職種とのコミュニケーションも大切にされていると思います。若い先生にはどのように教育されていますか。
チームはそれぞれの専門家の集まり。まずは「聴く」姿勢を大切に
近年、Shared decision makingという言葉が普及しました。医療者はプロとしての考えを伝えなくてはいけませんが、当然患者さんの希望も聴く必要がありますし、だからといって患者さんに丸投げになってもいけません。そこでがんプロでは、がん体験者の方に参加していただいて多職種演習をするSP(Simulated Patient)研修プログラムを用意しています。
多職種の中では概ね医師がリーダーの立場になりますが、医師が一番偉いわけではなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、さまざまな専門性を持っているメンバーがいます。それぞれの立場がその責任を持って意見するのを、いかにまとめることができるのか。それも医師の力量だと思います。
私の今までの経験でも、がん専門の看護師さんなど自分よりずっと知識のある人がいらっしゃいました。昔なら最後はとにかく医師に聞けばなんとかなるというような発想もありましたが、今はそうではありません。地域連携で在宅医療に橋渡しする際にはがん相談室にお願いしていますし、薬物の相互作用などの知識は薬剤師に頼ります。それぞれ専門のメンバーに任せることも必要です。
―多職種チームとして連携するうえで大切なことは何でしょうか?
それは、「人の話を聴けるかどうか」ということだと思います。自分の言うことは絶対だと主張だけするのではなく、相手方の意見をしっかり聴くという姿勢です。時には自分の意に反した発言もあるかもしれませんし、気持ちを揺さぶられてムカッとすることもあるかもしれません。でも「聴く」ということが重要なのだと思います。
―腫瘍内科医として他にはどのようなコミュニケーションスキルが必要ですか?
Bad News(悪い知らせ)の伝え方というのはプロの仕事だと思います。これはがんプロの中で指導していますし、がん診療の教育には不可欠だと思います。オブラートに包めばいいというものでもなく、理解してもらわないといけないという点でも難しい。もちろん、悲嘆や拒絶といった反応が起きますから、それをいかに受け止めるかも重要です。昔なら病名を告知しなかったり、「治るかもしれない」と真実でないことを言ったりしたかも知れませんが、それは誠実に対応していないということになります。われわれがBad Newsを含めてしっかり伝えるには、やはり技術が必要です。腫瘍内科医はBad Newsを伝える場面がより多いので、そういった技術が一層重要だと思います。
がんとともに生きる患者さんが増えた今、腫瘍内科医は長きにわたって患者さんと接し、関わる場面も多くなったと思います。患者さんとのコミュニケーションスキルは大切な要素かもしれません。
―終わりに、若手医師へのメッセージをお願いします。
今後、がん患者さんが増えて、腫瘍診療がさらに必要になるということは、私が言うまでもないと思います。内科診療は、外科手術や放射線治療に匹敵する重要な診療です。薬物治療をはじめとして、がん患者さんをサポートする診療は簡単なことではありません。やはりプロとして専門性をもって取り組むということが大切です。米国ではMedical Oncologyは非常に人気の高い内科として確立されており、日本でもだいぶ広がってきました。こうした流れの中で、腫瘍内科という魅力的な領域にぜひ足を踏み入れてほしいというのが私の願いです。
薬物治療の進歩に伴い、難しい病気であるがんを治療し、患者さんの人生を支えるやりがいはますます大きいものになっているのではないでしょうか。研究・臨床の両面において今後もさらに存在感の高まることが期待される腫瘍内科に、これからの若い先生方もきっと魅力を感じることと思います。
林先生、ありがとうございました。
腫瘍内科の魅力を深掘りする
〜「研究」「教育」「診療」への取り組みと今後の展望

2026年03月30日公開
近畿大学医学部 内科学教室腫瘍内科部門
主任教授 林 秀敏先生



