公開:2024年10月11日

医学会活動を通じてがん医療に貢献するために
〜がんプロフェッショナルの育成をめざして

医学会とは同じ志を持つ医師たちの組織であり、最新の知見が集まるだけでなく、新進の教育を担ったり、専門家の総意をまとめて世に発信したりと、さまざまな側面から医療を支えます。

土岐先生は日本癌治療学会、日本食道学会の理事長、またそれぞれの学会で将来計画委員長、将来構想検討委員長など要職を務められ、アカデミアを代表する立場として国の会議にも参加されています。第1回では学会がどのようにがん医療に貢献しているのかについて、第2回では、がんのプロフェッショナルを育成する上でのお考えや若手医師へのアドバイスについて伺っていきます。

(取材日時:2023年6月13日(火) 
取材場所:千里阪急ホテル)
大阪大学医学部医学系研究科 外科学講座消化器外科学
教授 土岐 祐一郎 先生

第2回 がんプロフェッショナルの育成を目指して

若手医師ががん医療を志望するにあたり、どのように学び、キャリアアップしていけばよいのでしょうか。第2回では、外科医の育成や学会参加で得られるメリットなどについてお話を伺います。

―若手外科医の育成や専門性への考え方についてお聞かせください。

大阪大学消化器外科の外科医育成方法

● 外科医の魅力~自分の手で治療したという実感の強さ

外科を選択する医師は、まず手術に興味を惹かれて入局する人が多いですね。そこで良性疾患から経験を重ね、次のステップとしてがんの手術に取り組んでいきます。がん手術の成功体験を積んでいき、症例を重ねるうちに再発や手術不能な患者さんを診るようになり、がんという病気の重大さを実感し、さらに知識を深めるべく研鑽していく過程を経ていきます。手術が成功すれば外科医として自分の手で治療したという実感がありますし、患者さんに感謝されることがモチベーションに繋がっていくと思います。

● 専門の細分化とその課題~新たにスタートしたサブスペシャリティ制度に期待

私が外科医になった頃は、診断から看取りまでを一人の医師が診る時代でしたが、今は診断、手術、化学療法、ターミナルケアなど専門医の細分化が進んでいます。しかし、外科医は手術をしつつ抗がん剤の知識も持たないと患者さんにとってのより良い治療選択ができません。手術も執刀し、抗がん薬も処方するという外科医はどのがん種でも多いですが、どちらか一方に偏ってしまうわけにもいきません。そのバランスを取ることは非常に難しい気がしています。

2022年度からは日本専門医機構が認定する専門医制度が始まりました。外科専門医としての基本領域に加えて、例えば消化器外科や放射線診断などのサブスペシャリティ領域を習得するという形がうまく稼働することを期待しています。特に、専門医の少ない化学療法とターミナルケアに人材が集まると有り難いです。

● リアルの体験を積み、生き生きとした先輩の後ろ姿を見て成長を

国内外での研修制度を利用して他施設での手術を経験し、第一線で活躍する医師に直接教わることで、志を新たにする人もいるようです。今の若い人はバーチャルの世界に慣れているようですが、その分、リアルの体験では小さなことでも心に響くような傾向もあると聞いています。できる限りリアルな経験をしてもらえるように、当施設でも実習や見学の機会を設けるようにしています。

若い研修医を育成している中で、彼らには身近な存在の雰囲気がとても大切だと感じています。3~6年程度上の先輩医師が、いかに生き生きと取り組んでいるか。そうした先輩の姿を見せることが一番モチベーションアップに繋がっている気がします。

―がん医療の専門家を目指すにはどのような教育プログラムがあるのでしょうか?

日本癌治療学会の教育プログラム

学会にとっては若手の教育も重要な使命です。例えば日本癌治療学会では、教育委員会ががん医療の専門家を育成するための会員教育について検討し、若手のためのプログラムを企画しています。教育セミナーは年1回開催、教育セッション・教育シンポジウムなどは学術集会時に開催しているほか、医師だけでなく薬剤師、看護師など医療従事者向けのアップデート教育コースも年2回WEB開催しています。

全国11カ所が拠点“『がん専門医療人材』(がんプロフェッショナル)養成プラン”

大阪大学は全国がんプロ協議会による「多様な新ニーズに対応する『がん専門医療人材』(がんプロフェッショナル)養成プラン」の11拠点の1つとなっています。がんプロフェッショナル養成プランとは、がん医療を担う複数の大学がそれぞれ個性や得意分野を生かして連携し、専門的人材養成の拠点を構築することを目指して文部科学省が基盤となっている取り組みで、全国各地域が独自のテーマを掲げて活動しています。大阪大学を拠点とした連携6大学(京都府立医科大学、奈良県立医科大学、兵庫県立大学、和歌山県立医科大学、森ノ宮医療大学)は「ゲノム世代高度医療人の養成」をテーマとし、ゲノム医療に基づくがんの診断・治療や希少がん・小児がん、緩和ケアなどに関わる人材を育成しています。

今日のがん診療は多職種のがん専門家がチームとして連携し、より質の高いがん医療を提供していく必要がありますから、当養成プランにも医学物理士や細胞検査士などなどさまざまな職種が参加しています。例えば、がんリハビリテーションの専門の理学療法士が足りないということも全国でよく耳にします。医師以外の職種も“がんプロフェッショナル”が増えてくれることを期待しています。

全国がんプロ協議会HP
http://ganpro-z.jp/

「ゲノム世代高度医療人の養成」HP
http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~osaka-ganpro/

―がん専門医を目指すにあたってのアドバイスをお願いします。

がん治療の専門家を目指す若手医師へのアドバイス

● 専門領域の論文をしっかり読み込もう

専門家である以上、自分の領域についてはしっかり論文を読み込んでください。ガイドラインの基となった論文はもちろん重要です。ガイドラインはそのエッセンスをまとめたものですから、ガイドラインを読むだけではガイドライン通りの治療しかできません。サブグループ解析も含め、根拠となった論文をしっかり読み込み深く理解することで、治療の考え方や向き合い方が広がるはずです。

臨床試験に参画する機会が少ない環境にいるとしたら、論文を読むことが特に重要かと思います。自分で臨床試験に参加する機会はなくても、論文を読み考察することで学ぶことができます。

● 学会に参加してリアルワールドのデータに触れよう

学会発表はリアルワールドのデータに触れられる貴重な機会であり、どのような施設に所属している人でも、学会にはある程度参加することをお勧めします。1つのシンポジウムに参加すれば大小様々な規模の施設の発表があり、リアルワールドのデータを肌で感じることができます。自分たちの診療がどれくらいのレベルなのかを実感できますし、身近な施設の発表を聞いて、同じようにやってみようと意欲が湧くこともあると思います。若手医師であれば目標とする医師に声をかけてもらうのも励みになるでしょうし、他施設の同世代と知り合うことができるのも学会参加のメリットです。

コロナ禍の学会開催はWEB開催が中心でしたが、リアルの開催に戻りつつあります。しかし、オンデマンド配信という形は継続しそうです。現地に行けなくても参加することが可能になったことで、コロナ禍では逆に参加者は増えました。今後もオンデマンド配信があることで学ぶ機会が増えるのはメリットだと思います。

● 学会は同じ志を持つ仲間が一堂に会し、医療の発展に不可欠な場

学会の意義は、全国各地に分散している同じ方向を目指している仲間、つまり志が同じ仲間が一堂に会する場であるということです。志を同じくする人達が集まり、課題を解決するために議論するのが学会の本来の姿なので、医療の発展のために必要不可欠な場と言えます。自分の専門ができたら専門領域の学会には自然と入るようになると思いますし、ぜひ必要な学会に入って欲しいです。一つの学会に絞らず、複数の学会に入って知見を広げてみてもよいのではないでしょうか。

学会の委員会活動などへ参画することになれば、世界が広がり、自分が医療を創っている実感も持てるでしょう。ガイドラインの委員会や雑誌の編集などは、その領域の治療体系について重要な物事を取り決めたり、情報発信を担ったりという責任と喜びを感じることができる数少ない貴重な場だと思います。

―学会を代表する要職を経たご感想や今後の展望をお聞かせください。

私自身もまだまだ勉強中と思っていますし、本当に常に勉強しかありません。第1回でお話ししたがん対策推進協議会をはじめ、いくつかの国の委員を任されていますが、ようやく今、がん医療の全貌が見えてきたような気がしています。外科を専門とする私がさまざまな委員会などに参加することで、行政や製薬企業、基礎研究者など、たくさんの人の手によって医療が成り立っていることを実感しているところです。

今後の展望としては、消化器外科の後進の育成があります。自分の若い頃を思い返してみても、数年上の先輩たちが生き生きとしていた姿を見ることが励みになっていました。研修医にそうした姿を見せられるよう、若手医師たちが前向きに活動できる環境を作ることに重点をおいて取り組んでいきたいと思います。

各所でアカデミアの代表を務められている土岐先生から、学会の意義や参加のメリットについて伺うことができました。

先生ご自身も日々勉強中であるとお話しされていましたが、治療の進歩も早く、めまぐるしく変化するがん医療においては、そうした姿勢が特に大切なのかもしれません。学会や大学間では専門人材を育成するためのさまざまなプログラムが企画されています。学会や大学の人材育成の活動が若い先生方のさらなる成長につながることを期待しています。

土岐先生、ありがとうございました。

医学会活動を通じてがん医療に貢献するために
〜がんプロフェッショナルの育成をめざして

土岐祐一郎先生

2024年10月11日公開
大阪大学医学部医学系研究科 外科学講座消化器外科学
教授 土岐 祐一郎 先生

土岐祐一郎先生